☆大賞☆ たんぽぽ娘

たんぽぽ娘

著・朔(ついたち) 

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921648523


 四年一組の仲間たちが十年後、二分の一成人式で埋めたタイムカプセルを掘り返す中、亡き友・白木蓮のことを思い出す蒲公英の物語。


 映像にしたとき、冒頭の「白木蓮はわたし達を待っていた。十年前と何も変わらない佇まい」のところで、白木蓮の花が咲いている木がみえると思うので、「しらきれん」のルビはない方がいい。

 白木蓮の開花時期は三月上旬から中旬。タイムカプセルを開けた時期はその頃だと読み取れる。

 自己紹介をかねた回想が途中からはじまる。担任に頼まれてプリントを白木蓮の家に届けに行く話がはじまり、読んでいていささか戸惑ってしまう。回想に入るところでもやっとした。

 小学生時の回想パートだけを読んでいると、角川つばさ文庫の児童書が浮かび、よく書けた文章だなと思った。

 女性を花にたとえる質問のやり取りや二分の一成人式の日程が、老い先短い蓮のおじいちゃんのわがままであるところなど、布石を作っている。

 老い先短いに強調のルビがついている。子供に老い先とはつかわないので、ここは素直におじいさんへの強調だろう。

 タイムカプセルにステンレスのせんべい缶を使い、ガムテープでぐるぐる巻きにされていたが「劣化してベタベタ」になっていると書かれている。

 気密性保持にビニール袋やガムテープできっちりとめてもほとんど効果がないことは知られている。温度変化により内部気体は収縮と膨張を繰り返し、その際外部から湿った空気や水分を取り入れる傾向が埋設十年続くのだ。三年くらいなら無事な可能性は高いかもしれないが、十年だと中に入っていたものは劣化してしまう。その様子が会話から垣間みえる。

「僕の好きなもの、白木蓮」と書かれた茶筒の中に、蒲公英の綿毛がはいっていた。主人公の名前の字面と同じ。綿毛が吹き上がり十年越しに知る彼の思いと、あの頃の主人公の中にあった気持ちの正体に気づく。

 印象的なシーンだけど、湿気っていて吹き上がらないのではと邪推してしまう。茶筒に乾燥剤が入っていたら、あるいは保持されて吹き上がるかもしれない。

 細かいことはいいんだよと作中で許してしまうと、どんなご都合主義もまかり通ってしまい、感動が薄れてしまう。

 とはいえ、ラストはご都合主義でもいいのだ。

 ロマンチックなお話を書きたいなと思えた。

 

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