第42話 変態、水着姿を審査する
「できれば日が落ちてからの方がありがたいのだけれど」
とセラ。日焼け防止のサングラス、麦わら帽子を被りながら忌々しげに言う。
学院の金で豪遊+水着肌色祭りで浮かれているのはどうやら俺だけらしい。
「……ナイトプールもありだが、せっかくのリゾート地だ。海は外せねえだろ。そんなに嫌なら不戦敗ってことにしてやろうか?」
それが意味することを指で現して(すなわち卑猥に動かして)やると露骨に嫌そうな顔をするセラ。
余談だが、爵位の高い吸血鬼——いわゆる貴族たちは陽光で焼滅することはない。
せいぜい弱体化だ。
消滅してしまうのは吸血鬼でも格下たちとなる。
「……はぁ。傲慢な態度を取った代償ね」
そうだな。なにせこの展開は全て俺の想定通り。
復讐を誓うお前なら新たな【黒血術】と聞けば抜け駆けするだろうと確信していた。
だが甘い。こっちには特待生の性格、正体、特徴を叩き込まれているメスガキ秘書がいる。ロゼならセラの『仲間を出し抜く』傲慢を必ず見破ると踏んでいた。
そうなればこっちのもの。元々は個の象徴、特待生だ。血の気盛んな年頃に加えて互いが好敵手でもあるわけで。
頭では一つにまとまった方が良いとわかっておきながらもそれができない状況の出来上がりだ。
いやー、若いね。アオハルだねー。
「さて、と」
俺は指を鳴らして講師教員の正装からアロハシャツと短パンに着用。【仮装自在】の限定発動だ。
俺の早着替えにセラ、椿、ロゼ、ルナがぎょっとする。
いよいよ鬼畜合宿が始まる。不安、緊張、後悔、焦燥……。彼女たちの胸中は大荒れだろう。心中察する。
「これまでの態度から俺が教え子に甘い性格だってことはお前らも熟知していることだろう」
「どこがよ」「どこがだ」「どこがですの」「どこがだっての」
ジト目で射抜いてくる特待生たち。おいおいお前ら本当に学ばねえな。そういう呆れや軽蔑が入り混じった視線は大好物だっての。
俺にとっちゃご褒美だぞ?
「学院——
「えっ⁉︎」「本当か⁉︎」「本当ですの⁉︎」
チカラを求める理由は前から復讐。共闘。再起。
セラ、椿、ルナだ。いやはや扱いやすい教え子だぜまったく。
一方、ロゼは冷静だ。人参をぶら下げられた雌馬共を「あーあ、また乗せられているわ」とでも言いたげな表情で傍観している。
「セラ。まずは褒めておこう。流石だ。主席合格は伊達じゃない。お前の弱点はチカラを追い求めるあまり基礎を蔑ろにしがちな点だった。そこに気が付き、俺の言いつけを守り、土台を固めてみせた」
「……ふんっ。当然よ」
なんだ傲慢吸血鬼。お前、照れるのか。可愛いじゃねえか。
「吸血鬼の基本戦術『静動』、結界魔術の緻密操作——【固有領域】の克服。お前は次の段階だ。具体的に言おう。【色欲】の禁書に触れてもらう。新たな【黒血術】だ」
「貴方と同じように魔法を発動できるようになるということかしら」
「それはお前の精神力次第だ。下手すりゃ脳が焼き切れる可能性もある。むろん、そうならないように俺がいるわけだが」
「【色欲】の魔法。そのチカラがあればあの女に——」
自分の世界に入り込むセラを横目に説明を続ける。
一呼吸してから、
「椿。朗報だ。お前の魔術を発動できない理由について目星がついた」
「なにっ⁉︎ ならば今すぐ——!」
「落ち着け。お前は何を聞いていた。そこの傲慢吸血鬼が基礎を
取り乱したことを自覚し、頬を紅潮させる椿。いやあ、いいね。朱色に染まる女は大好物だぜ。
「お前は『羞恥乱舞II』に移行する。癖を徹底的に把握し、型を外せるようになったタイミングで魔術習得に入る。適性属性は『火』『雷』。前者はセラ、後者はルナ、監修はロゼ、お前だ」
「ええっ⁉︎ 聞いてないんですけどー!」
ロゼが困惑する。
メスガキのこの反応は単に聞いていない、ということだけじゃない。
椿はこれから適性属性を発動することになる。ここで変な癖がつけば、その矯正は想像の数十倍以上、厄介になる。
『火』はセラが、『雷』はルナが特待生でも群を抜いて操作が上手い。
どうせなら一流かつ一蓮托生である仲間から教わる方が良いだろう。
監修にロゼを噛ませたのは、初心者である椿と天才であるセラとルナの指導を良い塩梅にするため。
ロゼ本人はまだ無自覚だが、こいつには教員としての才覚がある。でなければ特待生の弱点克服メニューを起案し、実行。
でなければ個の象徴をまとめ上げ、俺を降すことなど不可能だ。
つまりロゼの困惑には「責任重大なんですけど!」も含まれているわけだ。
けけけ。俺は俺にとって役得である特訓——『羞恥乱舞II』』だけする所存。
面倒なことは全部ギャル魔女に振ってやる。
「具体的な内容はそのときに説明する。ルナは引き続き高等土魔術が先決だ。完了したら【色欲】の禁書に触れさせる」
「わかりましたわ」
正直に言えばルナの『色違い』は鬼門だ。
セラの場合、復讐に全てを捧げる覚悟が確固たるものだ。
チカラのためならば全て捨てることができる。
だが、ルナは良くも悪くも蓋をしてやがる。負の感情を完全な制御化に置けていない。つまり精神があやふやだ。
この状態で禁書に触れると成功しない可能性が高い。さて、どうするか。
まあ、時間が解決してくれるだろう。
俺は俺らしく刹那に生きると決めているしな。
てなわけで、お楽しみ。生着替えと行きますか。
〈【色欲】『恥辱』のため、魔法の発動条件を確認〉
名付けて、
「結界魔法【
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