第17話 冒険者ジルク-12
「無事だったか、ジルク」
「ローズ!?。何でここに!?」
女騎士ローズ、彼女はルダクノを守護する騎士の最上位に位置する人だ。その力は災害と同じとも言われ、魔物の大量発生が起きた時に一人で半壊させたという記録すらあるほどだ。
その気さくな性格は町全体によく知られている。騎士だろうが冒険者だろうが関係なく接する姿には理想の人物像を描く人も多いという。当然冒険者からも憧れとされ、かくいう俺もいつか横に並びたいと願う一人だ。
そんな人が……何故ここに?。
「カルザ達が帰ってきたものの様子が変でな。まるでジルクがいなかったかのような反応を返したところから推測した」
「カルザ達は生きて帰れた……けど何かしら記憶改竄でもされてた、ってことですか。でもこんな場所をどうやって?」
「入った場所は変わってなかったからな。そこから魔力探知を伸ばしてみたら変な空洞が引っ掛かった。試しにと地面を貫いて来てみたら案の定だ。ついでに魔物にぶち当たったが……運が良かったみたいだな」
「ははは……もうへとへとです」
身体から自然に力が抜ける。助けがきたことと危険が去ったという二重の安堵が張りつめ続けていたジルクに余裕を持たせた。
だがローズの背後に現れた存在にその余裕は消え去る。指をさしローズの注意をそちらへ向ける。
「お前がカルザ達をおかしくした元凶か」
「気づいてましたか。この領域に自力で気づいてやってくるなんて考えもしなかったので……ついつい出てきてしまいました」
後光を纏ったヤギの姿。あたしをここに閉じ込め、身体を弄り回す元凶だ。
ローズもあたしと同じ目にあってはダメだと口に出そうとするが、二人の発する魔力が圧力となり威圧されてしまう。
「……強いな。私よりも遥かに上だ。それどころか災害と比べても上だな」
「眼は確かなようで。私はそこらの災害獣よりも上の力を有しています。それが意味するのはどういうことか分かりますね?」
「邪魔をするなということだろう」
「その通り。分かってるなら待っててください……と言って待つようならここまで来ませんよね」
「当然だ。見たところジルクをお前のモノにするための試練でも行ってるな?。それの一人にさせてくれば構わん」
「ほう……」
まるで対等な二人だが、魔力総量がまるで違う。ヤギがこの場全てを埋め尽くす程に対して。ローズは自らを守るように魔力を纏っている。それが分かっていての度量に全てを振った交渉なのだろう。
ヤギがチラリとこちらを向き、そしてまたローズに向き直る。
「ですがそうすると彼が私のモノになるのは近くなるのでは?」
「やってみなければ分からないだろう。ただこちらも条件を出したい」
「ふむ……聞きましょう」
ローズが交渉を仕掛ける。知性のある災害獣とは交渉が可能なのは知っているが、これほどの力がある災害獣と対等に見せかけて話せている。こういうこともできるのは権力がある人達と話したことがあるからだろうか?。それとも単純な強者たる所以からなのだろうか?。
そんなあたしの疑問を余所に一人と一匹の交渉は続く。
「この後お前がやろうとしていることは予想がついている。まぁその予想は誰にも話すことはないだろうが……私の記憶改竄はするな」
「む……むむ……ほう……いや、悪くない?。ではこちらからも。今この瞬間から次に私に会うまで記憶改竄はしない、ではどうでしょう?」
「私がもう一度お前に会うと?。無いだろうが……まぁいいだろう」
「契約成立ですね。ではジルクと共にこれから先を進んでください。私は愉しみにしていますよ」
ヤギが少しずつ姿を消していく。数秒ほどしたところでヤギの姿は完全に消え、周囲を埋め尽くしていた魔力もなくなっていた。
「はぁ……はぁ……」
「すまない、あれほどとは予想していなかった。本当なら魔力の壁でも張れれば良かったんだが、余裕はそんなになくてな」
「いえ……それより……一緒に進むって……」
「とりあえず息を整えてからだな。マトモに会話できる程度に回復してから話そう」
ローズがあたしの身体をヒョイと抱えていつの間にか出来ていた上り階段の近くまで歩いていく。そして土魔術で地面を盛り上げ、簡単なベッドを作った。
「少し寝なさい」
「でも」
「いいから」
「……はい」
一瞬で眠りに落ち、身体を回復させていく。張りつめていた糸が切れたかのように身体から力が抜けていき、意識が暗闇に吸い込まれていった。
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