第41話 決戦-6

赤い羽根とフィーアがローザリッサとシアを転移させた直後まで話は巻き戻る。


フィーアと赤い羽根がぶつかり、その力を示し合っていた。

災害獣を超える災害、フィーア・ラヴィリエント。その力は空間すら支配し、自身の支配する空間を好きなように弄り回すことができる。

支配する空間に入れればどんな存在だろうと無に帰し、消滅させることができる力だった。その支配する空間ならば災害獣でさえ無力であり、災害を超える災害という名にふさわしい力を放っていた。


「空間を支配する力。災害を超えたもの私にだけ使える力だ。私の空間は私だけのルールに縛られる」

「いいから早く展開しなさい」


赤い羽根は面倒くさそうに音へと魔力を変換して伝播させる。それだけの行為だが、興味など微塵もないという意志が明白に表れていた。


「ならば消えろ。私が存在を許さなければ消滅するだけだ」


赤い羽根が展開していたマグマの空間がフィーアの空間に呑まれ、さらに赤い羽根さえも呑まれていく。フィーアの空間に入った時点でマグマになっていた空間さえも消滅し、赤い羽根もまた姿を消滅させた。


「呆気ない。こんなものか」


まるで溜息をつくかのように呟くフィーア。だがその背後には支配する空間であるにもかかわらず、ひらひらと舞う蝶がいた。


「全くもってその通り。こんなものではないですよね?」


背後から聞こえた音に反応し、フィーアが振り向く。そこには何も変わっていない赤い羽根がいた。


「なっ!?」

「ほら早く次の手を出しなさい」


フィーアの空間内にもかかわらず赤い羽根が魔力を展開しマグマがフィーアへと押し寄せる。だが展開された魔力ごと空間から消滅され、フィーアに辿り着く攻撃は一つもない。


「こんなものは効かぬ。……何かの間違いか?、もう一度だ」


再びフィーアが赤い羽根を消滅させる。身体を塵芥に……どころが魂や精神すら消滅させているのだ。耐えられる云々というものではなくルールを強いるという特性上、存在しているということさえおかしいことなのだ。


「やはり消滅している。さっきのは何だ?」

「何でしょうね?」


再びフィーアの背後をひらひらと飛んでいた赤い羽根。まるでからかうかのように戦う様子は圧倒的な格上であることを示唆していた。


「またっ!?。考えられるとすれば……消滅の偽装?。ここは私の空間だぞ、できるわけがない」

「さて、何をしたのでしょうね?」


傍目からすれば挑発する赤い羽根だが、そんな真似をしているつもりはない。ただ独り言を呟いたような、ただそれだの言葉だった。

変わらずひらひらと飛ぶ赤い羽根がようやくその翼を止める。それは遊ぶのを止めて少しは戦う気になった証拠だった。


「上は中々楽しんでますね。さっさと見に行きたいからこちらの決着は急がせてもらいますよ」

「ほざけ!」


フィーアが支配していた空間を圧縮し、自らの身体に取り込んでいく。

2mもない程度のヤギの姿が10mを超える巨体となり、その身体は漆黒に染められていく。角は捻じれ、爪や牙は鋭くなり、悪魔という言葉にふさわしい姿と変わった。


「空間を支配する力を自らに課し、自らに転嫁させればどれだけでも力を行使できる。後は力で決するだけよ!」

「よろしい。ならば力で決着をつけるとしましょう」


フィーアの支配が無くなったことにより赤い羽根の空間が広がる。マグマの地、降り注ぐ溶岩、あらゆる存在が燃え尽きる空間がフィーアを飲み込んでいく。

そしてマグマが音速どころではない速さをもってフィーアへと降り注ぐ。明確にフィーアという身体に集中し、破壊力がそのまま身体に突き刺さる。


「空間を自らに転嫁したと言っただろう!」


だが自らの中に空間支配する力を宿すフィーアはその力を吸収しており、威力が届いた様子はない。余裕綽々とフィーアは赤い羽根へとその爪を振るう。が、その爪は重さのない赤い羽根には届いても、切り裂くことなく吹き飛ばすだけだった。


「……気づきませんか?」

「これは」


フィーアはようやく降り注ぐマグマの勢いが全く変わらないことに気づく。ひらひらと飛ぶ赤い羽根を捕まえるために動こうとするフィーアに直撃し続け、支配する空間がその威力を断絶し続けることが繰り返される。

だが威力は完全に断絶されるわけではない。フィーアは吸収し、対応する気だった。だがそれさえも赤い羽根は無視する気だった。


そしてその様子からフィーアは察した。察せてしまった。


「貴様っ!。まさか耐え切れぬまで撃ち込むつもりか!」

「そのための空間支配です。時間はほぼ停止させました……さぁ、踊りなさい」


フィーアは動くことすらままならないマグマの集中豪雨をその身に浴びた。



時は流れ、現在。フィーアはその力を悉く失い、赤い羽根に解放された。そしてすぐさまシアに救助してもらおうと地上に飛び出したのだった。


「簡単でしたね。たかがこの星が滅ぶ程度の威力を一万年程度撃ち込んだらパンクしたものですから。あとはパンクした魔力総量をほんの少し弄り、減らしました」

「……そんな簡単に?」

「いいえ。流石に空間がパンクしたらすぐさまもう一度空間を展開できるようにしていたようです。まぁ魔力総量が減っている空間など、もう一度同じ真似をすればパンクするのは早いですが」

「あとはそれをあそこまで減るように削り切ったと?」

「ええ。あなたのジルクにされたことよりも遥かに優しいことだと思いますよ?」


異次元の領域の戦闘だが、やったことはジルクよりも優しいと赤い羽根は言う。

魔力総量を弄り、ヤギの力を減らし続けただけとなれば確かに優しいこととはいえる。だが赤い羽根もヤギも異次元過ぎる領域であり、ローザリッサには比較するにも容量を得なかった。。


だがその戦闘の結果から分かることもある。


「……だとするとあれはハリボテだな。シアの方が強いとすら言える」


羽根を広げ、その視線を一人と一匹に向ける。その視線と表情にはもう少しだと興奮する乙女の顔があった。


「では後は任せましたよ。私はその辺をひらひらと飛んでいます」


赤い羽根は戦線を離れ、まるでどこにもいなくなったかのように消え去る。ローザリッサに戦いの全てを任せて。

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