サンタクロース・ジハード

@ZKarma

第1話

「おい。今回の大雪崩トナカイ・スタンピード、お前はどうするんだ」


声を掛けられて振り返ると、そこには赤白の完全装備のエドナが立っていた。


「どうもこうも、見ればわかるだろ。俺は前線でヴァンガードを務める。いつも通りな」


「その『いつも通り』がいつまで続くと思う。ソロで生き残れるほど大雪崩トナカイ・スタンピードは甘くない。今までは運が良かったのかも知れないが、そのうち死んじまうぞ」


「運だけで生き残れるような場所じゃないってのも、お前は知っている筈だ。俺は強い。仲間など要らん」


「フン、警告はしたからな」


肩を怒らせて持ち場へと去っていくエドナを尻目に、俺は装備を確認する。

黒光りするスノーモービルの頭には、以前のスタンピードの親玉の角を加工して造られた衝角が取り付けられている。

こいつの切れ味を確認するためにも、今回は可能な限り最前線でスコアを稼ぎたかった。


シャンシャンシャンシャン!!!!

シャンシャンシャンシャン!!!!


時間だ。展望台に取り付けられた、警報大鈴の音色が響き渡る。


「今回も派手に狩りまくってやろうじゃねぇか!」


「この前発掘した先史遺産プレゼント、こいつの威力を試してやる…!」


思い思いの台詞で自らを奮い立たせながら、赤白の戦闘服に身を包んだ戦士たちはそれぞれのスノーモービルやスノーボードに火を入れる。


遥か彼方から、雪上を駆ける音が聞こえてくる。


望遠鏡を覗く。

バーニアから炎と黒煙を吐き出しながら、中隊規模の陣形を組み、猛烈な勢いで迫る突撃級と兵士級ので構成されたトナカイの群れ。

斥候にしては規模がデカいが、俺にとっては都合がいい。


「ブチ殺す」


この戦線に居る数百人の誰よりも早く、俺はモービルのアクセルを蹴り飛ばした。


リイィィィィィィィンン!!!!


先史文明に隆盛を齎したニコラウス・エンジン。

それは、励起に伴って鈴の音のような澄んだ音を発する。


「『大角折り』が行ったぞ!俺達も突っ込めぇ!!!」



リイィィィィィィィンン!!!!

リイィィィィィィィンン!!!!

リイィィィィィィィンン!!!!


無数の鈴の音が、白銀の原に鳴り響く。


JINGLE BELL戦の鈴が鳴る

JINGLE BELL戦の鈴が鳴る

JINGLE ALL THE WAY我らの征く道に響き渡る



先史クリスマス文明。

栄華を極めたそれは、自らが生み出したバイオテックトナカイ共の暴走によって滅び去った。

それから数万の年月を経てなお、バイオテックトナカイ工場は稼働し続け、こうして定期的に大雪崩トナカイ・スタンピードとなって街を襲うのだ。


そんなトナカイ災害に立ち向かう者たち。

先史文明の遺産プレゼントを掘り起こし、ソレを武器として振るう者たちが居る。



古来の伝説に曰く、

赤白の衣を纏い、鈴の音と共に雪上を駆け、プレゼントを手にトナカイ共を狩る者。

その名を、サンタクロースと呼ぶ。


ゲギャギャギャギャ!!!!


喧しく鳴く隊列の戦闘の兵士級トナカイの頭に、モービルの衝角を叩き込む。


ゴギャァ!!!


血しぶきを上げて吹き飛ぶトナカイ。

隊長を殺され動揺するレッサートナカイどもに、サンタ・マシンガンを叩き込みながら、俺は小さく笑う。


スタンピードは、それを指揮する将軍級バイオテックトナカイを殺すまで止まらない。


大雪崩トナカイ・スタンピードは、始まったばかりだった。






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