第◯話 変態、感度を高める

「【英雄】などと大それた魔導器を取り出してきたかと思いきや……」

 全身採寸ボティスーツを摘むように受け取る椿。

 唆る肉体を所有しているにもかかわらず、性的興奮を覚えさせるものが本当に苦手なのな。

「なんだ? もしかしてネーミングだけで期待していたか? 英雄とはヒーロー。HEROと書く。HとEROだ。色欲を司る俺にピッタリだと思うんだがな」

「くだらん! 実にくだらない! 聞くだけで鳥肌が立つぞ。お前の首は必ず私が跳ねてやる。覚悟しておけ」


「受けて立つさ。それとボディスーツを着用するときには下着を穿くなよ」

「はっ、はぁ〜⁉︎」

「もちろんスーツには股布クロッチはねえぞ」

「死ね!」

 

 黙っていれば品がある椿が露骨な言葉を口に出す。

 ギンッと鬼の眼光を飛ばしてくる。けけけ俺の勝ちだな。

 もちろん決闘はいつでも大歓迎だぜ。なに特待生に残している鬼畜度は想像を遥かに凌駕するからな。

 お前らは性的興奮を覚えさせるためだけに翻弄されることだろう。


 俺は続いて【影姦遮蔽】を発動する。

 生着替えを観賞してもいいんだが、俺は沸点の限界、超えてはならない一線を突くのが趣味だ。

 

 水着披露のときと同じく女特有の丸みを帯びた——凹凸のある曲線美を堪能させてもらおう。


「こっ、これを身につけるのか……はぁ。私は一体何をしているのだ」


 カーテンの向こうで全身採寸ボディスーツ——全身タイツを広げて視認したんだろう。

 

 本日最大級の重たいため息だった。


 ☆

 

「いっ、いくらなんでもこれは……!」


【影姦遮蔽】を解除すると【英雄】を着用した椿が姿を現した。

 胸の先端を片腕で、局部は鞘で隠している。

 顔全体が紅潮。スーツで見えないが怒りと恥辱から全身が真っ赤になっていることだろう。

 肉体に密着するスーツのため、曲線、ボディライン、凹凸が鮮明だ。くっきりである。目が眼福すぎる。

 肌色が一切見えていないのに全裸より逆に男を惑わせるという……水着&下着新調といい、合宿は最高だな。


「…………えっろ。どちゃシコスーツで講師を誘惑とか、はしたない女だな」

「斬る!」


 ——チンッ、

 と。

 刀を鞘に納めた音。

 

 いよいよ堪忍袋が切れた椿が抜刀術【雷神】を発動する。

 感情整理術を会得しつつあるとはいえ、全身タイツを穿かされたあげく、挑発まで耳にすれば手も出るか。

 余談だが、二年前の特待生、すなわち紫蘭のときもだった。


 いくら明鏡止水を体現したような存在とはいえ、キレるときはキレる。あの氷鬼でもだ。意外だろうがな。

 まして修行のときには尚更。毎度のことときた。だが、決闘になった途端、人が変わったように動じなくなるのだから、間違いなくあいつは天才剣士の一人だ。


「ぷぷっ。馬鹿の一つ覚えかよ」

「〜〜〜〜っ! これ程までに己の未熟を呪い、死にたくなったのは初めてだ!」

「そりゃあ良かった。これからお前のありとあらゆる初めてを奪ってやるよ。それが嫌ならさっさと強くなって俺を殺すことだな——魔導器【双頭筆蜂そうとうふでばち】!!!!」


 続いて具現化するのは槍。双頭刃式。

 ただし、本来両端にあるは刃はない。蛇頭を模した先から筆の毛先が顔を出している。

 俺はそれを上下左右、慣れた手つきで回転させながら身体に馴染ませていく。

 

「一度しか言わないからよく聞け。『羞恥乱舞II』の全貌を明かす。これからお前には全身採寸ボディスーツに記録された流派を一つずつ選んでもらう。不自然な動作、無理な体勢、悪癖、そういったものを感知すると電流が流れるようになっている。痛みが走るから覚悟しておけ」


「痛みに耐えることには慣れている。説明を続けてくれ」

「流派習得のために必要な相手は俺が引き受けてやる。だが、刀が苦手でな。専門は槍なんだよ。お前は身体で覚える流派をただぶつければいい。もちろん加減は要らない。本気で殺しに来い。ぜんぶ捌き切ってやるよ」


「ほう。言ってくれるではないか」

「目標とする流派を習得した頃には、本来の『羞恥乱舞』——感情抑制もより磨きがかかっていることだろう。そうなれば属性魔術だけでなく、セラと同じように【色欲】の禁書に触れさせる。だ」


「課題は山積みだな」

「ああ。無限一刀流なんて言っているが、当然使い捨てにする流派、覚えられる数には限りがある。だからこそ手離すこと前提のそれに付加価値を乗せる【色欲】の魔法は必須。やらねえといけないことは多いぞ」


「わかっている。さっさとやるぞ」

 ヤル気満々じゃねえの。


 ☆


 槍はいい。槍は。

 特筆すべきは領域の広さ。

 届く範囲リーチが圧倒的に長い。


 さらに遠心力を味方にすることができる。それが乗った一撃は当然重くのしかかるわけだ。

 まして相手が刀となれば捌くだけでも一苦労だ。

 俺の特性の魔導器【双頭筆蜂】は両端こそ筆だが、槍には『突く』『投擲』という用途まである。


 慣れていないどころか、一から習得する流派相手に遅れなど取ろうはずがない。

「痛っ……!」

 流派に合わない無茶な筋肉の使い方をした椿の全身に電流が疾る。矯正には電気の痛みが最も効率的だ。

 流派に沿わない動きをすれば痛みを覚えると条件反射により気をつける。


 宣言通り、椿の新たな流派を捌く俺は【双頭筆蜂】の真価を発揮させることにした。

 隙だらけの椿——全身採寸ボディスーツにより主張が激しい胸の先端を回転そのままに筆で撫でる。


「ここだ!」

「やぁっ!」


 筆が触れた次の瞬間。鬼とは思えない桃色の喘ぎを漏らしてしまう椿。

 なんだお前、そんな色っぽい声を出せるのか。ベッドの上で鳴かせるのが楽しみになってきたじゃねえか。


「きっ、貴様……!」

 目を潤ませながら、キッと睨み返してくる。

 さてと。それじゃ鬼畜発言と行きますかね。

「ちなみにこの筆槍。同じ部位を撫でられると感度が高くなっていく。そのうちお前は立っていられなくなるぞ」


 椿の表情に絶望が色濃く反映されたのを俺は見逃さない。

 まだまだガキだなこいつも。

 対照的に俺は超高齢者だからな。もっと敬えってくれてもいいんだぜ?

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