クリームソーダは口の中でぱちぱちと跳ねて4
彼との出会いは桜舞い散る入学式。
葵は入学祝いに買ってもらった自前のカメラで桜を撮影していた。
その時、彼に出会ってしまった。
桜に今にも攫われそうな、線の薄い美少年。
背が高く、人の輪の中心に居た彼に思わず一目惚れをしてしまった。
会話を交わしたことはなかったに等しいかもしれない。
その日から無意識に彼を目で追うようになっていた。
恋とは違う憧れという感情を胸に秘めている。
時折己を見つけて手を振ってくれる彼の姿。そんな彼の優しさに段々と執着して行ったのだ。
しかし、ある日。彼が事故で亡くなった事を知らされる。
葵は世界に絶望した。
もっと、彼を眺めていられると思っていた。
これからもずっと彼が手を振ってくれると思っていた。
それなのに…
一瞬で己の中の何かがガラガラと崩れ落ちる。
嗚呼、もっと、もっと、自分が彼に話しかけれて居れば良かった。歩み寄れば良かった。
そんな気持ちでいっぱいだった。
後悔してももう遅い。
それは自分が一番よくわかっている。
そんな時、携帯に一通のメールが届いたのだ。
『おめでとうございます!今日からアナタも可愛いかわいい魔法少女です♡
さあ、アナタの願いは?』
放課後。窓から差し込む夕日は紅く、燃え上がっている。日が輝いていた。
手元には無機質な個体。今では珍しい、ガラパゴス携帯が握られていた。
その画面の中に映し出されたピンク調の可愛らしい文字。
その文字が紡ぐ言葉に、は?と思わず素っ頓狂な声が零れ落ちた。
願い、なんて…
思わず鼻であしらうように笑う。
そしてふざけ半分に、天からつるされた一本のクモの糸へと縋るように己の願いを打ち込んだ。
『大切な彼をもう一度だけ、己の撮った写真におさめたい』
その日から僕は魔法少女になった。
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