第30話 変態、罰ゲームを与える

 仲良く頭上に「?」を浮かべる特待生。

 まっ、新入生のお前らが知らねえのも無理ねえわな。

 まして俺は自習で顔を出さねえんだから。

 しゃーねえな。説明してやろう。


「《魔術戦技祭》ってのは魔術師たちがどんぱちして、この学院で誰が最強なのかを決めようぜ、つう単純明快な祭りだ。対戦形式は一対一の勝ち抜きトーナメント。優勝者にはそれなりの特権が与えられる」

「そんな大事な祭を水着と下着の新調と一緒に伝えられるあたしたちって……」

『頭痛が痛い』とでも言いたげに呟くロゼを横目に俺は続ける。


「本来新入生は後学のために観戦のみなんだが——、特待生のみ参加が認められている」

「「「「まさか貴様/あんた/貴方……」」」」

 俺がこの学院に非常勤講師に就いた翌年。

 俺の教え子は賢い賢い特待生様だ。何か勘づいたんだろう。

 セラ、椿、ロゼ、ルナは疑惑の視線で俺を射抜いてくる。

 ケケケ。お察しのとおりだよ。


「そう。《魔術戦技祭》に新入生の特待生参加を認めさせたのは俺だ。いやあ、あれは酒池肉林で最高だったぜ」


 高尚なる王立魔術学院に俺のような鬼畜が招聘されたのにはもちろん理由がある。

 主に三つ。

 一つ、生徒の質が年々低下している。

 入学当初から魔術師を名乗るにふさわしい

者もいれば、魔術使いで卒業していくような者もいた。質の差は年々酷くなっている。

 早い話がデキるヤツか、落ちこぼれか。そこそこ使いものになる中間層がゴッソリいなくなっていた。

 そこで俺の出番だ。特待生つう起爆剤をぶち込み、ぬるま湯に浸かった気分でいる生徒を叩き上げることにした。


「……ごくり。酒池、肉林……」

 何かがあったことを理解したルナの生唾を飲み込む音が教室に響く。


「なんだルナ? 興味があるのか?」

「あっ、ありませんわ! セクハラですわよ⁉︎」

 なんだその慌てよう。お前、マジで変態じゃねえだろうな? 


「当時、この学院には〝そこそこ使える魔術師〟ってのが極端に少なくてな。だから四年前の特待生を無理やり《魔術戦技祭》にねじ込み、そこでちょっとした宣言をした」

「貴様が発した内容がなんとなくわかってしまう私は毒されているのだろうな」

 と椿。どうやら俺の思考や言動が伝染し始めたらしい。


「俺が指導した特待生が上級生をフルボッコにしてやんよ——そう啖呵を切った」

「「「「おいおい……」」」」

 もはやおなじみの反応だな。苦笑を受かべる特待生たち。

「三年前って……」とセラ。

「現会長と副会長、そして椿、お前の姉、紫蘭が新入生だった頃だよ」

 俺の告白に四人の興味を惹かれ始めていることが手に取るようにわかった。

 

 いくら生徒の質が低下していたとはいえ、天下の王立魔術学院だ。

 例外の年もあるが、たいてい卒院生の二人や三人は化け物が紛れ込んでいる。

 生まれた瞬間に運命を背負っているような天才だな。

 つまり、特待生とはいえ、そいつらとぶち当たれば、《魔術戦技祭》で優勝するのは厳しい。いや、不可能だ。

 そんな奴らに紫蘭たち特待生を使ってケンカを売ったのが俺様。刹那だねー。


「結果はどうでしたの?」

 とルナ。素直に続きが気になって仕方がない様子だ。

 セラや椿、ロゼたちも同じようだな。


「ケケケ。全員入賞——ベスト十六位には食い込めた、とだけ言っておこうか」

「「…………」」


 回答に黙り込む特待生。ここにいるのはロゼを除き、チカラを求めてこの学院にやってきた奴らだ。

 俺の元で修行を積むことで天下の王立魔術学院でベスト十六位に入る実力が手に入る。

 とはいえ、

「どうした? ?」

「優勝はおろか、ベスト3にも食い込めないのね。もちろん特待生とはいえ、新入生だから上出来すぎるほどなんでしょうけど……」


 姉を殺すためにこの学院にやってきたセラにとってチカラは喉から出るほど欲しい。渇望していると言っていいだろう。

 こいつの姉、リア・スペンサーは第二位始祖。神に最も近い吸血鬼だ。当然だが、現在の実力じゃ足元にも及ばない。

 上には上がいるという現実に叩きのめされそうになったことも一度や二度じゃないはず。神妙な面持ちの裏で考えていることは多いだろう。


「先輩方は偉大だな……」

 一方、椿。こちらは敬意が入り混じったそれだ。

 なにせあの紫蘭でさえ上が詰まっていたことを聞かされたんだ。

 こいつも思うところは山のようにあるだろう。

 

「言うまでもないが、現在のトップは当学院の会長。もちろん彼女がリーダーを務めるチームも追随を許さない最強っぷりだ。なにせこの俺様が鬼畜度VIIIの発動を余儀なくされるぐらいだからな」


 その言葉に椿を除く、三人が目を丸くする。

 椿だけは姉からその事実を聞いていたんだろう。


「つーわけで、お前らには当然《魔術戦技祭》に参加してもらう。拒否権はない。これは命令だ。だが、上級生の二年、三年次生の中には俺の傑作——魔改造済みの生徒が最低八人以上いる。そいつらと当たれば……まあ、余裕で惨敗だ」

「「「「なっ……!」」」」

「おっと驚くのはまだ早えぞ。俺が特待生を使って在学生を叩きあげた結果、有象無象だった奴らの質も見違えるように上がっている。ぶっちゃけ、入賞はお前らが思っている以上に難度が高え。そこで、だ」

 

 勿体ぶるように一呼吸。

 全員の目を見据える。


「安い給料で働かされているこの俺様がなんと休日返上だ! ふはは、強化合宿を開催してやるよ。期間は一月。特訓内容は……ククッ。期待しておけ」

「うわ、気持ち悪い顔。不安しかないんですけどー」

「言ってくれるじゃねえかギャル魔女。てめえは俺様の秘書として強化合宿のカリキュラムでヒイヒイ言わせてやるから覚悟しておけ」

「うげっ……!」


「俺は慈悲講師だからな。先生っぽいこともしてやるよ」

「「「「どの口が言っているの/だ/よ/でして」」」」

 満場一致で否定という。いやいや。俺ってめちゃくちゃ優しいからな? なんだ鬼畜講師って。侮辱してんのか。


「各自、強化合宿で鍛えたい技術や克服したい弱点、習得したい魔術があればレポートを作成し、ロゼを通して俺に提出しろ。一考ぐらいはしてやる。ただし——」

 一呼吸。

「——椿は魔術の習得、ルナは土属性魔術の階位上げ、ロゼは二人のバックアップを最優先事項とする。余力がありそうか判断した上でレポートを作成しろ」

「ふんっ。最初から希望を叶える気などないではないか」

 と不満げな椿だが、魔術習得の強化合宿という響きに期待を隠せていない。心なしか表情筋が柔らかい。


 一方のルナは素直に喜べないようだな。

 そりゃ、妹を殺された魔術なんて行使したくはないわな。

 だが、俺は容赦しない。なぜなら鬼畜講師だからだ。


 一方、ロゼはカリキュラムを俺から押し付けられることを諦観し、明晰な頭脳で色々と思案している。

 こいつは全属性を発動できる魔女。本人を叩き上げるよりも、他人に指導させる方がよっぽど合宿っぽくなるだろう。


 問題は、

「どうして私だけ何も言い渡されていないのかしら」

 冷たい声音。空気が凍えるような錯覚。

 セラは怒りの目で射抜いてくる。

 それは意中の相手から一人だけ仲間外れにされた嫉妬などではなく。

 純粋な苛立ちだった。特待生の中でも特にチカラを渇望する女だけに、許容できないといった感じか。


「どうどう。怒るな。お前もちゃんと考えてある」

「何をどう考えているのか、きちんと説明して欲しいわね」

「そう焦るなよ。手取り足取り教えてやる——セラ、お前はまだまだ粗が目立つとはいえ、【固有領域】の限定発動、罠術を張れるようになった。より緻密に、繊細にできるようにしていくのが強化合宿の補助サブとなる」


補助サブ……? ということはセラさんには何かメインがあるということでして?」

「そうだ。【黒血術】を

「どういうことかしら⁉︎ 詳しく聞かせない!」

 立ち上がって俺に迫ってくるセラ。

 こいつは本当にわかりやすい性格をしているな。俺がチカラを与えてやるといった途端、この詰め寄りよう。欲望のためには嫌いな男にでも躰を差し出すってか?


 俺は強化合宿でメインとなる特訓を示唆するよう。服の上からでもよく鍛えられていることがわかる良い腹だ。


「ちょっ、どこに触れて——」

。使いこなせるかどうかはお前次第だが、適応すればリアに瞬殺されないぐらいにはなるだろう。なにせ『色違い』が手に入る」

 

 まさしく悪魔の囁き。口にした途端、各々から抗議の声が上がる。

「お待ちになってください! 『色違い』——【黒雷】ならわたくしに——」

「どういうことだセツナ! まさかセラだけ優遇するつもりではあるまいな⁉︎」

「いやいやいや⁉︎ 『色違い』? いやいやいや!」


 見ていて飽きない反応だが、三人寄れば姦しいとはよく言ったもんだな。

 耳がキンキンするだろ。もっと声とテンションをボリュームダウンしろっての。


「はいはい。落ち着け。セラだけ特別扱いするわけねえだろ。お前らにチカラを与えた報酬は子宮だぜ? 全員、俺の遺伝子をドクドク注ぐつもりだ。さっき言ったように椿とルナは先にやらなきゃいけないことがあるだろって話なだけさ」


 俺の説得に椿とルナが黙り込む。

「ちなみにロゼは今すぐにでも刻めるが、お前には自分からお願いさせてやるよ。そのためのプランはもうすでに出来上がっているからな」

「はぁっ⁉︎ あたしが自分からお願いするとかありえないんですけど! 絶対いかがわしいことする気じゃん!」


 俺がセラの下腹部をいやらしい手つきで撫で回しているのを流し見ながらジト目で睨んでくるロゼ。

 ケケケ、現在はまだそういう反応だが——お前は間違いなく新たなチカラを欲するようになる。メスガキが屈辱の表情で俺に土下座してお願いする光景がマジマジと見えるぜ。


「さてと。それじゃ俺は後にさせてもらうが——合宿初日に新調した水着を披露しろ。俺の独断と偏見で最下位を決定させてもらう」

「なっ……!」「えっ⁉︎」「ちょっ⁉︎」「はい⁉︎」

「何言ってんのこのバカ、みたいな顔をしてやがるが、俺がただ真面目に修行だけするわけねえだろ。ピンク一色のドスケベ合宿にするつもりだから覚悟しておけよ」

「聞きたくないんだけど、最下位になった場合どうなるわけ?」

 ごくり、と生唾を飲み込む音が特待生室に響く。

 俺は鬼畜スマイルを浮かべて、告げる。




































。嫌なら俺が喜びそうな水着と下着を全力かつ真剣に選ぶことだな。合宿は三日後だ。あばよ」

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