お誕生日にはケーキが付き物で4
「ぅ、え……っぁ゛、げほ、……げほ」
寮の一室。その部屋の一角に設置されている洗面所の向かいにある、御手洗。
そこで璃音は先程無理やり腹の中へと詰めこんだケーキとコーラを吐き出そうとする。
細い指先をぐい、と喉の奥へと突けば嗚咽感が璃音を襲った。
口いっぱいに広がる甘くてどこかツーン、とした酸味のある味を噛み締めながら便座を強く握りしめる。
別に何も、璃音は甘いものは苦手という訳では無い。
甘いものは好きではあるし、普通に食べることもできる。
しかし、彼らの好意が、仲良くなりたいという不純な動機が、甘ったるい感情が、璃音には気持ち悪くて仕方がなかった。
何とか、誕生日会の時は平穏を装っていたが、内心はとても大荒れだった。
悪気がないことは分かっている。
でも、向けられる好意にどうしても嫌悪感を抱いてしまう。
昔からそうだった。
男性から好意を向けられることが、恋愛感情であれ、友情的な感情であれ璃音にとっては気持ちが悪いのだ。
そう、他人からの好意が気持ち悪くて仕方なかった。
しかも、男性限定だ。
今回誕生日会を開いてくれた彼らに何も悪気がないことは分かっている。
でも、恐怖や嫌悪感は決して拭えることはなかった。
だから、この恐怖を取り除く為にこの学園に来たし、あいつから逃れる為に全寮制であるここを選んだ。
だから、男だらけのこの空間で生活するのは承知の上だった。
最初はルームメイトですら嫌悪の対象で、一緒の空間にいるだけで吐き気を催した。
しかし、慣れてきたのか、向こうが関与してこない性格のせいなのか、気づいた頃には空気のような存在へと変わっていた。
だから、今の寮生活は何とかなっている。
それにしても、折角己の誕生日を祝ってくれた友人になれるかもしれない人達に申し訳無くなる。
なんで、己はこんなにも生きづらいのだろう。
「くそっ、」
再び、悔しさで便座を拳で殴りつけた。
空いた方の手で己の耳に付くピアスを引きちぎれるくらいに強く引っ張る。
悔しい
悔しい
悔しい
目の奥がじぃんと、熱くなった。
自分の弱さが、情けなさがとてつもなく嫌になる。
その場に崩れ落ちればフローリングの床に額を押し付けつつ涙を零した。
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