【ショートストーリー部門】中間選考作品

海をこぼせば

海をこぼせば

著・森久上水

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894895085


 上京から数年後、久しぶりに姉妹で海へ行き、海水が魚へと変わる不思議な出来事を目撃するメルフェンチックな物語。


 少し不思議な、現代ファンタジー。

 作品の雰囲気は悪くないし、海水から魚となる描写などもいい。

 文章の一文字あけ云々には、ひとまず目をつぶろう。

 一文が長すぎるところがある。あえてそうしているならいいけれど、句読点で区切って短くしたほうがいい。書いたものを音読して、おかしくないか推敲してみたらどうだろう。

 主人公は、久しぶりに帰省した姉をみて「雰囲気がなんとなく違っていた」と感じ、「表面は相変わらず天然でだらしないように見えても時折まるで別の姿が覗かれて俯き加減の顔が更に強い闇を抱えるのだった」と語っている。

 その言葉のあとで、姉は情けない声を上げたり窮屈そうにベンチに座るのをみて「私地面でいいよ」と遠慮気味に提案して他人のような言葉を吐いたり、「地球には空に水をこぼさない不思議な力が宿ってる」と昔からの口癖をいう場面が続く。

 姉の変わった様子をみて「雰囲気がなんとなく変わった」と感じ、昔からの口癖を聞いて「変わってない姉」に安堵する流れにしてはいかがだろう。

「裏庭から続く海への獣道は懐中電灯をつけないとつまずいてしまう」とあるので、歩いて海にいけるほど近くに住んでいるのがわかる。外灯もなさそうなので、島に住んでいるのかもしれない。

 姉は「東京には海がない」というけれど、江戸川区にある葛西臨海公園は東京湾に面しているし、江東区には東京ゲートブリッジを渡った海上公園の若洲海浜公園や江東区立若洲公園がある。他にも、港区のお台場海浜公園や大田区の受難島海浜公園など、東京にも海がある。もちろん、東京都の区域内に伊豆諸島や小笠原諸島があるのだから、東京には海がある。

 姉のいう海は、そういう意味ではないのだろう。

 住んでる場所に海が見えない、あるいは子供の頃に慣れ親しんだ身近な海がない、ということか。

 姉の「東京に海なんてない。けど、うまく泳いで行かないといけないの」「枯れ果てた乾いた海をみんながんばって泳いでる。人波を掻き分けて、毎晩眩しいぐらいに光ってる歓楽街に晒されて」というセリフは、実感がこもってて良い。

「この海、東京まで持って来れないかな」

 姉の一言のあと、海の水が空を覆い、海水が魚へと変わっていく。海水からなる水クジラが東京上空に何匹も現れ、都市部を水浸しにしたニュースが流れる。

 電話から姉の「明るい笑い声が聞こえた」のは、不思議な海の出来事のおかげなのだろう。

「随分と明るい笑顔だった」とある。携帯での会話では顔は見えない。それともテレビ電話かラインなどのビデオ会話なのか、書かれてないのでわからない。

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