秋乃は立哉を笑わせたい 第8.7笑

如月 仁成

予告編 ボクシング・デー


 ~ 十二月二十六日(土)

    ボクシング・デー ~

 ※けん玉

  世界中にある、穴付きの玉と棒を

  ひもでつないだおもちゃ。

  技の種類は想像力次第で無限大。




「凜々花、ATMになりてえ」




「ごほっ…………。すまん、熱のせいでバカなこと言うお前が天使に見える」


「あんな? おにい、熱出して寝てる場合じゃなくて、手伝って欲しいの」


「じゃあ、まずは練習だ……。恥ずかしがらずにATMになり切ってみろ……」


「ハジメカラ、ソウサヲ、ヤリナオシテクダサイ」


「それ、一番恥ずかしいヤツ……。ごほっ」


「ねえ。どしたらいい?」


「どうしようか……。電卓持って、口からお札出るように……」


「ハルキーにお年玉あげてえんだ、凜々花!」


「ごほっ。…………単に、金が欲しいだけ?」


「そ」


「ATMが生み出してるわけじゃねえから、金……」


「それくらい知ってるよ。お金、毎日貢いでくれる人がいるでしょ?」


「もてるなあ、ATM……。俺、将来は好きなATMに貢げる男になろう……」


「ハルキー、ジャパニーズネンマツネンシーなことした事ねえって」


「そうか。それであげたいのか……」


「だから、まずはATMの材料探しに行ってこようと思って」


「そうか……」


「まずは、押してもうめえ事反応しねえタッチパネル!」


「あったかいかっこしていきなさい……。毛糸の何か……」


「ばあちゃんが送ってきたやつ?」


「……どこにかぶる気だよドアノブカバー」


「ほんじゃ、毛糸の帽子」


「毛糸のはらまき……」


「毛糸のパンツ。…………おにい、他に正月ぽいものってなあに?」


「…………すごろく、コマ、凧あげ、けん玉」


「これ?」


「……それ。ごっほごほ」


「ほんじゃまずはけん玉にトライアフタミー! あーゆーおーけー?」


「……おーけ……、そろそろ寝かせてくれ……」


「よっ! ……ほっ! ほわちゃー! あちょう!」


「寝れねえ……。うるせえ……」


「そい! んにゃっ! こなくそっ! ちょいやさっ!」


「しかも下手……。お前、年末年始に向いてない……」


「むきい!」


「ごふっ!? ナ、ナイスボディーブロー。年末年始っぽい……」


「ほんと? そんじゃまずこいつをハルキーに見せて来る!」


「ま、待て……。外は寒いから……」



 俺はけん玉の玉に。


 毛糸のドアノブカバーをかぶせた。



 それでも痛いかもしれねえけど。


 お年『玉』だと思ってあきらめてくれ、春姫ちゃん。



「じゃあ破壊力チェック! ちぇすとーっ!」


「ごはっ!」



 こうして俺は。


 ようやくゆっくり寝かせてもらったわけだ。

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