十四章 ラブリーヘブンリー
灯縁学園の近く、寮に向かう途中の商店街には様々なお店が建ち並んでいる。
八百屋
果物屋
文具屋
そして、ケーキ屋。
その甘い匂いに誘われて、時折学園の男子高校生がふら、と放課後立ち寄ることがある。
今日もふらり、と一人の生徒がケーキ屋、
『フランボワーズ・トルテ』へと立ち寄るのだ。
カラン、と扉の開くベルの音が鳴る。
双葉 標が店内へと足を運ばせた。
「すみませんー」
店内へと入れば声を上げる。
それと同時に温かい風と甘い香りが鼻を吹き抜けた。
そんな優しい香りに思わず甘いもの好きな標の頬は緩んでしまう。
「やぁ、いらっしゃ~い」
ひらひら、と茶髪の店主がショーケース越しに嬉しそうに手を振った。
「こんにちはっす、あづきさん!」
標が嬉しそうにショーケースの前へと掛けよればあずきへと、ぺこり、と九十度に身体を曲げてお辞儀する。
「久しぶりだね~、今日はどーしたの?」
キョトンとあづきが首を傾げればケーキを食べてくかと問いかける。
その言葉に思い出したようにハッとして顔をあげれば今日は遠慮しておきますと申し訳無さそうに首を横に振る。そして、一枚の紙をあづきへと手渡した。
「あの、難しいとは思うんですけど、出来そうっすかね……?」
心配そうにあづきを見上げれば紙に書かれていた斬新なアイデアに楽しそうにふふ、とあづきが笑う。
「ん~?へぇ、なるほど……いいよ、試してみるね」
その言葉に安心したのか標の顔が綻んだ。
「ありがとうございますっ!」
勢いよく頭をあづきへと下げる。
「あ、じゃあ、これで!また、その日に取りに行きますんで!」
よろしくお願いしますっ!と急ぎで駆けていく。
元気だなぁ、と見守りつつも入れ違いで人が一人、
店内へと入ってきた。
「おや?」
思わず、あづきが声を上げる。
ここら辺では見ない、いかにも海外で見るようなモデルのようなスタイル。金髪の長い髪、それをサイドで一括りに纏めており、白いセーターにハーフパンツを履いた青年。瞳はサングラスをかけているため見えず、一瞬誰だろうかと首を傾げた。
コツコツ、と高そうな革靴を鳴らしショーケース越しに、あずきの元へと近寄った。
青年がサングラスを外すと、穏やかで幼い顔が露わになる。
「お久しぶりです、あづき先輩」
お元気でしたか?と青年は問いかけた。
「あー、エミルかぁ。久しぶりだねぇ。大きくなってて全然わかんなかったなぁ」
こりゃ驚いたと、昔なじみの後輩の姿に嬉しそうに笑う。ケーキでも食べに来たのかと問いかければ首を横に振る。
ちょっと寂しくなった。
そんな能天気なあづきとは裏腹に、真剣そうに顔を顰める
「お久しぶりです……実は、先輩にお聞きしたいことがありまして、ノルウェーからここまで来ました」
その言葉にすごいぇ、とあづきが呟く。
そしてなにかなと首を傾げた。
エミルが一息着く。
そして、真剣な瞳であずきを見据えた。
「ダイチについて……降谷 だいちについて教えてください」
カラン、と開いていた扉が閉まる音がした。
店内には甘い香りが充満している。
ショーケースを挟んであづき側。
そちら側に建てられた写真に載っている生徒達。
そこにはあづきや、エミル、そして幸。その他に、降谷ゆうきとお揃いの紺色の髪に、赤い瞳をした生徒の姿が写っていた。
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