オイラは妖精 サンドマン

ちょこっと

第1話

『オイラは妖精サンドマン


 オイラが魔法の砂をふりかけりゃあ


 たちまち眠たくなっちまうのさ


 人間の子どもは 夜寝るもんだろう?


 寝ないと大きくなれないんだろう?


 だから 夜寝ないで起きてる子どもには


 オイラが魔法の砂をふりかけに行くぜ』






 お月様が夜空で輝く頃、ある一軒のお家で、お母さんが男の子を寝かしつけています。


「ほら、早く寝ないとサンドマンが来るよ。

 夜更かしして起きてる子どもは、目玉をくり抜かれちまうんだよ」


「えーっ、そんなの嘘だあ。まだ遊びたい」


「もう、電気も消しますからね。おやすみ」


 お母さんが子ども部屋の電気を消して、ちっちゃな灯り一つだけ置いていきます。


 男の子は、お母さんが部屋から出て行っても、ベッドで何かごそごそしているみたい。


 サンドマンは、窓から様子を伺っていました。




『ひゃー! おっかない!


 オイラが目玉をくり抜くだって?


 そんなおっかない事 するもんか!


 うーん でも ほかのサンドマンはどうだろう?


 人間に色んな奴がいるように サンドマンにだって色んな奴がいるもんだ』




 そう考えながら、サンドマンは窓をすり抜けて部屋の中へ入ります。


 けれど、考え事をしていたからか、姿を消すのを忘れていました。


 布団の中で遊んでいた男の子がオモチャを取ろうと起き上がって、サンドマンは見つかってしまいました。



「うわっ! なんだ? ちっちゃいじーさん? どうやって入ってきたの? しゃべれるの?」


 男の子はビックリしたまま、矢継ぎ早に聞いてきます。


 サンドマンの見た目は、小さな小さなおじいさんみたいです。


 しかし、妖精なので人間のおじいさんとは違います。


『オイラは妖精サンドマン 夜寝ない子どもには オイラの魔法の砂をふりかけちまうぞ』


 思いがけず見つかって慌てたサンドマンは、さっと魔法の砂を振りかけようとしました。


 けれども、好奇心旺盛な男の子は目をキラキラさせてサンドマンに近寄ります。


「すごーい! 妖精なの?

 明日、サンドマンごっこして誰かに砂振りかけてやろーっと!」


 とんでもない事を言う男の子に、サンドマンは魔法の砂をふりかけようとした手を止めました。


『ばっ ばか! ただの砂なんて 絶対にふりかけちゃあなんねぇぞ!

 目や口や鼻や耳や……どっかに入ったりしたら 大変だぞ!

 オイラのは魔法の砂なんだ ただの砂とは違うんだ

 絶対絶対 やっちゃあなんねぇからな!』


「ちぇーっ、本物のサンドマンを見れたんだから、まねっこしようと思ったのに」


 男の子はしぶしぶ、サンドマンと約束しました。


『まったく とんでもない子どもだな

 いいか 人間の子どもは夜ちゃあんと寝るもんだ』


 そう言うと、再び魔法の砂を振りかけようとしましたが、またもや男の子の言葉で手を止めました。


「やだ!

 だってまだまだ遊びたいんだもん!

 寝るのなんて、つまんない!」


 男の子は、サンドマンから逃げるようにして遊びながら、ケラケラ笑っています。


 サンドマンは、少し考えて言いました。


『寝るのがつまらないだって? それはお前さんなんにもわかっちゃいねえな』


 あーあ、とサンドマンが肩をすくめて両手を上にします。


 そんなサンドマンの様子に、男の子はムッとして、逃げながら遊ぶのをやめました。


「どういうこと? だって、寝たら何にも遊べないし、ただじーっと寝てるだけじゃないか」


『何を言うんだ 寝たら 夢の世界でなんでも好きな事が出来るじゃないか!

 こんな素敵な事ってあるかい?

 夢の中では お前さんが王様だ

 お前さんの夢は お前さんの自由なんだぜ』


「夢の世界では、僕が王様?」


『あぁ そうだ お菓子だって食べ放題 いくら食べても虫歯にゃならねぇぞ』


「えーっ! すごいなぁ。

 そっか、虫歯の心配も無いし、お腹いっぱいになっても、夢の中ならいくらでも食べられるかな」


『あぁ そうだ 夢の中なら なんでも出来る

 どうだ 楽しそうだろう?』


「うん! 僕寝る!

 ありがとう、サンドマン。

 寝るのが楽しみになってきた、なんだかサンドマンってサンタさんみたいだね」


 男の子が大人しくベッドへもぐりこみながら言うと、サンドマンは驚いて目をまん丸にしました。


『オイラがサンタみたいだって?

 あの 大勢に好かれて人気者のサンタ?』


「うん! サンタさんは年に一回だけ、ホントのプレゼントをくれるでしょ?

 サンドマンは毎晩だって楽しい夢の世界へ眠らせてくれるんなら、それって、なんだか素敵なプレゼントみたいだよね」


 ニコニコ言う男の子の言葉に、サンドマンの胸があったかくなりました。


『オイラに出来るのは 眠らせるだけだい

 夢の世界は お前さんが自分で作るんだ

 楽しい夢を見たいなら しっかりイメージして寝るといいさ』


 今度こそ、ベッドで眠る男の子へと魔法の砂を振りかけました。


 スヤスヤ寝息が聞こえるのを確認すると、サンドマンはそっと部屋を抜け出して、屋根の上に登りました。


『オイラがサンタみたい 初めて言われたぞ

 あの 人気者のサンタみたい へへ』


 嬉しそうに、ぴょんと次の家へ飛び跳ねます。


『さーって 次はどの子を 眠らせるかな』




 次は、あなたのところへ来るかもしれませんね。

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オイラは妖精 サンドマン ちょこっと @tyokotto

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