ヤンキー娘と音痴な声豚
皮以祝
第1話 男だらけのオタサーに一人の女の子が……
「あっ、ごめんなさい」
中国語の講義室に入ろうとしたところで、そこから出てきた人とぶつかってしまった。
「あ゛? チッ……おい!」
「っ!?」
「おとしたぞ」
こ、これは……
「ん? おい、さっさと受け取れよ」
目の前の女の人が差し出しているのは、僕のハンカチ。
ぶつかったときにポケットから落ちてしまったらしい。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「おい、聞いてんのか?」
「あの!」
やっぱり……
「お、おい! なんだよ、近いって!」
「僕たちのサークルに入りませんか!?」
「……はぁ?」
この大学で、
「お願いします!」
「嫌に決まってんだろうが。いいからさっさと受け取れよ」
「サークルに入っていただけるなら、それ、差し上げます!」
「いらねぇよ!」
「そんな……
白鷺仁恵さんは、美少女ゲーム『喫茶ネイジュール』に出てきた女店長で、ボサボサの長い黒髪で、基本的に煙草をくわえている年上サブヒロインだ。
そう、サブヒロイン……人気投票でメインヒロインの二人に勝ったのに、結局サブヒロインのまま終わってしまった。
「知らねぇよ! 誰だ、ってか、絵だろ」
「限定品ですよ!?」
「他人のハンカチなんていらねえって言ってんだよ!」
「安心してください、それ、僕のお守りみたいなものなので、使ったことありませんから!」
「知らねえ、ってか、さっさと受け取って退けよ!」
「退きません! 少し話を聞いてください!」
「だから退けって!」
「退きません!!」
「これから便所行くんだよ!!!」
@@@
「お、音無殿、来ましたな。聞いてくだされ、小杉殿、が……」
「む?」
「あれ、あゆむっち、誰っすかー?」
部室にはいつもの面々。
アニメ研究部は、そこに僕が加われば全員だ。
今までは。
「新入部員です!」
「ほう……」
「き、聞いておりませんぞ!?」
「期待の新人ですよ!」
「その、金髪ちゃんがッスかー?」
視線の先は、当然、僕の連れてきた女の子。
長い金髪をいじりながら、どこか着心地悪そうにしている。
「お、音無殿! 拙者、寝耳に水ですぞ!? そ、そんな、このサークルに、おなごが……」
「我も同感だな。この地は選ばれた者のみが着御を許される聖域である」
「ってか、別に入りたいとか……」
「「「ああ、なるほど(ッスね/な)」」」
「っ!? な、なんだよ……」
三人の揃った返事に一瞬おびえたように見える。
「音無殿は、貴殿のような声がお好きですからな」
「うむ」
「よく見つけたっすねー」
「さっきから声声って、何なんだよ!」
「まあまあ、落ち着いてくだされ」
「まずは、自己紹介しましょう」
「あゆむっちは相変わらず空気読まないっすねー」
お互いに名前も知らないと距離を詰められない。僕も女の子の名前も聞かずにつれてきちゃったことは、ちょっとどうかと思っていたし。
「僕は音無歩夢です。絵を描くことが好きです」
「アユムは、深淵の呻きの如きも、であろう?」
「あ゛? ……なあ、コイツなんて言った?」
「ガラガラした声って言うか、ハスキーボイスが好きなんすよ、あゆむっちは」
「はぁ!?」
「?」
そんなに驚かれるようなことですかね?
普通にいると思うんですけど。
「じゃ、次は俺っちで!
「いや、別にいい」
「ッスかー……俺っちのことは好きに呼んでくださいッス! ちなみに小杉って呼ばれるのが好きッス!」
「お、おう……小杉な」
「ッス!」
小杉は本当に歌がうまくて、カラオケなどに行くと、90点以上は当たり前で、以前に100点を出した写真も見せてもらったことがある。
本人を褒めると『カラオケで点数を取れるのと歌がうまいのは別ッスよー』と謙遜するんだけど、僕達からすればそもそもカラオケで高い点数を取れないのでわからない。
「ふむ……次は我か。我が名は、クリンゲル・バウム・ロートス! 現世で唯一の吸血鬼である!」
「ちなみに、名前は鈴木蓮って言うんすよー」
「ふ、それは世を忍ぶ仮の名。我が名はクリンゲル・バウム・ロートスである」
「仮名が鈴木蓮、真名がクリンゲル・バウム・ロートスとして、真名の方を名乗ってよろしいので? 魂に刻まれた名を知られるのは、まずいのでは?」
「(´・ω・`)」
「では、次は拙者ですな。拙者、佐々木藤十郎と申します。このサークルのサークル長を務めておりますぞ。特別申し上げる特徴もなく申し訳ありませぬが……」
「いや、お前ちゃんと自覚しろ? 変だぞ?」
「次は……」
自然と視線が集まる。
連れてきた名前不詳の女の子。
「う、うち、は……」
「はい」
「……っ、別にどうだっていいだろ!」
「おっと、逃がしません!」
扉の前に立ちふさがる。
……と思ったけど、どかされそうになったら抵抗する気はない。
「僕は、貴女にこのサークルに入ってほしいんです!」
「な、なんでうちなんだよ!」
「貴女(の声)が好きだからです!」
「っ!」
目を見開いている。
目の前に好物があるなら、逃したくない。
「名前、教えてくれませんか?」
「……」
「……」
「……み、
「はい」
「御嶽……
「まりもさん……」
「変な名前だろ?」
「とってもいい名前ですね!」
「は?」
「まりもさん……珍しい名前ですけど、かわいいです」
「か、からかうなって! 自分でも変な名前ってのはわかってんだよ……」
「変、ですか……?」
顔を見合わせる。
「俺っちの名前もだいぶ珍しいと思うっすけど、何より……」
「うむ」
「ですな」
「「「「二次元ならあり得る(ッスよ/な/ですぞ)」」」」
「っ……! に、二次元じゃねえんだよ!」
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