第23話 王都改造『新市街建造、チート系武具製作』
お茶休憩を終え、新市街予定地まで足を延ばす。
整然と移動する。王と僕とアカツキの乗る馬車を護衛するチャリオット乗機の親衛隊たちも、ゴーレム師団の規律に満ちた行軍には感嘆の様子だった。最も練度が高く、士気も高い彼らにしてしきりに感心していた。
予定地に着く。初手は何はともあれ市街城壁を構築し、外と中の区切りを造る。これに併せて、新市街への出入り口を王都に数か所、兵の詰め所と一緒に新たに開通させる。工事中になるので立ち入り禁止だが、そこから市民が様子を見ることはできる。というか、わざと建造を見せるようにする。
「それでは今から新市街の構築に入ります。アカツキ、サポートよろしく」
「にゃあっ、任されました!」
一度、権能で地面を隆起をさせる。そこから土を取り、ナノレベルまで粉砕する。さらさらになった土にマントル上層から取ってきたアダマンチウムを少々加え、南部に湛える巨大湖の水を使って粘土状にする。これを壁面となるように形成をかけて、その上でマントル下層の超高圧高温で圧縮しつつ焼き上げる。
すると高硬度高靭性セラミック焼結体が出来上がる。長々と書いたが一連はすべて土の属性制御で一発である。さても権能とは便利なもの。ただこれ、奇跡の類なのでどういう原理なのか見当もつかないのが欠点ではあった。
後はこれを壁の芯とし、周りを高圧高温加工しただけの、それでもかなりの耐久性を持つセラミック焼結体で固めたブロックを積み上げ、城壁の態を形成させる。アカツキ指揮のゴーレムどもに作業をさせ、人が利用できるようも整えさせる。
「焼結用の余り熱は次の作業に使います。熱伝導で残さず集めておいてね」
「はいにゃ」
次に土の属性権能で下水道となる経路を掘っていく。
本当に便利な能力だ。
もっとも、このトンデモチートを使わないと北の魔王に対抗する準備すらままならないのはいただけないとは思う。
掘り下げた際に出来た土をゴーレムらに集めさせ、先ほどみたいにナノレベルまで細微に渡り粉砕する。これに湖の水で城壁の時と同じように粘土を作り、高圧高熱で焼いてセラミック焼結体下水道ユニットを作成する。
内部には歩道も用意してあり、ちゃんとメンテナンスも出来るようになっている。これをそのままドスンドスンと地下に埋設してゆく。ゴーレムどもも整然と働き続ける。各出入り口は鉄のマンホールで蓋をして、最後に下水処理プラントを作成、運河を新構築して浄化処理水を河川に流せるようにする。
ここまでで約一時間という、神の奇跡もかくやの早さである。
「街の基礎部分はこれで良さそうです。水回りさえきちんとしておけば、もう半分出来たようなもの。市街の区分けに移りましょう。コンクリと石畳の生産を」
「はぁい。マントルから火山灰を生成、石灰を混ぜて古代式コンクリートを作るにゃあ。その上にきっちり整然と、石畳を並べさせるの。見た目も大切だから」
主線道を作り、次いで側道を作る。
道路面は一定に平らではなく中心線を僅かに高くしておく。
この、少しの傾斜が水はけを良くさせる。雨水は流れて下水道に落ちる。
同時進行で住居も建てていく。
この世界の文明準拠の住処なので電気工事なんていらないし、ましてやネットインフラなども無い。高級街だけバストイレ炊事場を個別に作っていくが、基本は共同使用である。どうせ市民のほとんどは食堂で腹を満たし、風呂は公共のテルマエを、大小の出し用事は清潔な公衆トイレで行なう。なので、何も問題はない。
まだまだこれだけではない。武器と防具も作り上げる。
サン・ダイアル星は鉄の含有量が多く、地球とほぼ変わらない。基礎となる鉄にクロムとニッケルと僅かに炭素を加えてステンレス鋼を作る。元世界では製造を工業的に確立させているため安価に手に入るが、この世界だと高級品となろう。
不動態被膜を形成させ錆を抑える。これを丁寧に形成し、硬度と靭性を練り上げて武器へと新生させる。日本の一般家庭で広く使われる包丁を、より手を加えて装備化させたと考えれぱ分かりやすいか。なお、武具の参照元は親衛隊の皆さんの剣と槍と盾である。協力を求めると隊長は喜んで自らの装備を差し出してくれた。
剣はギリシア・ローマ時代のグラディウス型の、短めの刀身剣だった。集団接近戦となるとこの武器が取り回しが良くて強い。他にもピルムと呼ばれる投擲用の短槍、スクトゥムと呼ばれる長方形の大きな盾もある。ただ、すべて青銅製だった。
そういう経緯もあり、青銅装備のアップグレードではなく取り換えに切り替えたのだった。そのためのステンレス鋼製の武器防具である。言ってはなんだが婚活魔王と戦争だなんてバカらしいし、できる限り死んでほしくない。ついでとばかりに、戦士である彼らには
「ありがとうございます! おお、力が漲る! これが聖女様の祝福!」
祝福の影響だろう、ステンレス鋼の新装備に変化が起きていた。白金の光の粒子が薄く燃えるオーラエフェクトを湛えるようになっていた。
明らかに隠密性が失われてしまったが、そもそも彼らは親衛隊である。王の護衛と権勢誇示のため、自らの存在性を示すのが役目なので気にしない。
武運長久、剣・槍効果。
『
武運長久、盾効果。
『
祝福の副次効果により高次存在にも対応できる。殴って防げるわけだ。
身体強化『肉体の総合的な筋力の増強。骨、関節、腱の強靭化。体力増強』
祝福効果でムキムキでバキバキ、ガチムチマッスルアニキに大変貌。
余談になるが僕の中で勝手に定めた強化段階では最上位まで七段を数える。
すなわち――、
微→弱→中→強→凶→恐→狂と、累乗的に評価が上がっていく。
彼ら親衛隊装備は『強』だ。
もちろんその気になれば、今すぐにでも『狂』階位の装備を用意できる。ムシャクシャしたらその発散のために作ってしまっても良い。
「でも、まあ、使いこなせる人がいるかどうかの問題が、ねぇ……」
星団ごとぶった斬って、果たして装備者は無事でいられるのか。たぶん攻撃の衝撃波やもろもろの負荷で肉片も残らないと思う。そして、
鎧は後日届けることにする。
単純に、今脱いで付け替えるわけにはいかないから。
加えて特記事項が一つ。
通常、
グナエウス王曰く、
「軽く作ってしまわれましたが、付与された武具はすべて伝説級ですぞ……」
とのこと。聞けば魔力付与系には
「国防のため兵の武具を強化するのは常套手段です。ここは呑んで頂くしか」
「あ、いえ。やはり黒の聖女様は考え方のスケールが違いますなぁ、と」
僕としては通常対応のつもりなので、どんどん祝福で強化した武具を親衛隊に与えていく。代わりに支給品の武具類はこちらで回収してしまう。
輜重部隊が来たときに渡せるよう一般兵らの新装備も増産させていく。もちろん祝福もきっちり付与する。ただしこちらの祝福強度は『中』にしておく。エリート兵たちと一般兵たちとの差別化は必要である。
おまけで追記すれば一般兵用の武具類には誤用と盗難防止のため、初回装備時に一度だけ所定の手続きを経てどこでもいいので血を一滴垂らし、所持者認証を完了させるようにしている。登録者以外には祝福効果は受けられなくなるシステムである。
グナエウス王曰く、この程度の『中』強化でも十分に国宝級らしいので、当然の処理とさせてもらった。
そうこうしているうちにも道は整備され、建物が建っていく。
やがて、僕の権能とアカツキ指揮下のゴーレム兵たちの一糸乱れぬ建築により、十五時過ぎから始まった新市街作成は僅か二時間足らずで完了に至った。
中天にあった陽光がぐっと地平へと傾きを見せ、橙色の夕日にと変わりつつある。うーん、大気汚染がないためか、夕空がとても綺麗だ。
「広報官を街に立たせて市民に新市街の落成を伝え、明日にでも丸ごとに避難民を入場させるようにしてください」
「では、そのようにしましょうぞ」
「避難における責任は知事町長村長にすべてかかります。暴動なんて起こしたら絶対に許しません。僕の故郷では災害が起きても決して慌てず騒がす暴挙にも出ず、他国とは隔絶した秩序を保ちました。大丈夫、あなた方ならできます。北の魔王パテク・フィリップが攻めてくる現状でも、秩序を保てているではありませんか」
「それはひとえにわが王家の治世というよりは、聖女様という偉大な存在ゆえのものですが……。わかりました、そのように手配を」
「百年単位で一度の聖女たちよりも、すべては王陛下の治世のおかげですよ」
「ありがとうございます。……その後は如何様になさる予定ですか?」
「避難民に分ける主食類は、今日と明日はこれまでの通りでお願いします。ゴーレムには今から夜通しで城塞都市化のための新しい新城壁を構築させます」
「それは素晴らしい。いやあ、こんなこと言ってなんですが、楽しみですなぁ」
「こちらは先に外苑部を作った上で、明日にでも行なう軍事訓練の行軍時により強力な祝福+焼結体化で仕上げる予定です。併せて試験農場も夜通しで作らせます。サツマイモ、カボチャ、トウモロコシの三種。人工光と祝福と土属性権能で促成栽培、可能なら明後日には避難民に食糧配布をしていきましょう」
できるかどうかは分からないけれど、などとは絶対に言わない。
僕の見立てでは、これらはすべて問題なく仕上げられるとしての発言である。
さて、次。タスクをどんどん消化しよう。
一通りの街の作成を見ているはずの水道担当官と建設担当官を、ここで降ろして先立って街の視察をさせようと思う。
彼らは責任者となるだけにとても優秀だ。部下も多数つれているので行動の心配はないだろう。念のため、暗くなっても大丈夫なように蓄光機能を万倍に強化したエコ街灯の操作盤と同機能を持たせた懐中電灯を彼らに持たせておく。
農業担当官はこれから作る僕の試験農場へと向かわせる。
ゴーレム兵団が護衛に当たるので身の危険はまずないはず。資料はすでに渡しているので、促成栽培とはいえ実地で作物が育つところに立ち合わせ、今後の研究と改善に当たらせるようにしてもらう。
「聖女様、輜重部隊が到着しました。これより新兵具を回収させます」
親衛隊長が連絡してくれた。見ると輜重部隊が数珠繋ぎでこちらへとやってきていた。僕は隊長の申し出にお願いしますと返した。以前の武具はすべて鍛冶施設に運ぶようつけ加えるのを忘れない。これらは再製錬をかけるための素材となる。
「それでは、最後に城塞都市の外苑部壁を作ろうと思います」
僕は目を閉じて、脳内にこの王都の全体図を思い浮かべた。
ラグビーボールか太ったサツマイモみたいな、北から南へと河に沿って――河自体は南の巨大湖から北へと流れていくのだが、それはともかく、このサツマイモ王都を中心に新たな城壁を構築させる図を具体的な形で想起する。
認識と想像こそ、肝要。僕は土の属性権能を行使する。
遠くで、地鳴りのような音が響く。城壁の芯となる部分が、地中より伸びあがったはずだった。高さは五十メートル。これに後々ブロックで形を整える。
「これで良し。あとは祝福。試験農場へはゴーレム兵に祝福済みの種を渡して、と。うふふ、忙しいとテンション上がりますね」
旅団長の二体のゴーレムを呼んで種を手渡す。細かい指示も付け加える。種をいきなり畑に蒔くのではなく、種取り用に栽培して出来たものを使うようにと。
栽培方法は、上位人格のアカツキからダウンロードするようにも。量子バースト通信が彼らの間で出来るためこの辺の指示は楽である。僕にくっついて離れないアカツキが、にゃあっ、と笑顔で頷いていた。
ここでちょっと語弊が出てきそうなのでタネ明かしをしようと思う。
実のところゴーレム師団の指揮者であるアカツキは、軍は群であると表現した如く、一人でありながらもゴーレム全体でもあるのだった。
階級分けされたゴーレムたちは姿とその能力に差はあれど、根本のところではすべてアカツキの別な側面となる。身近に例えるなら、混沌の神ナイアルラトホテップの、無貌であるがゆえに千の貌を持つあの感覚か。
「混沌の神は千の貌ですが、アカツキは万の貌を持ちますものね」
「にゃあん。レオナお姉さま、にゃあを撫でて撫でてっ。ごろごろにゃーん」
「うふふ。誰に似ちゃったのか、とっても甘えん坊さんね?」
僕はアカツキを膝に乗せて抱き寄せ、頬にキスをして優しく頭を撫でてやる。お日様とミルクみたいな彼の体臭が甘く鼻をくすぐる。
可愛いは、大正義。
賢くて有能で、甘えて良く懐くこの子を愛せるのは僕だけ。うふふ。
それは良いとして、これで一応、本日の自分がすべき行動は終わりとなる。
各担当官たちとゴーレム師団と別れ、僕とアカツキとグナエウス王は親衛隊に護衛されつつ宮殿へと戻った。
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