第41話 変態、リゾート地に到着する陰で

 ——アヴァロン島。

 歴代アーサー王が眠る王墓。その第三禁域にて。

 闇の中で一人の女が微笑んでいた。

「八代目、十二代目、二十三代目アーサー王ここに眠る——こんなに簡単に聖遺物が手に入るなんて。拍子抜けもいいところよ」

 漆黒のドレスに身を包む女——その容貌は第十六位始祖を思い浮かばせる。

 

 現在進行形で墓を荒らしている——それも歴代アーサー王——にもかかわらず罪の意識がない様子。

 彼女の正体はリア・スペンサー。

【強欲】の魔法使い。第二位始祖。神に近い吸血鬼。世界最高峰の死霊術師——。

 第十六位始祖、セラの姉であり彼女の家族を抹殺した大犯罪人である。


 現下、頻発している魔術師の墓荒らし。

 その主犯格は何を隠そう彼女であった。

 死霊術師にとって死者蘇生は永遠の命題。ただし、それには当然〝触媒〟が必要となる。


 現代では死体を触媒に死者蘇生を試みることは禁忌タブーとされており、またかつての天才魔術師たちは例外なく挫折を味わってきた。

 死んだ人間、魔術師は蘇らない。

 それがこの世界の常識。限界。真理。


 大罪を犯してまで魔術師の死体——触媒を入手し、さらには数多の魔術師を挫折させてきた命題に挑戦することは無謀を通り越して、狂気の分類に当てはまる。


 故に歴代アーサー王が眠るアヴァロン島といえど、その警備は残念ながら手薄と言わざるを得ない。

 あらゆる機関から追われる立場——指名手配になってまで得られる遺物に価値がないからだ。


 リア・スペンサーが八、十二、二十三代目アーサー王墓に辿り着いてなお、駆けつけることができたのは【円卓の騎士団】副団長一人である。


「よもや歴代アーサー王の聖遺物欲しさに禁忌を犯すような大馬鹿者がいたとはな。警告だ。それ以上奥に進むなら貴様の首と胴体は一瞬にして切り離されると思え」


 ゆっくりと【円卓の騎士団】副団長に振り返るリア・スペンサー。

 その美しすぎる容貌には余裕の——それでいて楽しそうな微笑。

「ふふっ。ようやくのお出ましかしら。あまりに簡単すぎてむしろ退屈をしていたところなの。ちょうど良かったわ」


「貴様……!」

「同情するわ。秩序と治安を司る【円卓の騎士】は人手不足だものね。王墓の護衛すらを配置できていないのが何よりの証拠。でも軽率な判断じゃないかしら。死霊術師に死者蘇生は不可能——その油断が根底にあるのでしょうけれど……何百年前の常識を鵜呑みにしているのかしら」


 リア・スペンサーの纏う雰囲気がより一層禍々しいものになる。

 気圧された【円卓の騎士団】副団長が剣を構える。


「……っ! 最終警告だ。出頭しろ。でなければ——」

「私の首と胴体が切り離されると思え、だったかしら。そうね、あまりにも簡単に終わってしまっては面白くないし、


 真っ白な首筋を晒すリアだったが、

。剣術秘伝【はやぶさ】」


 先手必勝。油断大敵。

 先に仕掛けたのは【円卓の騎士団】副団長。

 ゴドンッと鈍い音。

 大理石でできた床に首が落ちる。まごうことなきリア・スペンサーのそれだった。

 さすが【円卓の騎士団】副団長にまで上り詰めた剣士。一瞬の剣術である。

 一流に限りなく近い剣技。

 だが、


「しょせんは小粒。この程度。弱過ぎて欲望さえ湧いて来ない」

「なっ!」

 副団長の驚くのも無理はない。

 切り離したはずの胴体が立ち上がる。生首を手に取ったかと思えば驚異的な再生速度で元通り。ツーと、縫われるようにして繋がった首筋には傷一つない。

 真っ白で柔らかそうなそれだ。


「ありえない! 貴様の首はたしかにこのわ私が——」

「ありえない、なんてことはないでしょう? 事実目の前で起きているんだから」

「どんなカラクリかは知らん。再生不能になるまで切り落とすだけのこと。覚悟しろ」

「選ばせてあげるわ」

「なにっ?」


「貴方も【円卓の騎士団】の端くれでしょう? 歴代アーサー王はどれも異色の剣士ばかり。腕に覚えがある剣士ほど、意見が割れるそうじゃない。剣筋、剣術、流派。得意とする属性魔術。それを組み合わせた我流。八代目、十二代目、二十三代目。この三人なら

「何を言って……」

「【墓守】なんてハズレ部署に配置された哀れな剣士に冥土の土産よ。?」


「揶揄うのも大概にしろ!」

 再び剣術秘伝【隼】を発動する副団長。

 だが、それより早くリア・スペンサーの禁忌が発動する。


「禁等闇魔術——【英雄召喚】」

 刹那、彼女の足元からドス黒い柩が出現。

 禍々しい音と共に扉から出現したのは——、


「馬鹿な⁉︎ 死者が蘇生した——⁉︎」

「英雄による斬殺。その名誉を彼に。征きなさい——八代目アーサー王」


 ☆


【セツナ】


「青い海。白い砂浜。朱色の美少女。いやぁ、たまらんね。最高のシチュエーションじゃねえか」


 アヴァロン島。リゾート地に到着した俺は早速海水浴場にやって来ていた。

 嫌いな男にセックスアピールしなければならない状況を誘発した俺はこの日を随分と楽しみにしていた。

 屈辱に塗れたあいつらの顔がありありと思い浮かぶぜ。


 さてと。それじゃ鬼畜特訓兼役得サービス回と行きますか。

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