第61話 打ち上げ花火、先輩と見るか、友人と見るか その2

「誰か探してるのか?」


 瑛士えいじの声に、キョロキョロしていた俺ははっと我に返る。


「あ、わかった! お前と一緒に弁当を食ってる、三年の女子だろ?」


 なんつーさとい奴だ。きみのような勘のいいガキは嫌いだよ。


「俺たちなんかと一緒に花火大会に来てよかったのかね、リア充くん」


 黙りこくる俺に対し、瑛士はニタニタとウザ絡みしてくる。俺は心底嫌そうな表情をして、フランクフルトを乱暴に噛みちぎった。ああ、ジャンクな味だけれど、たまに食べるとやっぱりウマい。


「豪の好きな子って、三年なんだ」


 近くにいた及川おいかわが会話に混ざってくる。こいつも中学からの友人で、同じ春山北高校の生徒だ。

 うぐぅ、これはやばいぞ。このままでは話が広がって、今夜の話題が俺の恋話コイバナ一色になってしまう!


「なんでその三年女子を誘わなかったんだよ。俺らに気を使う必要なんてなかったのに」

「べつにお前らに気を使った訳じゃないぞ。そのひとも友達と行くって、最初から決まってたみたいだしぃ」


 やや気を落としながら答えると、及川からは同情の眼差しを向けられた。一方の瑛士からは……。


「連絡してみろよ」

「はぁ、なんで? なにを?」

「『もし近くにいるなら、ちょっと会いませんか?』ってな。チョコバナナかジャンボフランクおごりますから、って」

「殺すぞ」


 ドスの聞いた声であしらいながら、俺はちょっとその提案に惹かれていた。もちろん後半の方は論外だが。

 先輩は、鞘野先輩と色違いの浴衣を着るって言ってたから、『先輩の浴衣姿見たいです』って連絡したら、案外食いついてくるかもしれない。

 先輩はけっこう『見せたがり』なところがあるから。

 エプロン姿を披露してくれたときもそうだったけど、スマホカバーを替えたときや、新しいスニーカーを履いてきたときなんかは、必ず俺にアピールしてきた。事あるごとに写真もめっちゃ見せてくるし。


 まぁ、女子ってそういうもんなんだろう。母ちゃんだって、新しい服を買うたび俺に見せつけてくるし。


 今までは見せられるがままになっていた俺が、『見たいです』と主張すれば、いつも以上に喜んでくれるかもしれない。


 俄然がぜんその気になった俺は、メッセージを送るために人気ひとけの少ない方へと歩を進める。

 もちろん瑛士と及川がついてきたけれど、気にしない。尻ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。


「お、『あきら』っていう名前なのかぁ!」


 画面を覗き込んできた及川が声を上げるから、俺は手負いの獣のように威嚇して、奴らをわずかに遠ざけた。


『もし近くにいたら、少し会いませんか? 俺は池の南側露店スペースにいます』


 少し迷った挙句、そう打ち込んで、送信ボタンをタップ。

 まぁ、花火に夢中で、メッセージが届いたことに気付いてもらえない可能性もあるけれど。あるいは俺と真逆側にいて、にべもなく断られるかもしれないけれど。


『近くにいたら、でいいですからね。無理しなくていいですからね』


 追加でそんなふうに送信しようとした瞬間、前のメッセージに既読マークがついた。そして……。


『いいよ~』


 返ってきた短いメッセージに、頭の中が真っ白になる。


『わたしもそのへんにいるよ。どこで合流する?』


 はわわ、わわ、あわわ!

 心の中で幼女のような悲鳴をあげつつ、俺は周囲を見渡す。どこかにいい感じの待ち合わせスポットはないだろうか……。


『管理棟前の時計台のところで待っています』


 そんなメッセージを送ると、すぐに『了解』のスタンプが返ってきた。ああ、胸の奥から込み上げるもの、それはまごうことなき歓喜!


「おーい、今から豪のカノジョ(仮)かっこかりが来るってよ~!」


 友人たちを呼び集める瑛士の声が、俺を現実に引き戻した。

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