メモ用紙と手紙

紫鳥コウ

un / une

 海沿いの道は、ねずみ色に舗装ほそうされ、どこまでも連なるさくは、ところどころ白色の塗料ががれて、びた赤褐色せっかっしょくにぶく光っている。その向こうでは、紺色の海が重苦しく揺らぎ、どんよりとした、なまず色の空から、呪術によって召喚されたかのような、不気味な風が、天空でうずをまいている。


 佛田ふつだは、留学生学費控除の手続きに不備があったことから、休日にもかかわらず、大学に拘留こうりゅうされていた。下宿の管理人が、午後からは天気が荒れるかもしれないと教えてくれていたため、その処理を終えたら、すぐにでも帰るつもりだったのだが、想像より時間がかかってしまった。


 しかし、雨になりそうな気配は、不思議とまったくしない。


 こうした天気だということもあり、ひとは、なかなか見当たらない。ここが、海沿いのひっそりとした道だということもあるのかもしれない。


 急ぎ足で歩いていると、公園が見えてきた。


 この公園は、いつ通っても人気ひとけがない。しかし、こんな天気の日こそ、誰かがいるような気がした。



 ――――本当に、この公園にひとがいた。



 円錐形えんすいけいの木組みの日避ひよけの下には、円形の椅子が円状に備えつけてある。そのひとつに腰をかけて、少女が本を読んでいた。


 悪天候で寒さを感じるにしても、こんな夏なのに、肌ひとつ見せない黒色のコートを羽織っている。


 こがね色の、宝石のような光沢を持つ、長く美しい髪は、海を旋回せんかいする風のせいで、そよいでいる。



 ――――この少女は、なぜ、ここで本を読んでいるのか。



 少女は、目線を本から外して、ひと息ついた。そして、なにか憂鬱そうな視線を、ほこり色の砂場に落としていた。彼女は、だれかに叱られてここに来たのだろう。公園とは、そんなところだ。

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