第6話 冒険者ジルク-3
階段を上った先は広間になっていた。そしてその中央には大斧を携えているミノタウロスが一体座っていた。
広間へ足を踏み入れた瞬間こちらを認識し、斧を肩に担いで立ち上がった。
「早速戦闘か」
ミノタウロスはBクラス下位の魔物だ。オークなんて目じゃない強さを持っており、大きさ俊敏性魔力量どれをとっても俺を超えている魔物だ。普段通りの強化魔術を使えれば倒せる魔物だが、強化魔術それ自体が縛られていたら、勝ち目は無いに等しい。
「ブォォォォ!」
ミノタウロスは一瞬で俺の目の前に迫り、大斧を振り下ろす。身体強化も行っていない状態でバックステップが間に合ったのは警戒を最大にしていたおかげだろう。
ついでに懐から短剣を取り出す。こんなのでもないよりかはマシだ。
「たぁっ!」
振り下ろした隙を狙って腕に短剣に切りつける。手ごたえは悪くないものだったが、切り傷が少しできただけであり致命傷には程遠い。
切りつけた直後に横へ転がって距離をとろうとした瞬間。
「ブゥォッ!」
「なっ!?」
斧から手を離して殴りかかってきたミノタウロスの拳が俺の腹に直撃した。ミシミシという音と共にそのまま吹き飛ばされていく。
「ガッ……。……魔術、ヒール」
ミノタウロスが斧を担ぎ直している間に傷を癒す。魔術でダメージこそ回復したものの、精神的な衝撃はまだ響いていた。
ミノタウロスは斧でしか攻撃しない魔物だ。親から渡されたり自らで作った斧を常に携帯しており、その攻撃方法は斧を使った攻撃でしか行わない……はずだった。
だが今のこいつは明確に力の籠った拳を放った。つまり殴り方を知っているミノタウロスだ。おそらくは斧が作れなかったはぐれだったりするのだろう。
俺が知っている戦い方とはまるで違うために対処方法が変わる。厄介だが……それ以上の問題がある。
立ち上がりながら右手に持った短剣を見つめる。俺が持てる一撃ではかなりいい方のモノだったが全く通じていない。本来なら腕を軽く切り落とすくらいの威力だが、強化魔術を使えてなければこうなるのは分かっていたことだった。
「やるしかないか」
もしかしたら何もなしに通じるかもしれないという確認のために切りつけたが、希望はなかった。それならまずは奴の罠に一歩だけ踏み入れることにしよう。
他の方法も考えつかないわけではないが、まずはデメリットを知らなければ進めない。
「強化魔術、プラスオール」
向かってくるミノタウロスの歩みは遅い。それに対し強化魔術をかけた俺は短剣を貫くように構えて一歩だけ全力で踏み込む。
決着はそれだけでついた。
「っ!?」
いきなり俺の目の前に壁が現れた。ぶつかる前に足でブレーキをかけると、慣性がまるで働いていないかのように一瞬で体の動きが止まる。
「これは一体……?」
意味が分からない。強化魔術が強すぎたのだろうか?。だが目の前にいたミノタウロスを見失うなど考えられない。
しかもとった行動はミノタウロスに向けた全力の突進だ。……突進?。
もしかしてと俺が後ろを振り向くと、足だけになったミノタウロスがそこにはいた。
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