美人生徒会長は、俺の料理の虜(とりこ)です!~ぼっちで昼飯食べてたら生徒会室に連行されました。以後、二人きりの美味しい関係が始まります~

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第一章 出会う四月

第1話 俺がぼっちなのはどう考えても俺が悪い

 四限目の授業が終了すると、教室が一気に活気づいた。


 それも当然、待ちに待った昼休み。抑圧された学生生活において、数少ないリフレッシュタイム。

 みんな、顔をほころばせ、席を立って友人の元へ向かう。もちろん、手には弁当、もしくはコンビニの袋を持って。

 教室を飛び出していくのは、購買のパン目当ての奴ら。数分後には、めいめいが獲物を手にホクホク顔で帰ってくるのだ。


 俺はと言えば、そのどちらにも当てはまらない。

 楽しそうなクラスメイトたちを尻目にスッと席を立ち、弁当箱の入った巾着を引っ提げて、極力気配を消しながら、教室を出るのみだ。


 向かう先はあるけれど、迎えてくれる者はいない──。


 花の男子高校生になって、二週間と少し。

 俺は早くも『ぼっち』になってしまった。選択ぼっちならともかく、意に添わないぼっちには、衆目の中でのぼっち飯は辛かった。


 こんなはずじゃなかったんだ、こんなはずじゃ。

 俺には、人並み程度のコミュニケーション能力はあると思っていた。だから、こんな寂しい高校生活を送る羽目になるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

 ついこの間までは、中学卒業祝いに買ってもらったスマホを眺めながら、『コミュニティツールとしてガンガン働いてもらうぞー』なんて思っていたもんだ。


 でも、もういいんだ、仕方がなかったんだ。

 俺は、よりにもよって入学式の前日に熱を出し、それから四日間ベッドの中で過ごした。

 数日くらい問題ない、俺の明るい高校生活はここからだと一念発起して登校した日、もはや手遅れだということに気付いて愕然とした。

 もう、『輪』ができていて、俺はどこにどうやって割り入っていいのかさっぱりわからなかったのだ。


 いちおう、俺のいない間に決まっていた学級委員のワタナベだかワタベだかがいろいろ世話を焼いてくれたんだけれど……。

 なんか『嫌々やっている』感がにじみ出ていたし、他にも少なからず気に入らないところがあったから、高校生活に必要な情報を入手したあと、さっさと奴から離れた。


 まぁ、教室でぼっち飯する度胸さえない俺には、気に入らない学級委員に媚びへつらうのがお似合いだったのかもしれない。


 でも、もういいんだ、ハブられてるわけじゃないし、他のクラスには中学からの友達がいるし。

 来年のクラス替えに乞うご期待!


 で、そんな俺が向かうのは、本校舎の裏手にある第二校舎。こっちには文化部の部室や、音楽室なんかの特別教室がある。

 この春山北高校には、学食なんてものはない。だから、一年から三年まで、ほとんどの生徒が自教室で昼食を食べるようで、昼休みの第二校舎は実に閑散としている。

 だからこそ、独り者には実に都合がいい。ぼっち飯に後ろ指さしてプークスクスする連中もそうそういないだろう。


 俺がランチの場所に決めているのは、第二校舎一階の家庭科室。ぼっち初日、どこで飯を食おうかさまよっていた俺がたどり着いた安息の地オアシス

 でっかい作業机が六台と丸椅子が据えてあり、棚にはミシンやアイロンが並んでいる。ちょっと埃っぽいけれど、居心地は悪くなかった。


 実を言えば、ここで飲食していいのか定かでない。

 けれど、教師に見つかって注意されたところで、無垢な新入生の顔をして、『ここでゴハン食べちゃダメって知りませんでしたぁ』と肩を震わせながら謝罪すれば、大目玉を喰らうまでもないと思う。


 でもやっぱり後ろめたいから、俺は一番奥の一番端っこの丸椅子に腰掛ける。それから、作業机の上にそっと巾着袋を置いた。

 弁当箱を取り出す前に、スマホの電源を入れる。授業中は電源を切っておく決まりなのだ。

 みんな律義に守っているのかは知らないけれど、高校生活ルーキーでソロプレイヤーの俺は、大人しくそのルールに従っている。中学のとき、授業中にスマホを鳴らした奴がどんな目に遭ったか、嫌というほど目にしてきたし。


 コミュニティツールどころか、ただの暇潰しの道具と化したスマホが起動するまでの間、空腹を満たせる喜びに包まれながら弁当箱を取り出した。育ち盛りの身体には、一日三食は少なすぎる。


 弁当箱の中身に思いを馳せながら蓋に手をかけたとき……。


 ガラリと扉の開く音が聞こえ、俺はピシリと硬直する。


 生徒か? 教師か? 怒られる? 謝る? グッバイ、オアシス……!

 目まぐるしく考えたあと、かねてからのシミュレーション通り、俺は無垢で無知な新入生の顔を作って、恐る恐る扉の方へ顔を向けた。


 出入口のところに立っていたのは、教師じゃなく、生徒だった。

 ショートヘアで、すらりとした体型の、女子生徒。


 教師でなかったことに胸を撫で下ろす間もなく、俺の心臓は未だかつて経験したことがないくらいに高鳴り始めた。


 その女子生徒が……なんというか、すごく、きれい……だったから。


 ぱっちりした瞳に小さな鼻と口。それらが完璧なバランスで顔中に配置されている。

 ボーイッシュな印象を受ける短い黒髪は少しの癖もなくサラサラつやめいていて、細身の体型に濃紺の制服ブレザーがよく似合っていた。

 『美少女』というには雰囲気が大人び過ぎていて、どちらかといえば『美人』と表現した方が相応ふさわしい気がする。


 こ、こんなきれいなひとが、この学校に居たなんて……。

 目をまん丸にして固まる俺を、そのひともまた真っ直ぐに見つめてくる。だから、余計にドキドキしてしまう。


 やがてそのひとは、整った顔に満面の笑みを浮かべてから、実に朗らかな声で俺にこう言った。


「驚かせてごめんね~!」


 これが、俺と彼女──春山北高校最後の生徒会長・・・・・・・ともえあきら先輩との出会いだった。

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