笛の音は遠く彼方から2

羽灯縁祭が始まった。

ガヤガヤと人が賑わう三年の二つの棟は、沢山の生徒がお店を開いている。

着ぐるみ喫茶、

眼鏡喫茶、

物語喫茶、

などなどといろんな喫茶店がある中、一際人気なのが女装喫茶である。

在舞は慣れない短いスカート、黒いブラウスにふわふわとした白いエプロンを掛けたメイドの衣装。思わず恥ずかしくて赤面しつつ、カーテンの隅から様子を伺っている。短い栗毛は、ウィッグを被り、ストレートでとても綺麗な髪だ。傍から見れば清純派なメイドの様になっている。

思ったよりも似合っている自分に在舞は逆に悔しくて堪らなかった。

このメイド喫茶の支配人の栄斗が在舞の背後に立つ。

支配人は支配人の為、その権限で女装はしないらしい。

不公平だと在舞は思った。

「紡くん、駄目じゃないか。ちゃんと出ないと」

お客様がお待ちだよ、と在舞の背中を押す。

「か、風鴉くん!?その…い、嫌なんだけど…」

在舞がせめてもの抵抗に首を横に振る。

服装を替えてくれないかと懇願した。

その願いも虚しく、栄斗が首傾げる。

「何言ってるのかな。こんなに可愛いのに出ないなんて勿体ないよ。多分クラスで一番可愛いんじゃないかな?」

ほら、誰よりも似合ってると栄斗が在舞へと微笑んだ。

栄斗の言葉に単純なせいか、少し嬉しくなる。

「そ、そう……かな…?」

照れくさそうに問いかければ今がチャンスだと言うように栄斗がにこやかに笑う。

「うん、だから出てきてくれたらみんな喜ぶと思うよ」

出来るよね?と畳み掛けるように栄斗が在舞へと問掛ける。

「う、うん……」

その笑顔に在舞は断れる訳がなかった。


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