それは一輪の花2

標には生まれてくる時に双子の姉がいたらしい。

らしいというのは両親から聞いた話だからだ。

高校に上がるまで、標はずっと一人っ子として生きてきた。

しかし、ある日、母親の使っていたドレッサーから臍の緒を二つ、見つけた。

何故二つだろう?

標は首を傾げる。

ある日のこと、母親がドレッサーの前で臍の緒の入った箱を握りしめて泣いていた。

標は扉から顔を覗かせて母の話を聞く。

話の内容はこうだ。

「実はね、標。アナタは双子だったの。でも、産まれる時にアナタしか生きていなかったのよ……ごめんなさい。言えなくてごめんなさい……弱い母親でごめんなさい。お姉ちゃんを産んであげれなくてごめんなさい……」

その時何かがストン、と腑に落ちた気がした。

可愛い物が好きになること、女の子みたいな服装に憧れを持ったこと、母の化粧品に惹かれたこと。

もしかして、自分の少女趣味は姉によるものなのではないだろうか。

自分の中に姉が生きている様な気がする。

同時に、姉弟が死んでしまったという事実に酷く絶望を感じた。

そして、高校に入学する時、標は臍の緒の入った箱の中に一緒に入っていた蝶の模様のコインを御守りとして持ってきたのだ。

その後、一通のメールが標の元に届く。

それは、標が魔法少女になるきっかけの、シモンになったきっかけのメールだった。

標は願いの欄にこう、打ち込む。

『一度でいいから姉に会いたい』

その日から標は、心の中に生きている姉に会うために魔法少女になったのだ。


☪︎ *.

「こんな、感じだな」

あんまりいい話してやれなくて悪いなと苦笑いをする。

「そんなことないよ、辛かったんだね標くんも」

之彦が標を抱きしめた。

「はは、サンキュ」

そう言って貰えて良かったよとわしゃわしゃと之彦の頭を撫でた。

「……皆色んな事を抱え込んで生きてたんですね」

知りませんでしたとゆうきがあんぱんをゆっくりと引きちぎる。

「まあ、そんなもんだろ。誰にも秘密はあるもんさ。話せてスッキリしたぜ、ありがとな」

「ううん、こちらこそ。話してくれてありがとう」

知れてよかったと之彦が微笑む。

「そう思うと、きっと会いたい人が何処にいるか分かった子音くんは会いたくてしかたないでしょうね」

その言葉に一同頷く。

「そうだよね、願いを叶えられるんだ。それは会いたいよ……」

「子音の願い、叶うといいな」

こく、と頷いてはそれぞれ購買で買ったパンを食べ始める。

空は天気が良くてピクニック日和だなぁと、ゆうきは空にふよふよ浮かぶ雲を見上げた。

「これから、どうしたらいいんでしょう」

それは誰にも分からなかった。


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