大志を抱く事が出来なかった少年は3

「僕にあの時、力があったら……」

そう、呟き、溜息を吐く。

栄斗が指揮杖へと視線を落とした。

それは、昔去ってしまった同級生と一緒にしていたマーチングバンドで使っていた指揮杖だった。

栄斗は魔法少女になる時、まさか、その指揮杖が選ばれるとは思っていなかった。

メリル曰く、魔法少女の変身アイテムは、己の潜在意識の中で、印象に残っているもの。その上で己の願いに一番近いものから選ばれるらしい。

でも、栄斗は何故、それが、指揮杖が選ばれたのか分からなかった。

何故なら栄斗の願い事は『人に嫌われたくない』だからだ。

だから、指揮杖が選ばれる理由が分からなかった。

栄斗は、ベットから起き上がり指揮杖を持つ。

そして再び指揮杖を持ったまま、寝台へとごろん、と寝転がった。

「もしかしたら僕は君に嫌われたくなかったのかな……」


ねぇ、どう思う?


心の中で呟いた。

指揮杖を胸に抱けばそのまま瞳を閉じる。

強風が止むことはなかった。

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