実在の出来事

事のはじまりは、出先に背を向けたとき(ペロリと)にふと頭に浮かべた、暗い感情だったんだと思います(……あーあ……思いのほか時間食っちゃったな、調味料ちょうみりょうもかけずに……あーあ……はぁ……あーあ……)

ギロチンの仕業しわざかと思われるような中抜き感覚があって、どこかモヤモヤして(まあ、まさかモコモコまではしませんでしたが……)、私はとにかく、はやく帰ってソファーにダイブしたかった

だけど、『故郷ふるさとは遠きにありて思うもの』の標識ひょうしき邪魔じゃまをして、なかなか家にたどり着けなかったんだよ

だから私は気晴らしとして(あるいは八つ当たりか?)、世界的なステップをむように、あの有名な<徘徊はいかいストリート>を歩いてみた

ある限りにおいてあるいは、路地裏ろじうら用水路ようすいろを泳ぐ金魚鉢きんぎょばちのように

前途多難ぜんとたなん」が「たなから牡丹餅ぼたもち」をぬすんでゆくような西日にしびは、どこか穴だらけに燃えていて、私の精神をすこしだけヘコませた

油断? そう表していいなら、きっとそうだね。生きることに「油断」した私は、通りかかったつじで、<栗拾くりひろ影法師かげぼうし>に出くわし、得てして栗ごはんの言語をささやかれた

「プンスカ。お赤飯せきはんなんて時代遅れさ。こんなにも白々しいすえの中なんだぜ? おじょうさんもそう思うでしょ?

  アイキャッチ。――ふうりぃ~ん――。

   ……プンプン。ね? お嬢さんもそう思うでしょ?

  ホウレンソウのギシギシをみしだくように考えてごらん? いつからか、お味噌汁みそしるのニオイがしているね? つまりそういうこと。大聖堂だいせいどうなのよ。

        このうすぐらい路地裏の中で、そこへ辿たどける人間ドックがどれだけ居る? ――居ないんだ――ひとりも。人っこひとり居やしない。ここにはお嬢さんとオレっちだけだ。――それ見ろッ!!

                         ……ふっ……ふふ……思えば、舟歌ふなうたなんてうたかたよねぇ……、世間様せけんさまの普通なんかよりも、お嬢さんとオレっちの普通のほうがよほど普通じゃない……ふっ、ふふっ……。

         路地裏を彷徨さまよえば彷徨うほどに、自分の思考しこうが深まるのを感じるだろう? いいぞお嬢さん、その調子だ。

     あら、ヒナゲシの首を指でひねるなんて切ないじゃないっ……!

                  しぃー、ダメよぉ、そんなに大声を出しては。路地裏ってね、じつは誰かの脳細胞のうさいぼうなのよ? みだりに『わたし』をさらしちゃダメ――いつもどこかデタラメでいなきゃ。

  でないと……どこの誰とも知れないお医者さんに、

             視姦しかんされて、

       規定きていされて、

  その果て、

いつもおねむなお人形にんぎょうにされてしまうの。

     そんなのはおめんよ。

       気持ちわるいお面よ。

           首なしのお面よ。

   でしょ?

お嬢さんも一心同体よね?

   たった二度しかない人生だもの。謳歌おうかしなければなるまいね? だったら、そう願うなら、無駄なことは――ハブしゅにして飲まなきゃ。毒を食らわばバカバカしくてヘドが出るぜ。

           だろ?

   どう? ……これ、かわいいでしょ?

     オレっちの今日はいっとうえているね。前後不覚じゃない、そうじゃないんだ。

    ――ちょっと待ちなさい――どこへ行くの? オレっちとお嬢さんの世界が、こんなにも平等びょうどうに夕暮れているというのに。

         追い詰められたストーカーのようにあせってはダメよ。お赤飯をあぶらいためたいのはわかるわ。でもね、温故知新おんこちしんなんてホントのところは神業かみわざなの。もっと屋台骨やたいぼねを大事にしないとダメよぉ。――! ――!! ……あはっ、やだっ……、お醤油しょうゆみたいな咳払せきばらいが出ちゃった。

  ……えっ……なんですって? ……。…………。……いいえ、あなたはまだ、なにもわかっていないわ。いいえ、すぐにいいえ、続けていいえ。……。……。……。――けたばかりのお漬物つけものは、まだ野菜やさいなんだよぉーッ!!

    テメエー、ガタガタ抜かすとガタガタガタガタッ!! ガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!

              んなぁ~~! いいからだまって! この栗ごはんエキスを! その頭に注射ちゅうしゃしろってんだあああーッ!! あなたなんてね――明日あすを待たず――今日きょうじゅうに――『絶品ぜっぴん栗ごはん』にしてやるッ!! ピンポン!! 気持ちいいのは最初だけだよぉおぉぉ……! すーぐに苦しくなる! すぐに苦しくなるからッ!! ええ――ええ――それはもちろん! 素寒貧すかんぴんでもおしくらまんじゅうで大聖堂ー!! いますぐ大聖堂にひれ伏せー!!

        ……ふぇ~ネコだましにここで一句いっく、……ギロチンギロギロギンギラギンだな…………。

   ……あ? 油でサッと炒めたプンスカ/プンスカ/プンスカプンッ!?」

井戸端いどばたに落ちていた<オカルトしゃもじ>で路地裏を破壊はかいし、事なきを得る。得難えがたいような動悸どうき殴打おうだされながらも

(……とんだ目にった。合わない目薬に目をやられた。目出めだぼうなので)

ふと風流ふうりゅうの呼び声。左をチラリ(友人Bの証言によると、私の流し目は、背筋がふるえるほど気持ちわるいらしい……)。目刺めざしの処遇しょぐうのイワシぐんが、あまりに無体むたいな洗濯物を横目に、西日の憎悪ぞうおにやかれていた

表通りでながだま矢面やおもてに立つのは街頭演説がいとうえんぜつの人(あのハゲ頭はきっと絶縁体ぜつえんたいよ)

大声の反復にあおられ、なぜか大股歩きになる(……ミトコンドリアには見所がありすぎるからさ……無口なのも大目に見てあげているんだぁ……)

う人々はみな、泣きじゃくる男の子のツムジに舌打ちをあびせていた

たまらず母性本能をポイ捨て(垂直に)。代償行為だいしょうこういとして、鎮魂歌ちんこんか口笛くちぶえにのせながら、どこ吹く風にそでをとおす(……うーうすら寒い。すっごくうすら寒い……)

ツンと素っ気ない街路樹がいろじゅにのぼせあがっていたのは、バックスタイルきの中年男性でした(いつか権力者けんりょくしゃになったら、底なしにやらしいあの目つき、メタメタにしてやりたい……!)

「あ、私の目の前を行きすぎるミケネコが、たったいま、三輪車の前輪に巻き込まれました」

私の貧血ひんけつの「ひの字」は、じょじょにジリ貧になり、しびれるような舌もつれを演じた。私は半神はんしんになって、およそ五リットル分だけ世界から超越ちょうえつした(――はわわ――誰かのはっした早口言葉――はわわ――くんずほずれつ道連れになる――はわわ――特許とっきょ許可局きょかきょくの窓口――はわわ――)

超越にきてわれに宿ってみると、私の膝下ひざしたでは、カサブランカのようなちの体言止たいげんどめが、エコバック片手に信号待ちをしていた。その左の薬指には、赤くまった七色が光っていた(……こいつ、結婚してたのか……)

それに対して(?)、青(「オッケー、進んでもいいよ~」)の領域りょういき占拠せんきょする保護色ほごしょくの目的語たちは、どこか、ケンケンパでアキレスけんを切った主婦しゅふのように、殺気さっきだっていたっけな

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