六章・陽光(4)
「殿下!」
「魔弾も効かない!?」
イナゴの群れと戦っていた兵士達は巨人に向けて魔弾を放つ。ところが身じろぎ一つもさせられない。異界の“神”と戦うには、魔弾を以てしても火力不足。
──かと思った直後、その頭部を、彼方から飛来した閃光が貫く。
【はっ!?】
「命中! 命中です艦長!」
「よし、引き続き援護だ! 怪物共をぶちのめせ!!」
【なっ、えっ、船!?】
ドロシーの超視力は東京湾に浮かぶ二隻の軍艦と、その甲板上の馬鹿げたサイズの大砲を発見する。
【あれ、まさか大和の──あんなものまで復活させたの!? しかも、霊術と疑似魔法学を組み込んで!】
「ロマンが、あるでしょうが!」
動きが止まった巨神の腕を、長く伸ばした刃状障壁で斬りつける朱璃。神経を切断され敵が怯んだところへさらに二発、海上からの援護射撃が突き刺さる。命中箇所が良かったのか、敵は膝をついて拡散を始めた。
朱璃が普段使う対物ライフルの弾は口径一二.七mm。対し、あの大砲から発射される徹甲弾は二m。同系統の術式で加速させたものであっても威力は文字通り桁違い。
「もっとも、一発ごとに魔素結晶のカートリッジを一本使い切る上、術士の援護も無きゃ使えないけどね!」
「今度は私達が引き受けます!」
「いってください!」
目の前の巨神が倒れる中、術士達が残る三体への対処に名乗りを上げた。
「あなたがたの武器で奴らを倒すことはできない! でも私達には」
「私がいます」
桜花から受け継いだ刃の切っ先を、残る三体のうち一体へ向ける斬花。彼女の刃状障壁の術なら、あの巨神達の全身を覆う鎧を無視して体内を攻撃できる。あれらとて記憶災害である以上、必ずどこかに核となる“竜の心臓”が存在している。それを断ってしまえばいい。
決意を固めた少女達、その先頭に立った斬花へ朱璃は一つ伝えた。
「アンタのその術、何度も助けられたわ」
「えっ……?」
「はっきり言って最高よ。大したもんね」
普段、あまり他者を褒めることのない朱璃。その彼女にとって、そっけなくも聞こえるこれは最大級の賛辞。
「やったな、斬花。胸を張れ」
「だから言ってんだろ。オマエはスゲーヤツなんだって」
「……はい」
姉達に肩を叩かれ、涙を拭った斬花に小波も無言で親指を立ててみせる。彼女も笑顔で同じジェスチャーを返した。
「じゃあ、頼んだ」
「はい!」
術士達を残し、星海班と護衛隊最後の生き残りになった大谷がさらに上を目指す。
近付いて来る三体の神と対峙した彼女達は、残る力の全てを振り絞り、解き放たれた矢のように夜空を駆けた。
人間が、ましてや凡人が“神”に挑むなど正気ではあるまい。
しかし、時に狂気を行えるのが人間だ。
礼儀として名乗りを上げる。
「天王寺 斬花、この名を覚えてください。今から、あなたを斬る者の名です!」
「さて、お前は厄介な力を使っていたな。私が相手になろう」
金縛りの力。あれを他の仲間へ再び向けられてはならない。あの時と同じ緑色の光輝を纏う敵に単身挑むカトリーヌ。任せろと言って、姉妹達は別の二体に当たらせた。まずは甲冑の隙間の目を狙い、銃撃。
敵は意に介さず近付いて来る。距離を取ろうと後ろへ下がる彼女。ところがその瞬間に緑色の光に包まれ──姿を消す。
『!?』
何が起きたかわからない敵の背後へ回り、甲冑の隙間から首筋に長刀を突き刺す。中身まで硬かったらどうしようかと思ったが、手応えありだ。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
怒りの咆哮を上げ、手の平で彼女を打ち据える巨神。さらには鷲掴み、引き剥がそうとする。
だが、させない。お前にはもう少し付き合ってもらう。
次の瞬間、彼女がこっそり落としておいたクナイが地面に突き立ち、巨神を、その影を縫い留めた。さっき自身がやったのと同じように一瞬だけ金縛りに遭う彼。
その一瞬で再び前方へ回り込み、甲冑の隙間の目に向かって紙人形を投げつける。式紙を媒介にした霊力障壁が展開され、全ての光を遮断した。
『ウウウウウウウウウウウウウウウウッ!』
見えてはいない。見えてはいないが飛び回るカトリーヌを正確に目で追う巨神。全身を覆う光がさらに強くなる。
それなのに止まらない。カトリーヌの飛行速度はさらに上がって行く。
「母様の言う通りか」
何故か母は知っていた。この敵の能力は見ている相手にしか通じないと。だから視覚を封じさせてもらった。気配で位置は掴まれていても、これなら身動き取れなくなる心配はいらない。
作戦変更。やはり倒してしまおう。少しでも妹達の負担を減らしたい。
「あの子にならって、私も今だけはこう名乗らせてもらおう。天王寺
「だりゃああああああああああああああああああああああああああああっ!」
次々に火球を生み出し叩きつける烈花。岩をも融かす超高熱は、されども巨神の甲冑に対し全く通用していない。
巨体に見合わぬ素早い動きで反撃してきた。とてつもなく大きいハンマーが乱流を巻き起こす。すんでのところで、その一撃を避ける彼女。
「くうっ!?」
掠めただけで、乱気流がダメージを与える。あの攻撃はもっと大きく避けなければ駄目だ。仲間達にも警告を発しようとした。
その時、悲痛な声が発せられた。
「鳴花っ!!」
今の一撃で一人やられていた。動揺した少女を狙い、さらなる追撃が繰り出されようとしたところへ彼方からの閃光が直撃する。海上からの艦砲射撃。腕を貫かれた巨神は少しの間だけ動きを止めた。
それを見て、烈花は一時の動揺から立ち直り、覚悟を決める。
「アレしかねえ……!」
まだ自身の安全を確保できない未完成の術だが、やってやる。北日本の“魔弾”と同じように霊術と疑似魔法学を組み合わせた“アレ”の火力なら、この怪物にもきっと攻撃が通る。
「伊達に烈花と名乗っちゃいねえぞ! 当代随一の炎術、喰らって吹き飛べ!」
その手足に装着されたDA二〇八が銀の輝きを放出し、渦を巻いて少女の髪をたなびかせた。
──そして、月華は。
「風花、私は、あと一回しか全力の攻撃を撃てない」
「はい!」
「チャンスは必ず来る。だから、それまで私を守ってちょうだい」
「了解です!」
「他の子達を見捨てることになっても、動いては駄目よ」
「……!」
「返事」
「わかりました、母様!」
月華に次ぐ霊力と相性の良い風霊達の力を駆使して迫り来る飛竜をことごとく弾き返す風花。
彼女が生み出した竜巻の中、月華は天頂を見上げ、呼吸を整える。
最後の、そしてとっておきの一撃のために精神を統一する。
それを放つ瞬間に備えて。
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