あらがう、悪
葉月 望未
その1
ある廃ビルの屋上、錆びれた
くせのない艶のある黒髪、黒目がちな目に長い睫毛、右目の涙袋のすぐ下には小さな黒子が三つ、目の縁に沿うように並んでいるのが特徴的。
高身長で細身の躯体には会社から支給される黒スーツは合わず、勝手に私物のワイシャツ、ネクタイ、ミルクティー色のセーターを着ている。
何度も上司に注意されるが、体に合わないものを着るよりも怒られて無視するほうがマシだ。
その結果、上司が根負けし、最近はやっと怒られなくなってきたのに。
ギィッと今にも壊れてしまいそうな欄干。
眉間に
「おい、雪永、いつまでそうしてるつもりだよ」
後ろから風がぶあっと勢いよく吹き込み、低く不機嫌な声が聞こえてくる。
遠くのビルが崩壊していく音を聞きながら振り返ると、
金髪にガッチリとした体、支給されるスーツがよく似合っている。白音は雪永の同僚で成績トップの優秀な男だ。
「だってあと少しで地球消滅するんでしょ?仕事なんてやってらんないね」
「
「転職しようと思ってたのになあ……。もう地球滅亡するなら関係ないじゃんね。白音はすごいよ、最後の最後まで上司に尽くすんだ?」
ふふ、と目を細めて雪永が笑いかけると白音はあからさまに顔を顰めてネクタイをグイッと緩めた。
「お前、なんでこの仕事やってんだ?世界に絶望したからだろ?」
「まあ……。でも、もうすぐ終わるってわかったら、愛おしくもなるもんだよ。このままの状況だとあとどれくらいで地球消滅するの?」
「……あと5分ってとこだろ。まあ、あの女の子たちはまだ諦めてないっぽいけど」
ふうん、と雪永は爆煙の中に揺れるピンクや青へ目を向ける。
彼女達は世界を滅亡させようとする悪と戦う正義。雪永と白音は彼女達と戦う悪。
「あのキラキラした目、諦めない姿勢、光を信じるその心。きっと良い環境で育ったんだろうな。
「じゃあ、白音が倒しに行ってきなよ。まだ戦ってるみたいだし」
「さっき散々相手して疲れたから休憩。やっぱり一筋縄じゃいかねえよ。ほら次、雪永の番。行ってこいよ」
「ええー……。面倒くさいから嫌だ。ていうか、闇来様が優勢なんでしょ?それなら何もしなくても5分後にはみんないなくなるよ」
「行きたくないって、さっきから何度も」
「……だ、そうですよ?闇来様」
びりっと体に電気が走ったようだった。
白音の声色はしっとりと闇に落ちていき、目は
「……白音、やってくれたね」
今度は白音が余裕な笑みを浮かべ、挑発的な目を雪永に向けた。
頭に響く闇来の声。『責務を全うしろ。でないと今すぐに雪永のマンションを破壊し、コレクションを粉砕するぞ』
雪永は爆煙の中にいるであろう闇来を恨めしく思いながら大きく舌打ちをして、目を逸らした。
コレクションとは、様々なオルゴールのこと。雪永の大事なものだ。
「くそ上司が。おい、白音、俺の水をあの爆煙まで飛ばせ」
「は?なんで俺が」
「飛ばせ」
耳のピアスをいじっていた白音のネクタイをグイッと引っ張り、顔を近づける。
あと5分、卑怯な真似をするこいつらの思惑通りに動いてやるものか、と雪永の鋭い目が白音を捉える。
例え、5分後には全てが無になっていようとも他人に壊されるのと自然に壊されるのとでは意味が全く違ってくる。
あの大事なコレクションをあんなくそ上司に壊されてたまるものか。
「やる気になってくれたのはいいけど怖いな、雪永。そんなにオルゴールが好きか?理解できねえ」
「俺はお前がどうしてそんなに女が好きか理解できないよ。この間なんてあの戦ってる女の子の、あー名前忘れた、なんだっけ……。あのピンク色の子のこと、いいなあって言ってた時は流石に引いた」
「え?なんかいいだろ、敵同士で恋愛ってのも、燃えるじゃんか」
「……。」
「その目、やめろって。傷つくわ!」
雪永は手の中に透き通る水の塊を作り出し、その中で渦を作り出した。
白音が苦笑いを浮かべながら人差し指の周りに風を作り出し、ひょいっと指を軽く振ると雪永の水を風で掬い上げ、そのまま爆煙に向かって勢いよく飛ばす。
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