山ごもりの叔父さん

いつか雪にもれてしまった叔父さんの瞳は

ブルーベリーみたいな色合いで

とりたてみたいな新鮮さ


なまものの心臓は

冷凍クランベリーみたいに

甘酸っぱくて恋の種子しゅし


冷凍讃歌れいとうさんかが鳴り響くのは

凍てつく小山おやまの腹の底

そのふもとに転がる肌色手袋の指先が

ぴくぴくうごく、ぴくぴくと


ねぇ、思い出は冷凍したらどうなるの

吐きだすいきまっしろで

やがてそれが水になる

なめらかな吐き気

引っ掛かれば

たちまち氷があふれでる

散乱さんらんする吐瀉物としゃぶつに交じるのは

産卵さんらんしたてのように

ほかほかとゆげ立てる

真っ赤なストロベリーのみなさん


拝啓はいけいいとしのおいたちめいたちよ

いつか必ず帰るから

死なぬようにあたたかくしていろよ

敬具けいぐと共に首吊れば

春の木漏こもすぐそこ目の前

雪解ゆきどみず色素しきそがとけて流れて行くよ

君たちの足りないところへと


冷凍讃歌れいとうさんかをうたって欲しい

うたわれない歌

それは色褪いろあせなくとも

うたわれないなら、ただの詩歌しか

しかばね白樺しらかばの木が、頬擦ほおず頬擦ほおず


真剣に聞いておくれ

これは希望のある話なのだということを

君たちに了承りょうしょうしてもらうのが

大人たちの見果てぬ夢なんだ

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