トリクル・トリクル2

ドリームワンダーワールドを歩きながらドリームイーターをシモンとユアは探していた。

先陣を切って歩く彼女。

ふと、ユアはそんなシモンをぼんやりと見つめる。

そういえば、最近。

もしかしたら、ユアが気づかなかっただけで最初からかもしれない。

時折シモンが、標が、ユアの知らない人になる。

なんというか、確かに彼女がシモンであることは確かだ。

けれど、シモンとは別の雰囲気を彼女からユアは感じる時があった。

標じゃない彼女。

男前で誰よりも世話焼きな標。

でも、最近は紳士的で穏やかな一面が彼女から出ている時がある様な気がする。

使うのが苦手だと言っていた敬語も、最近ではすらすらと出るようになっているのも知っていた。

一体アナタはダレ…?

心の中で小さく呟いた。

そういえば、最近では標からも、ソレは顔を出すようになっている気がする。

いつからだろう。標がそうなったのは。

ちょっとだけ、不思議に感じた。

今のシモンは標だろうか。

それも……?

そう思いつつ、じ、とユアはシモンを見つめた。

視線を感じたのか、そんなユアの姿にシモンは首を傾げながら振返る。

「どうしたんだ、ユア?」

急に振り向く彼女。

シモンの問いかけにユアは思わず戸惑った。

どうしよう、そう思いつつ導き出された己の口から出る言葉。

「エット…イマノシモン…ダレ…?」

歯切れ悪く問いかける。

なんてことを問いかけてしまったんだとユアが心の中で頭を抱えた。

シモンはそんな彼女の問いかけに驚いたように瞳を丸くする。

当たりをキョロキョロと見回せば、困ったように眉を下げて笑った。

そして彼女の肩を片手で掴めば、空いた方の手の人差し指をユアの唇へと当てる。

そしてくり、とした琥珀色の瞳でユアをじ、と見つめた。

少しだけ、彼女の瞳が青みがかった気がする。

「ごめんね、ユア」

申し訳なさそうに小さな声で呟いた。

「秘密なんだ…まだ、言えない…な…」

掠れた声を出す彼女は顔を歪める。

「…」

しぃん、とした時間が流れた。

二人の隣で流れていた桃色の川の流れる音だけが空間にこだまする。

「エト…ゴメン」

先に口を開いたのはユアだった。

己の唇を抑えた彼女の指を掴めば指を絡めてぎゅ、と握りしめる。

その手を握り返せば、シモンは小さく呟く。

「僕こそ…言えなくてごめん…なさい…」

申し訳なさそうにシモンが俯いた。

ユアが首を横に振る。

そして空いた方の手をシモンへと伸ばす。

彼女の頬を優しく揉めばふふ、と笑った。

「シモン、イマハダイジョウブ。ハナセルトキ、オシエテ…?」

言えないからって、シモンの事は嫌わないよ。

だから、大丈夫。

そう伝えようとふにふに、と彼女の頬を揉む。

その言葉にシモンが頷いた。

ユアの態度に安堵したのか笑顔になる。

「勿論だよ!いつかちゃんと、伝えさせて」

ごめんね、沢山言えないことがあって。

ちゃんと時が来たらキミに伝えるから。

そう、心の中で呟けば己の頬を優しく揉む手を、ぎゅ、と握りしめる。

ドリームワンダーワールドの空はさらに紅みを増していた。

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