第3話 オタク語り

「さて、まりもさん。どのような初体験がしてみたいですか?」

「もっと言い方なかったのかよ」

「まあまあ、それでどうします? 僕たちの準備は出来てますよ」

「つってもなー、うちはガチの初心者なんだよ」

「たしかに……」

「拙者はハーレムアニメの視聴を提案しますぞ」

「うむ」

「いや、魔法少女ものがいいッスよー」

「でも、まりもさんはイケメンキャラの方がいいんじゃない?」

「確かに、音無殿の言う通りかもしれませぬな……マリモ姫は映画なども見られないので?」

「見ないな」

「漫画はどうッスか?」

「読まなくはないな」

「やはり猛き異端者を好むのか?」

「は?」

「たぶん不良漫画ですかね? ヤンキー漫画? そういう漫画が好きなのかって」

「ちげぇよ! 普通の漫画だ」

「少女漫画ですな?」

「……まあ、そうだな」


 すごい、ギャップ萌えを狙ってるのかもしれない。

 これが素なんて、ポテンシャルがすごすぎる……


「なるほど、腐れ枠ですな?」

「あ? なんて言ったコイツ」

「い、いえ、そのぉ……」

「まりもさんはBLとかどうですか?」

「きもい」

「おぅ」

「生命の摂理を超越せし情など滅多に観測できるものでは無いからな」

「あ?」

「あんまり周りにいませんもんねー、くらいですかね」

「なあ、お前らなんでそんな面倒なしゃべり方してんの?」

「虚像を創造するためだ」

「キャラ作りですな」

「うわぁ……」

 

 大学生にもなって普通に話せないわけがない。

 ちなみにバウムは素。


「純愛が好きですか?」

「純愛ってなんだよ?」

「何かって言われると難しいッスね~」

「普通の、恋愛? 普通のって言うか、自然なって言うか」

「凌辱やNTRが無いものと言った感覚ですな」

「はぁ!? んなもん見ねえよ!!」


 顔を真っ赤にしてる。

 あらぁ……


「ピュアなんですね」

「は、はぁ!? ちげえし!」

「そうなんですな……拙者は純愛しか受け付けませんが」

「う……」


 一度は試すものの、断念した者たちばかりだ。

 実際僕も、一度そういうものに触れたが、ダメでした。

 胸が痛い。


「まずはアニメを見てみましょう。いろいろ試して気にいるものをさがしましょう」

「ですが、それも迷いどころですぞ? ジャンルもそうですが、いつのものにするのかも重要ですからな」

「藤十郎はいっつもそれ言ってるよね」

「拙者は間違えましたからな……」


 部屋の中に負の空気が漂う。

 それに慣れていないまりもさんは、不安そうにしながら、僕に小さな声で訊ねてくる。


「(な、なあ、これ、うちが聞いてもいいやつなのか?)」

「(まりもさんさえよければ聞いてあげてください。僕達では解決することは無理でしたけど、まりもさんなら……)」

「……」


 まりもさんは深呼吸をして気合を入れた。

 その目は真っすぐと藤十郎に向けられた。


「お前、何があったんだ?」

「せ、拙者は……」

「ああ」

「拙者は2010年からのアニメしか見れないのですぞ……」

「ああ……ん? あ゛?」


 一瞬で殴ろうとし始めたまりもさんをとめる。


「なんで止めるんだ!」

「言いたいことはわかりますけど、止まってください! 藤十郎は本気なんです!」

「チッ……」


 腕を組んで机に座った。

 なだめられるもの……


「あの、ハンカチかしましょうか……?」

「いらねぇよ!!」


 失敗。


「飴ちゃんあるッスよ~」

「……」


 受け取っていた。

 口の中に飴玉が入っているからか、口を開くことがない。

 しかし、その目が弁明を要求している。


「あのですね、藤十郎は2010年より前の作品が見れないんです」

「……」

「いえ、見ようと思えば見えるそうなんですけど」

「拒絶反応が出るそうでな」

「わかること言った!? あ、アメがっ!」


 まりもさんがぎりぎりで飴玉をキャッチしていた。

 そして、飴玉を口の端に寄せて口を開いた。

 なんで寄せたのが分かるかって?

 右の頬だけ膨らんでるからです、かわいい!


「大した問題じゃねえだろ」

「大問題ですぞ! いいですか、アニメというものはここ10年で完成されたわけではございませぬ。もっと長くの歴史をもつものなのですぞ。それにもかかわらず、拙者はここ10年程度のものにしか触れることが出来ないのです。これがどれほどの不幸か。あぁ、2年前の拙者、一生呪い続けますぞ……」

「お、おう」


 そういって、こちらを振り返る。


「要約してくれ」

「話は進んでません」

「おっけー、わかった。これから遠回りした奴は一発覚悟しろ」

「そうッスねー……まりもっちは映画も見ないんスよね~」

「えっと、まりもさん。人の顔って、時代が変わってもそんなに変わらないじゃないですか?」

「ん、まあ、白黒写真でも日本人は日本人の顔してるよな」

「それなんです」

「あ?」

「その何々人の顔ってよく見かけるからそう判断してますよね?」

「……まあ、そうだろうな」

「そこで、これを見てください」


 ある画像を見せる。

 これはTweeeterで流れてきた画像だ。

 下に年がかかれ、その上に画像がそれぞれ載せられている。


「なんだこれ」

「それがアニメにおける顔の変化です」

「ふーん……ん!? これ、人間か?」

「はい。わかってくれたみたいですね」

「どこに鼻ついてんだ」

「これがアニメです。目の大きさ、鼻や口の位置など、最近は変化が少ないというか、許容範囲が拡大しましたが、スタンダードは短い期間にこれだけ変わってきたんです」

「いや、これ、えぇ……」

「この中で、2010年のものはこれですぞ。そして、それより左は拙者が見れない範囲ですな」

「はぁ……」

「別にそこまで気にならない人も多いですよ。僕も、古いなー、とは思いますけど、見れなくはないですし」

「我もだ」「おれっちもッス」

「って、こいつがおかしいんじゃねえか!」

「いいですか、マリモ姫……」

「お、おい、なんで泣いてんだ……」

「どうか……どうかマリモ姫は昔の作品も……どうかっ!!」

「な、何だってんだ」

「ちょっと藤十郎の言ってることもわかるんですけどね」

「わかるなら説明してくれ」

「アニメって、何が重要だと思います?」

「あ? あー、話の内容じゃねえの?」

「それなら原作でも読んでくだされ!」

「藤十郎はステイね、ステイ。えっとですね、人って見た目が9割9分って言うじゃないですか?」

「ん? ん……いう、のか?」

「まあ、見た目もアニメの構成要素の一つではあるわけです。ここでですね、一つ問題があります」

「あ? 問題?」

「仮に、アニメの評価は脚本と作画の二つで決まるとして、脚本90点、作画40点のアニメと、脚本60点、作画60点のアニメ。どっちが『いいアニメ』だと思いますか?」

「……130点と120点なんだから、130点の方だろ」

「はい。それも一つの答えです」

「一つっつうか、そうじゃねえのか?」

「でも、脚本と作画を平等に判断する人って少ないんですよ」

「ん? んん?」

「つまりですね、今は脚本と作画、それぞれを100点満点で評価しましたけど、人によっては脚本の点数は100点満点でも、作画の点数を50点満点にしている人もいるんです。もちろん、逆も」

「……なんとなく、わかった。だから、さっきの後者をいいって言う人もいるんだな」

「はい。そして、藤十郎の話になるんですが、作画の好みって人によって違うんですよ」

「またこんがらがってきたけど、続けてくれ」

「昔のスタンダード、もしくは最高と言っていいほどの作画がされていても、現代の基準に合わせると作画崩壊といって、『変な絵』として、扱われるのが当然といったものもあります。ここからは、藤十郎の意見ですけど、『内容は最高』というアニメを進めてくる人間は時代に沿っていないそうでして」

「当然ですぞ! 内容だけ見て決めれるのなら、棒人間でアニメでも作っていればいいのですぞ!」

「……まあ、これは極端ですけど、見れる、見ようと思える作品を狭めるのはいいことではないので、どれからみてもらおうかな、と迷ってるわけです」

「……で、お前たちのおすすめは?」

「はい?」

「だから、お前たちがすすめたものから見ればいいんだろ? 初めからなんだからなんにもわかんねーんだし、とりあえず見てみて、ダメならダメでいいじゃねえか」

「まりもさん!」


 すごい!

 本当にすごい!

 そんな覚悟を持っていたなんて!!


「感動しました!」

「だからちけぇんだって!!」

「みんな聞いた?」

「もちろんッス」「うむ」「マリモ姫……」

「来週までにリスト化しよう! そして、まりもさん」

「ああ」

「体調に気をつかってくださいね」

「? ああ」

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