第11話 ファミレスでトーク

 朝倉に澪先輩を会わせ紹介すると、共に阿東が行こうとしていたキャバクラに向かい、話を聞いた。同伴の約束をしていたが、電話があり断られたらしい。理由は言ってなかったそうだが、焦っていたり怖がっていた様子はなかったという。続いて阿東の知り合いからも聞き込みを行ったのだが、徒労に終わった。


 おかんと澪とおれの三人で、ファミレスに来ていた。今日の調査が終わり、腹ごしらえを兼ねた意見交換をするつもりだった。


 おかんは目を輝かせメニューを見ていた。

「どれにしよかなー、ステーキにしよかな」

「太るで」

「うるさいな! もう太ってからええねん」


 ええんか。

 美脚体操とやらが台無しになる。」


 おれもメニューを開くと吟味した。ファミレスのメニューは沢山あるから困る。

 ぶ厚いハンバーグもいいな、デミグラスソースか、いや和風でもありだな。エビフライやオムライスも美味しそうだ。昨夜も鳥の唐揚げだったが、選択の余地はある。おっ、どんぶりもありだな……。カツ丼、焼肉丼、カレーに海鮮丼。どれもが主役級だ。


 迷っていると、隣に座っている澪が笑った。


「けいとくんは子供みたいに目を輝かせるんだね」

 おれは恥ずかしくなりメニューから顔を離した。目の前には、真剣にメニューを選んでいるおかんがいた。血は争えないということか。


 おれと澪はハンバーグを頼み、おかんは結局ステーキだった。


 食事を終えると、本題を切り出すように澪が言った。

「どんな方法で密室を作り出したんでしょう」

「そうですよね、カードキーは阿東が持っていたわけですし」

 とおれは言った。


「カードキーは二つだけで、三つ目はないんだよね」

「はい。作ろうと思ったら、カードキー会社に頼まなあかんみたいで、そんな記録はないらしいです」


「密室殺人のおおまかな方法は、何通りかあると思うのよ」

 とおかんはお茶を飲むと言った。

「例えば?」

「部屋の中で殺害し、そこから密室を作る方法がまずあるやろ。あと、

「なるほど」

「でも、外から包丁を刺すことはできひんやろうしな。そんな隙間も扉にないし」

 阿東は椅子に座り絶命していた。扉からは離れている。例え隙間があったとしても、包丁は届かない。射出すればいけるだろうか?


「こういうことも考えられません?」

 と澪は言った。

「社長さんは部屋の外で襲われ、

「ああ、ミステリー小説でもよくありますよね!」

「でしょ?」


 おかんの反応を見てみると、芳しくはなかった。

「カードキーはポケットに入ってたで、澪ちゃん」

「え?」

「包丁で刺され慌てて逃げ込んだのに、ポケットにカードキーをしまう余裕なんてある?」

「それもそうか……生死が関わる切迫した状況だとしまわないか……。じゃあKetuに頼み施錠してもらったんじゃ?」

「それもできへん。なんでかわかる?」


 澪は目をぎゅっと瞑り険しい顔をして考えた。

 数秒後、あっという声と共に目を見開いた。


「そうか、喉を刺されてるから声は出せない……」

「正解」

 おかんは嬉しそうに笑った。質問を投げかけ自分の力で気づかせようとしていた。後進を育てるのも大事と言った言葉に嘘はないようだ。


「それにやね、襲われて逃げたんやったら、窓から逃げようとするんちゃう? 一階やから問題はない。けど鍵は閉まってたし、社長さんは椅子に座ってたんよ。座る余裕もないやろね」

「じゃあ襲われて逃げ込んだ説はちゃうか」


 おれは思いついたことがあり、

「犯人は阿東のモノマネが上手いとするやん。阿東を殺害したあと外に出て、扉越しから大声でモノマネして閉めたとかは?」

「マイクが拾ってくれるかもわからないし、犯人の心情としては、人を殺したあとに大声は出したくないんやない?」

「それもそうか。それに動機は何なんやろんなぁ」

「痴情のもつれみたいな感じかもね。社長さんはずいぶんと遊んでたようだし」

 澪は顔をしかめ言った。すると、

「浮気とか最低だよ!」

 と突然、語気を強めびっくりした。なんだかおどおどしてしまい、まるでおれが浮気の常習犯のようだった。


「それは私も賛成やわ~、浮気や不倫の類なんて信じられへんっ。絶対許したらへんもん」

 とおかんも口調を荒らげた。

「そうですよね」

「そうやで」


 二人がギロりと睨んできた。お前は罪を犯すなよと、殺人者のような目で語ってきた。

 おれだってそんな不誠実な行いはダサいと思ってるし、自分がダサいと思うことはしたくない。かっこいいと思うことをしたい。しかし、殺人者のような目で見つめられたら、おどおどしてしまうのだ。


「先輩はもし、彼氏に浮気されたらどうしますか……?」

「監禁する」

「え?」

「一生外に出られないようにする。私だけを見ておけばいいから……」


 ただただ怖かった。考えが異常者のそれだ。

 その小さな体に、いったいどんな闇が潜んでいるのか……。

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