Prologue
Prologue
年季の入ったガラステーブルの表面を埋め尽くすように貼られた、カードサイズの付箋紙。窓から差し込む眩い朝日が、雑然としたリビングの中でその四角い紙の存在を強調していた。
薄いイエロー、ピンク、ブルーといったカラフルな付箋紙には、昨日の夜、アルコールの勢いを借りて書きつけた私の文字がのたくっている。
《昔はちゃんと好きだったのに》
《どうしたらいいと思う?》
《楽しかった!!》
口から出た言葉は、録音でもしない限りは一瞬で消える。人の記憶がやがて薄れて曖昧になっていくように、言葉に伴う感情や事実も、やがてぼやけて形を変える。
でも、文字だけは残る。
お酒を飲んでひと晩経ったらすっきり、なんてことにはしてくれない。
爽やかな朝が来ようがいつまでも残って、鮮やかにくっきりと、私にその事実を突きつけ続ける。
現実を見ろと責め立てるようなたくさんの文字を見ていられなくて、私は視線をリビングから目の前のダイニングテーブルに、そして向かいの席に座っている、出会ったばかりの彼に戻した。
クールな瞳とかち合った。
三十も過ぎて、我ながら情けないほどのこの状況。第三者でしかない彼にしてみれば、呆れることしかできないだろうと思っていたのに。
クールな表情を崩さずに、彼はさらりとこんな提案をしてきた。
「俺がここに住むの、どうですか?」
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