044

 森の中は基本的に人の管理がいきついていない。つまり場所にもよって変わるがモンスターが蔓延っている。


 見張りを担当している奏真は周囲を警戒しながらも並列して思考を走らせる。

 考えているのは新たな魔法。奏真の魔力では少な過ぎてやれることは限られているが戦えない訳ではない。今までもそうやって生き残って来た。


 考える上でまず、自分のことを見つめ直す。

 何が得意で何が不得意なのか、強みは何なのか弱みは何か。

 今回戦った時に思ったことをベースに考える。


 一番初めに思いつくのは威力が単純に弱いこと。


 これは魔力量によって比例するので仕方のないことではあるが戦ってみて、それも自分よりも圧倒的な魔力を誇るものには手出しが出来ない。魔力が無限という強味をもってしてもどうすることも出来ないのが事実。


「…………」


 これまでは弱点を突いたり地道に削っていく方法を取って来たがそれだけでは手詰まりになる。それが今回の戦いで思い知ったこと。


(魔力が無限…………連続攻撃?今までもやってるんだよな………)


 連続ではなく重い一撃。

 悔やまれる自分自身の魔力の少なさ。だが嘆いていても仕方のないこと。


 それからずっと脳内で考え続け、結局何も進まずに一時間が過ぎる。


 未だに思いつかず脳を使い続け疲弊する精神。

 一度止め、大きく息を吸い吐き出す。


 いつの間にか探索をしていたガーディアンの隊員たちの姿は消えていた。灯されていた明かりがなくなり既に撤退したようだ。


(………それにしても、モンスター出てこないな……たまたまか?)


 前までならあり得ない状況だった。


 奏真単独で行動している時は昼だろが夜だろうがお構いなしにモンスターとエンカウント。ただの移動で大量のモンスターと戦うことも珍しくはない。まして夜になると活発化するモンスターが多いため寝る暇もないのが常。

 それが今では宿屋で泊まっているような快眠が出来そうなほど静か。原因はすぐに分かった。


(……あいつらか)


 目の先には寝息を立てているエルフ姉妹の姿。雪音、緋音共に桁違いの魔力を持っている。それがいいモンスター避けになっているらしく周囲にモンスターの気配は探知できない。


 奏真単独の時はモンスターからすれば身の程知らずの虫けらが森にやって来たという感覚なのだろう。それで間食程度のつもりで出てくるが雪音と緋音の場合、手を出してはいけない災害級の化け物だ。所詮モンスターも魔力を見分ける程度の知能しかないのが多くそれだけを頼るモンスターには脅威に映っているのだろう。


(便利なものだ………これなら多少離れても大丈夫か?)


 見張りの必要性を感じなくなった奏真は一人寝ている三人から離れてみる。とはいえ心配なのでほんの数メートルしか離れないが。


「………あいつらみたいに多ければなぁ。時間的な使用量では負けないのにな」


 無限にも近しい魔力を持つ雪音と緋音だがそれはあくまでも比喩的な意味。しかし奏真は紛れもなく無限だと言える。無限だと知った昔、本当なのか三か月ほど無駄に放出して確かめたが減ることは一切なかった。それでも確実に無限なのか?と聞かれるとそういう訳ではないが三か月の保証はされている。


 離れてまた、同様に魔法を考える。


「………一つにまとめる………いや、蓄積?」


 奏真はそこであることを思いついた。それは充電式の蓄電池。それを魔力バージョンにして置き換えることは出来ないだろうか?それの出力を自分の魔力の総量を超えることが出来れば実質、限界を超えられる。


「…………!!」


 早速紙とペンと取り出しありったけの情報を書き留める。そこから時間が過ぎるのはあっという間だった。





 気が付けばもう既に日が昇り始めていた。


 奏真はいつの間にか起きていたアサギと一緒に魔法について話し合っている。アサギは奏真ほどではないにしろ魔法にはそれなりに詳しい。

 二人であれはどうだ、これはどうだと模索し奏真は紙に試作を書きながらアサギと意見交換をする。試作を始めてからかなりの時間が立っているのか奏真とアサギの周りにはバツ印が付いた紙が何枚も散らばっている。


「やっぱり魔法陣に書き起こした方がいいんじゃないか?」


 何枚かのバツ印が付いた試作が書かれたものを見比べてその傾向と魔法の特性から感想を述べるアサギ。

 奏真も「そうだよな」とそれには同意する様子だがどこか納得がいっていない不満げな表情をしている。

 それには明確な理由があった。


「でもなぁ、バレるんだよな」


 魔法陣の特性は時間経過や時差による攻撃やしっかりと陣を書き込むことによって多少の威力増加などが利点としてある。が、それをふまえてもデメリットを無視することが出来ない。


「魔法陣にすると文字通り目に見えるし魔力でバレバレだし……」


「でも自分で貯めた魔力って使えないのか?それこそ自在に」


 奏真が目指す魔法は電池のような魔力を蓄積するタンクのようなもの。貯めたものをいつでも使えることを考えると魔法陣が適しているのは明らか。だがこの手の魔法陣を造るにあたり致命的な欠点がひとつ。


「まだ完成してないから確実なことは言えないけど………時間経過で残量が減るだろうな、と」


 完成はしていないがそれに近い完成形は見え始めている。完成するのは後は時間の問題だろう。ただ未だに改善点が多い。


「実用化するにはまだまだ時間が必要そうだな」


 時間の問題ではあるがその時間がどのくらいかかるのかは予想が付かない。ある時ぱっと思いついてノリで出来た、なんてこともあるが出来ない時にはあと一歩というところで届かない。むしろその方が多く奏真は何度も歯がゆい経験をしている。

 その失敗作の詰まったノートが雪音の手に渡っているとは知らず。


 諦める、という訳ではないがひと段落。

 奏真は徹夜ということもあるが集中し過ぎた疲れで仰向けに大の字になって寝転がった。


「まあそんな焦らずとも……」


 アサギは笑いながら散らばった紙を回収し始める。


 そんな頃、今まで寝ていた緋音が目をこすりながら体を起こした。

 野宿ということもあり簡易的な毛布にくるまり地べたで寝ていたので体中あちこちが痛い。そのせいで寝起きは最悪、更に奏真とアサギが散らかした紙が一枚飛んできて緋音の寝起きの顔に張り付いた。


「…………」


 バシッと払いのけ紙は地面に落ちる。


「………?」


 落ちた紙を拾い上げ何が書いてあるのかとのぞき込むとそこには意味の分からない羅列とバツ印で消された魔法陣が書き記されている。解読しようにも何のことやらさっぱり分からない緋音は目を細める。


 ジッとまるで睨めっこでもするかのように凝視している緋音のところにアサギがその紙を回収しにやって来た。


「おはよう。眠れた?」


「………いえ、最悪でしたよ。早く体も洗いたいです」


 眠気の残る顔でアサギに紙を渡す。

 受け取るアサギは「ハハハ」と笑いながら非常食を返した。


「それは雪音の分もあるから起きたら渡してあげてよ」


「………何ですかこれ?」


 朝食だと投げ渡されたのは銀色の袋に入った何か。緋音は得体の知れないと汚いものでも詰まんでいるかのような持ち方で体から遠ざけた。


「事前に俺が作った非常用のパンだよ。硬いから水で濡らして食べることをお勧めするよ。それとも………」


 汚いそんな持ち方をするものだからアサギは奏真の方を指差してもう一食を紹介する。なぜか楽しそうにニヤニヤと満面の笑みを浮かべながら。


「あっちがいいかい?」


 数メートル先の木だ。そこに奏真の姿があるが膝をつき苦しそうに悶えながら吐き気と戦っている。顔は真っ青で何かを食べているのか頬はパンパンに膨れている。そして手にはそうしたであろう物がひとつ。銀色の缶詰が緋音の目に見える。

 

 それと同じものをアサギはすっ、とポケットからもう二つ取り出した。


 一体何が入っているのだろうか。

 想像した途端に緋音の背筋に嫌な寒気が走る。首を横に振り全力で拒否を表す。


「いえ、これで大丈夫です」


 取られないようにバッと頂いた銀色の袋を大事そうに抱きかかえる。


「そっか、ザンネン♪」


 くるりと方向転換するアサギ。奏真の方へ歩いていき、


「おかわりあるけど、いる?」


 二つの缶詰を奏真に差し出した。

 それを見た奏真の顔はより一層青くなり吐き気を我慢する表情に力が入った。


「こ、こっちに持ってく………」


 それを最後に緋音は二人から目を逸らした。

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