第11話 変態、命令する
彼女たちの意識が戻るや否や、視線で全身を舐め回す俺。
この学院を卒業する頃には少女としての殻を完全に破り捨てて、俺好みの美人なお姉たまになっていることだろう。
うん。普通に楽しみだ。
そんな俺のニヤニヤに鳥肌を立たせながら唇を噛み締めるセラ。
やがて何かを決意したのか、
「……します」
屈辱に全身を震わせながら小さく俺に頭を垂れていた。
本当は何を口にしたのか聞こえていた俺はあえて聞き返す。
「あっ? 聞こえねえよセラ。なんて言った?」
「〜〜〜〜っ! 私以外の奴隷紋を破棄してください。お願いします!」
あの傲慢な吸血鬼が嫌いな男に頭を下げていた。それも己以外の奴隷を解放して欲しいと。そう懇願して。
他人のために頭を垂れることができる吸血鬼か。面白いな。
俺が出会ってきたやつらは大抵「私に指一本でも触れてみなさい。第○位始祖が黙っていない」的なことしか言わなかったからな。これは結構意外だったりする。
「仮に三人解放した場合、お前が四人分の劣情をぶつけられるかもしれねえんだぞ? その覚悟はあんのかよ?」
「ええ、構わないわ。元々私だけが挑むはずだった決闘だもの。慰み者になるのは私だけで十分よ」
ふむ。どうやら嘘じゃなそうだ。あの強気な目でキッと睨んできやがる。
「お待ちになってくださいまし」
続いて乳デカ。
「私が貴方のお相手をいたしますわ。ですから他の皆さんを解放してくださいませ」
「……エルフって犯されたい欲でもあんのか?」
「なっ! それは小説の中だけのお話でしてよ! 本物のエルフにそんな性癖は――」
「――ふーん。ルナはそういう小説読んでんのか。品位方正に見えて実はハレンチなんだな」
「違いますわ!」
タコのように顔を真っ赤にして否定する金髪エルフ。羞恥に打ち震えていた。
そういう癖がないにも拘らず他の生徒だけを解放して欲しい、か。
意外だな。こいつも誇り高きエルフが――とか言いそうなのに。
そんな二人を我慢ならないと言った感じで拳を握りしめていたのは椿だった。
さてはて。彼女は何を口にするのか。実物だな。
「……セラとルナだけに苦痛の日々を送らせるわけにはいかない。もしも彼女たちを慰み者にするつもりなら、私も毒牙にかけるがいい。それで彼女たちの負担が軽減されるならこんな身体、いくらでも差し出そう」
椿は噛み締めた唇から出血していた。よほど屈辱なのだろう。嫌いな男に肌を許さなければいけないこの状況が。
しかし一度は同じ船に乗った仲。その同乗者が辛い目に遭うなら己だけ逃げ出すわけにはいかない、と。なるほど。なんとも椿らしい剣道。剣士の鏡だな。彼女には肩のチカラを抜く練習も必要だ。まるで入学当初の姉を見ているようだよ。
最後にロゼに視線を向けてみる俺。
彼女は一番最初に諦めていたこともあって腹をくくっている様子だった。
「こんな貧相な躰で楽しめるなら好きにすれば? けどできればみんなは解放してあげて欲しいかも。最期の砦だった私がすぐ諦めちゃったことも原因なわけだし」
ふむ。外道な講師という共通の敵を目の当たりにして妙な友情が生まれたか。
まさかのワンフォーオール、オールフォーワン。
とはいえ、厳しい現実は突きつけておかねえと。情に訴えかけて助かることはないとな。
「まず最初に断言しておくが俺がお前たち四人の奴隷紋を解除することはない。無意識に他人を見下し続けた代償だ。身を持って後悔しろ。そもそも一つの命にそれ以上の価値なんてあるかよ。己だけでその他大勢を解放しろなんてのは傲慢だ。戦争にそんな甘っちょろい思考は通用しない。ここで捨てろ」
「「「「……っ」」」」
身に覚えがあり過ぎるのか。反論の言葉が何一つ出て来ない天才たち。
初めての挫折、屈辱の味はどうだ? 苦いだろ? 土の味が舌先に広がるだろ。お前らがこれから立とうとしている戦場はそういうところだ。
俺は容赦なく主人紋に魔力を興し命令を下す。
「セツナが《主人紋》を以ってセラ、ルナ、椿、ロゼに五つ命ずる」
俺の言葉に瞼をきつくつぶる四人。
「一つ。一切の自傷・自殺行為を禁じる」
「「「「えっ……?」」」」
構わず続ける。
「二つ。セツナは《精霊契約》を重ね、一切の性交渉を破棄する。これを破らんとした場合、奴隷を解放することを宣言する」
「「「「なっ……!」」」」
「三つ。セツナが言い渡す自習に奴隷は一切の文句を禁ずる」
「「「「……」」」」
《主人紋》を以って命令していく内容が想定外のものばかりなのか、四人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
まさかこの講師、本当に授業をしたくなくて私たちに決闘を挑んだの……? とでも言いたそうな表情だ。その通りだよ。
俺は職務放棄するためにわざわざ《固有領域》を展開してまで挑んだんだよ。何か文句あっか?
「四つ。奴隷紋解除の条件をここに設定する。セツナはいつ、いかなる、どのような状況時でも奴隷からの不意打ちにおいて承諾するとともに〝鬼畜度X〟の発動、もしくは死を以って奴隷を解放することを宣言する」
俺は本命を命ずる前に、
「ゲームをしよう」
「「「「ゲーム?」」」」
「お前ら本音じゃ卑怯だと思ってんだろ? それに関しちゃ否定しねえよ。ぶっちゃけその通りだもんな。だから一年やるよ。一年間の自習で俺を殺してみろ。不意打ち、姑息、絡め手、卑怯、大いに結構。一切文句を口にしないことも《主人紋》を以って誓おう」
俺の挑発に勝ち気な四人の瞳に負けん気が戻ってくる。一切の性交渉を破棄したことに安堵したのかもしれない。
だが、甘いな。この俺が好条件だけ提示するわけがないだろ。
「交換条件を加える。一年間に奴隷紋解除の条件を達成できない場合、卒業後にセツナとの性交渉を命ずる。また現時点にて純潔である場合、他の男に捧げることを難く禁じる」
「「「「ちょっ……!」」」」
「娼婦になりたくなければ全力で殺しに来い。ちなみに先日卒業した俺の教え子たちの
ごくり。生唾を飲み込む音が響く。
「放課後、保健室にて脱ぎたてのパンティとブラジャーをセツナに手渡すこと。もちろん生着替えだ」
「「「「……」」」」
再び軽蔑の眼差しで俺を刺してくる四人。
視線じゃなく物理的に刺せたらいいな。
お前らがどんな手を使って俺の
楽しみにしてるぜ?
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