027
二人の戦いを真近で見ていた緋音は絶句したいた。
先ほどの攻防、戦い方から自分との圧倒的な差のレベル。
自分より弱いはずの奏真。自分と戦っていた時には手を抜いていた敵。自らに自信があったが故に現実を目の当たりにしてショックを受けた。
飛び級で上がっただけあって実力は常にトップ争い。
それが如何にドングリの背比べだったか、見せつけられているような気分だった。逃げ出してしまいたいくらいだったがそれすら叶わない。今動こうものならば標的になると思うと恐怖心が込み上げてくる。
緋音からしてみるに異次元の戦い方をする奏真をただただ茫然と見ている事しか出来なかった。
そんな事は知らず、奏真はナイフを両手に迫り来る魔法をさばいていた。
ここでようやくアサギから貰ったナイフの本領を発揮した。
オリジナルのナイフと自分の魔力がある限り無限に複製する事が出来るアサギ作のナイフ。それを奏真はオリジナルを懐へしまい、両手には複製されたナイフを持っている。
そのナイフを使って迫ってくる魔法を切り落としていた。
「随分と腕に自信があるようだな」
魔法をさばく奏真のもとに青年が槍を向けて接近していた。その槍を奏真に向けて振り下ろす。
奏真は二本のナイフをクロスさせてその攻撃を防いだ。防ぐ事に成功はしたが威力を完全に打ち消すことは出来ず後ろに吹き飛ばされる。
「………」
後ろへ飛んだ奏真に青年が放った魔法が追撃する。三種類の魔法がそれぞれ巧みに操られ連携をなして襲う。ナイフだけでは対応できないような密度。
奏真も魔法を展開して相殺を試みる。しかしそうしようするものなら近付かれて槍の攻撃が襲う。
「もう手はないのか?それとも何か狙っているのか?本気を出すというのは結局ただの強がりだったのか?」
妙な奏真の大人しさに違和感を覚えながら槍の猛攻を繰り広げる。
奏真は防戦一方となっていた。
見守る緋音もその姿を見ていつ奏真がやられてしまわないかはらはらしていた。
「この野郎、そこまで言うなら反撃してやるよ」
両手に持っていたナイフの片方を青年の顔面目掛けて投擲する。
ほぼゼロ距離で投擲したにも関わらず簡単に避けられてしまう。
「その攻撃はもう見たな。それから………」
ナイフを起点に瞬間移動をする魔法。厳密に言うならばナイフに魔法陣を張っ付けそれを投げることで瞬間移動を再現していた。これは以前学院に潜入した際の魔法と同じもの。
ただ奏真の魔法ではこの距離が限界のため移動ではなく、主に戦闘で多様する。特に人数に不利があったり弾幕が激しかったり。
しかしそれも見切られてしまった。
「その【空間移動魔法】も見た」
瞬間移動で後ろを取る奏真だったが逆に反撃を貰ってしまう。
「………やるな」
槍による反撃を何とかよけようとしたが避けきれず頬を掠める。
頬から血を流す奏真。
「【空間移動魔法】は本来魔力消費が大きい為、通常戦闘には多様、いや使わない。魔力が減らないという強みがあって初めて出来る芸当だろう。利点を生かしたいい戦い方だが甘いな。何度も同じ手は通用せんぞ」
立て続けに体制を崩した奏真に魔法が接近する。
言葉の通り同じ奇襲方法は二度は通じない。
「やれやれ、やっぱり駄目か。相手のレベルが高いと戦闘方法を変える必要があるな」
魔法が間近に迫る中、奏真は魔法陣を呑気に展開した。
その魔法陣はどこか通常のものとは違う。
魔法はただ放つよりも魔法陣を経由した方が通常よりも性能がアップする。しかしその分性能が高ければ高い程膨大な魔力と時間がかかる。連射、速射が出来ないのが欠点。
また魔法の効果を、物などに付与する【
奏真が今回使用するには前者。魔法陣の特性からして奏真とは非常に相性が悪い事を知っているがそれでも今回の魔法に限っては使わなくてはならなかった。
魔法が迫る中展開した魔法陣。その魔法を放つ。
「学院の方は一体どうなってるのでしょうか?」
ガーディアンの最上階の窓から覗く雪音。
ガーディアンは現在そこら中から煙があがり離れた所からでは目視で確認するのが非常に困難だった。
同じくして雪音の隣で窓から様子を見ていたアサギは目視するのを既に諦め目を瞑り魔力の探知で内部の様子を把握していた。
「………奏真は……まあ無事かな。てか心配しなくても大丈夫だと思うぞ。あいつは恐ろしいくらいに強いから」
いつでも援護射撃出来るように手に持つ拳銃を構えてアサギは雪音に向けて言う。
アサギの探知する限りでは奏真らしき反応があり、敵と思われる反応と戦っているのが確認できていた。
「その分かるそれは魔法なんですか?」
今回に限った話ではなく以前から奏真やアサギには何となくの気配を察知する光景を思い出した雪音。
「ああそうだよ。確か【
主に魔力を数値として量りたい時や索敵などに使用される。消費魔力に比例して索敵範囲が変わる。
アサギは常に発動して奏真のだいたいの居場所を把握していた。
「なるほど、それで位置を把握してるんですね」
「そうだね。ただこれを無効化する方法もあるんだ。だからこればかりを頼ればいいって訳じゃない」
奏真のように魔力が小さいものは見つけづらかったりする。逆に魔力の大きいエルフ族は見つけやすい。なので戦闘に赴く人々が索敵する場合は、これにプラスで自身の五感と経験などを頼る。
その他にも方法はあるが主に使われているのはこの方法。
ある程度の魔力
雪音はアサギを疑っている訳ではないがやはり自分で分からなければ不安だった。
(やっぱり自分で確認しないと分からない………)
そんな自分の無力さを痛感して気を落としているとどこからともなく声が聞こえ始める。
『…………見タイカ?ドウナッテイルカ…………』
その声は以前聞いた声と同じ主のもの。以前と比べより鮮明にはっきりと雪音の脳に響いた。
「……!?」
慌ててアサギの方を向くがアサギは再度索敵のためか目を瞑りピクリとも動かずに銃を構えていた。
アサギではないことが分かるがどうして自分ひとりに聞こえるのか不安で周囲をきょろきょろとする。勿論この部屋にはアサギと雪音以外誰もいない。
またしても聞こえる声。
『見タクナイカ?ドウナッテイルノカヲ…………望ムノナラバ、見セテヤル』
「…………」
雪音はなんて答えたらいいのか分からず、沈黙を声の主に返す。
いや、分からない訳ではない。むしろ簡単だ。答えは二つに一つ。ただ「はい」か「いいえ」を言えばいいだけの事。だが迷っていた。信じてもいいのか、悪いのか。非常に魅力的な事だがどこか胡散臭い。
迷う雪音へさらなる誘惑が襲う。
『強ク………ナリタインダロ?』
その言葉はまやかしだ。絶対に何かある。
「力を、貸してください」
しかし欲と奏真の心配という不安には勝てなかった。
小さな声でぼそりと呟いた。
その声にアサギが不思議そうに目を開き雪音を見る。何を言ったかまでは聞き取れなかったが、明らかに違う第三者へ向けた言葉に違和感を覚えた。
雪音は無表情だったのでその時はたいして気にはしていなかった。
小声だが確かに返答をした雪音に徐々に変化が表れる。それは外見ではなく内面的に。
『ソウダ、ソレデイイ………』
その誰かの声の後、突如視界全てがサーモグラフィーと立体の図面のようなものへと切り替わる。色がなくなり聞こえていた音もなくなる。その代わりにいままで窓越しに遠くから見ていた学院が間近で映し出された。
そこにははっきりと分かる奏真の姿。その後方には雪音の知らない人物。そして奏真の前には敵と思われる人物が一人。
それが今どんな状況なのか見た瞬間分かった。
奏真は無事だが苦戦しているのだろう、と。
数秒の間、じっくり観察した後、元の窓越しの学院の視界へと戻る。
(奏…………大丈夫なんですよね………)
押され気味な奏真を初めて見る雪音に心配が募っていく。
奏真の目の前まで迫っていた魔法は全て消えていた。また、展開した魔法陣も同様に消えていた。全て奏真が相殺していた。
展開した全ての魔法を相殺された青年は表情こそ冷静だが明らかに動揺があった。
「………見たこともない魔法だな」
奏真の魔力であの量の魔法を防ぐのは至難、不可能に近い。
不可能な事をやってのける奏真も不可解だが青年にとってはそれ以上にその魔法が驚異的に見えた。
とは言うものの、奏真が放ったその魔法は一見ただの【
そんな魔法が青年にとって何の驚異であったのか。見たことがないから、ではなくその魔法の軌道だった。
奏真が放った瞬間しか目視出来ていないが、たった一つの魔法陣から放たれた魔法は襲う全ての魔法へと狙いを定め自らが意思を持っているかのように多方向に飛びひとつ一つが相殺していった。
「まるで迫り来る魔法を
「
青年の考察を無視して相殺した結果を満足そうに奏真は頷いた。
学院へ来る前、というのはガーディアンのとある隊員と戦った時の事。あの時は完全に不意打ちで攻撃に使った為初見殺しとして活躍した。
今回は防御として使ったため完全に実験としての使用。
「さて………」
機械型モンスターも減り、大量の魔法も相殺。今は完全に奏真のペース。青年が攻めに手をこまねいている内に奏真の方から攻撃を試みる。
「もう要はないし、終わらせようか」
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