第17話
人は絶対に孤独だ。似ている事はあっても、最後は絶対に理解出来ない、共有出来ない部分がある。その最後の部分の違いは、似た者同士ほど異なりが激しく、人は最後には、やはり孤独を思い知らされるのだ。
八崎と別れたあと共通棟の事務室から資材倉庫に向かう道を歩きながら、尚記はそんな事を思っていた。
好意を持っているのだから当たり前だが、尚記は八崎に親近感を持っている。八崎は絶対に認めないだろうが、尚記と八崎は根本的な思考は似ていると思う。しかし、思考を行動として現すときに、周囲に抵抗なく馴染ませるように発露させるのか、周囲に突き刺すように発露させるのかが、尚記と八崎は決定的に違う。この決定的に違う部分が目立ち過ぎて、大半の似通っている部分が隠れてしまっているのだ。
でもそれで良い。人は絶対に孤独だ。尚記は三度、同じ事を頭の中で繰り返した。
八崎と自分は大半の部分は似ている。その思いが尚記を誘惑し、誘惑に負けそうになるので、最後は違う。最終的に人は孤独なのだ。どうせそうなのだから…
だから何度も人は絶対に孤独だ。そう思い直そうとしているのである。そうしないと尚記は、今まで誰とも共有出来なかった思いを、八崎となら分かち合えるのではないかと淡い期待を抱いてしまい、八崎の最後、最奥にまで触れてみたいと望んでしまいそうになるのだ。それは叶えようとしてはいけない望みであった。
いけない、いけない。尚記は誘惑を打ち消すように頭を振りながら、資材倉庫への近道をする為に、室外機などが置かれてある建屋と建屋の間の、以前は一面に砂利が敷かれていたのであろうが、今は雨風によって土の下に沈んでしまい、昨日の雨で大部分がぬかるんでしまっている、道とは呼べないスペースの、浮島のように残った砂利の部分を飛びつたいながら通り抜けていた。
建屋と建屋の間から空が見える。
その空は、どんなに気の知れた友人であっても、どんなに似ている感性の人間であっても、見ている空の青さが一緒である保証は無い。そんな事を教えてくれた人達が昔いた事を尚記に思い出させた。
例えば、大切な人と歩いている時に、「空が青くて気持ちが良いね」と問いかけたとする。喧嘩でもしていない限り、大切な人は肯定してくれるだろう。
「うん、そうだね」
その言葉は、まるで魔法に掛かったように…お互いがどんな青を見ているか分からないのに、同じ価値観を共有していると勘違いさせてしまう。
勘違いしたまま、同じ価値観を共有している人がそばに居てくれている。そんな幸せを感じさせてしまう。
尚記は幼い頃から、人と人とは、大半の部分が似通った心の有り様であるにも関わらず、突き詰めて行った根幹、核の部分は共有出来ない感覚を切なく思っていた。
幼い頃、降る雪を見ながら抱えていたのは、一人ぼっちの孤独な魂と共鳴する誰かは居てくれるか、そんな思いと、共鳴する魂を持つ自分達は、出会えた時に共鳴している事に気付くだろうか?と言う不安であった。
この不安感は尚記が成長して人間関係を築くにあたり、大きな影響を与えた。広い人間関係よりも、狭く深い人間関係の築き方を尚記は選んだのだ。
自分たちは共鳴しているか?一人の人が発する全ての音を聞き漏らさぬように、その人の深くから発せられる微かな音にも尚記は耳を欹てた。最後まで同じ感覚の人達と付き合いを持つ事で、不安を払拭したかったのだ。
しかし結局、人は孤独であると言う事を思い知らされた。例え、孤独である事を知っている誰かと出会っても、人によって何を孤独に感じるかは違っている。
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