第3話 プロローグ-3
飛ばされた俺たちは上から見たら円を描くように陣形を作り、全方位を警戒していた。
「転移、とでも言うべきですかね」
「別の場所に飛ばされたか。マトモに考えるなら階段下からさらに下りたところだろう。となれば上に上がる場所を探す」
周囲の様子を確認し、全員が無事であることと何かが襲ってくるような気配はないことを全員が確認した。
不測の事態であったが全員が無事でいられた。なら後は脱出すればそれで解決だ。
とはいえ転移なんてものがあった以上、まずはそんなものを起動させたやつがいるのは間違いない。その排除をするのが早道だ。
「…?」
最大に警戒していた横から震える振動が伝わってきた。背中を預けたこともあるから分かる。これは……恐怖で動けない状態になっている証拠だ。
「どうしたカルザ?」
横目でチラリとカルザの方を向く。それだけで何が起きていたか分かってしまった。
ガチガチと歯を鳴らし怯えに目を染めるカルザ。そしていつの間にかヤヴォールが四方を組む陣を崩し横に並んでいた。
そしてその視線の先には―
「あ…れ…は…」
「何て魔力…!」
―後光のような魔力を放つヤギが浮いていた。
どう見てもただのヤギではない。突き刺すような魔力はかつて何回も遭遇した災害と同等かそれ以上の力を示している。それが意味するのは一つ、ここは既に災害獣である奴が支配する空間であるという事実だ。
災害獣。文字通り災害そのものである獣の総称だ。魔物の最上位……エンシェントドラゴンや魔王と呼ばれる者たちですら一瞥するだけで死ぬとさえ言われ、彼らに敵と認識された時点で命はない。
「……おや」
背を向けていたファトスも気づいたのか、俺たち全員は横に並び立った。
言葉を話すということは交渉できる可能性がある。しかし相手は災害だ。良くて誰か生き残り、悪ければ全滅は確実だ。
「知性を持つタイプか。……どう出てくる」
ヤギは俺たちを一瞥し、その視線を俺に向けた。俺はその視線から放たれる突き刺す魔力に耐えたが、同時に頭が揺さぶられるような衝撃に膝をついた。
「あなた、名前はジルクというのですか。悪くないですね」
「……俺の名前をどうやって?。まさか……今ので記憶を読まれたか」
三人の驚く顔が見えるが身体の反応が鈍い。ふらふらと立ち上がるが、杖をつかないと歩くこともできないだろう。
「あなたがここに残れば他の三人は元の場所に帰しましょう。それにあなたにも帰るチャンスをあげます」
「なっ!?」
思考回路が驚愕に染まる。その内容があまりにも魅力的過ぎる故に頭の処理が追いつかない。
そんな俺を守るかのように三人は一歩前に出て武器を構えた。立ち上がる魔力が怒りを隠せていない。
「仲間をみ殺しにしろってか。ふざけた災害獣だな」
「一瞬で記憶を読むほどの災害なら俺たちは後から殺されるだけだ。それならここで抗っても変わりはないな」
「最期に戦う理由としては悪くないね。」
三者三葉に戦う理由を告げる。パーティーの絆を示すその行動に涙が俺の目に浮かぶ。
だが奴はその絆さえ嘲笑うかのように打ち砕いてきた。
(聞こえますね?。声を上げたら殺します)
「~っ!?」
背筋をなぞるような、意識への無理やりの介入。伝えられた言葉は脅迫以外のなにものでもなく、三人に気づかれずに俺だけへと言葉を伝えることなぞ簡単だと示していた。
(今からあなたに強化の魔術をかけます。そこから先は……分かりますね?、選ぶのはあなたです)
―その言葉の意味が、分かってしまった。
何という残酷な二択を選ばせるのか。しかもその選択をするのは俺であり、選択肢なんてない。何より俺は死から回避させるのがパーティーの役割だ。
……俺たちは冒険者だ。もし3人が生き残るために1人が犠牲になればいいというなら。
上を見上げ、泣きそうになる目に活を入れる。強化魔術はとんでもないレベルのものがかかっている。一撃で敵対者の全身の力だけを奪うような攻撃すら可能な、豪快かつ繊細な強化だ。
「ごめん」
「なっ!?」
油断しているカルザ、ファトス、ヤヴォールの首の後ろに手刀を打ち込む。一番反射神経が高いカルザだけは反応できたために、一撃で意識を刈り取ることはできなかった。
どうしてこうなったんだろう。俺は死なせないための冒険者だっていうのに。
「ごめんな皆。絶対生きて帰るから」
「ジルク!止め―」
カルザの悲痛な叫びと同時に、彼らは魔法陣の中に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます