第二章 アレクトル学院
015
「ふう、ようやくついたな」
奏真、アサギ、雪音の目の前には高くそびえ立つ建物、ガーディアン。
三人はようやく都市[ハルフィビナ]から辿り着いた。およそ四百キロの距離を移動した数日。ひと息ついた奏真は本部を見上げた。
同じく見上げる雪音は初めて見た建物の光景に言葉を失った。
「……………」
体力があるとはいえ、四百キロもの距離を移動した雪音の表情には圧巻する他に疲労も見える。
それを横目で見るアサギは気を使って奏真を急かした。
「ほれほれ、さっさと入ろう。用があるのはこの中だ」
「…………ああ」
いよいよ中へ。
アサギに続いて奏真、雪音の順で中へ入っていく。
奏真は初めて入るにも関わらずひょうひょうとしているが、以前まで襲われていた人物の組織の敷地内へ入ることに緊張する雪音。奏真の後をぴったりとつけて入っていった。
ガーディアン内部。
魔力式で稼働するエレベーターのような物に乗り上層階へ上がる。
ある階層まで来ると止まり、アサギと一緒に降りる。アサギの案内のもと奥へ奥へと進んでいく。
何度も同じような通路を通り抜け、ガーディアンの中は、さながら迷路のようになっていた。
進み続けて、アサギはようやくある扉の前まで来ると立ち止まる。
[作戦指令室]
扉の上の方にそう書かれている文字。
その文字が奏真の目に止まる。
(作戦………俺を呼び出していったいガーディアンは何を考えているんだ?)
呼ばれた時からここまでに全く心当たりがない奏真は文字を見て、更に困惑した。
後ろから除く雪音は固唾を飲んだ。
「この部屋だ。おそらくここへ呼んだってことは上の人たちがいる筈だ。もし何か言って置きたい事があるならばこの機会に言うといい」
アサギは軽口を叩きながら扉のノブに手を掛けた。奏真は図星なのかシラー、っと真顔でアサギの話を無視。
雪音は恐れ多さのあまり全力で首を横に振る。何か言いたい事があってもこの場でなど言えない。そう読み取れる。
アサギはクスクスと笑い、二人の反応を見て楽しんだ後、扉を開いた。
「どうも失礼します。言われた通りに呼んできましたよ」
薄暗い室内。室内の明かりは大きなモニターから出る明かりのみで照され、モニター以外の光源はない。
そのモニターを「コ」の字に囲むように部屋の中には五名のガーディアン関係者と思われる人物がそれぞれ着席していた。
「ご苦労、入りまたえ」
モニターをバックに真ん中で座る男性。彼がアサギに入れるよう言うと他四人もアサギたちの方へ目を向ける。
「………」
緊張感が漂う空気が奏真に伝わるが特に顔色に変化はなく、堂々と歩いて中へと入る。
雪音はそんな奏真とは対照的にビクビクと怯えながらまるで親鳥の後をつける雛鳥のようについていく。
二人が入るとアサギは扉を閉め、二人の横に立ち並んだ。
「急な呼び出しで大変失礼した。私はガーディアン本部、司令官の
はにかむガーディアン本部の司令官、本田。手前の席へと奏真たちを誘導する。
空いている席は二つしかなく、右に奏真。左の席を本来ならばアサギが座る予定だったが落ち着かない雪音を座らせ、アサギは奏真の斜め横に立つ。
ドカリと席に着いた奏真は改めて名乗る。
「初めまして。請負人の奏真だ。時間が惜しい。本題へ入ってくれ」
無駄な会話をするつもりはないと意思表示をする。
「……との事だ。始めてくれ」
奏真の気を悪くさせない為に本田は五人の中の唯一の女性、秘書兼補佐の
「わかりました。では………」
立ち上がる前永は本田と場所を入れ替わり、モニターを使って説明を始める。
と、その前に雪音の方を見て、言葉を放つ。
「始める前に、お呼ばれでない部外者はここから立ち退き願います」
キッ、と睨み付けるように鋭い目付きを雪音に向けた。話を聞く権利がないということだろう。
雪音はその言葉にビクッ、と体を震わせた。
「こいつは部外者じゃねぇ、俺の助手だ。このまま開始を願おう」
透かさず奏真が雪音を庇うように前永の言葉を拒否した。
前永は「どういたしますか?」と目で本田へと訴えかける。
すると本田は小さく頷いた。
「よかろう。このまま始めてくれ」
「承知致しました。では……」
本田の指示に従い、雪音の視聴を認める。
前永はモニターへと向き直ると説明を始めた。
「順を追って説明致します。先月より、都市内部では新たなモンスターが発見、確認されました」
モニターには前永の言葉に出たその新たに発見されたモンスターであろう画像が映し出される。
それは全長一メートルと五十センチ。筒のような丸みのある体に、それを支える長細い四本の脚。足先は鋭く尖り、また関節と思われる節が一本の脚に二ヶ所。腕は体から等間隔に四本生え、軟体動物の触手のように曲がりくねった腕。その先には三つの指が付いていた。
最大の特徴としてはそれは生物ではなく機械型であり、ボディを含め体の部位全ては金属質。赤く光るカメラのような目。
そんな特徴を持つ機械型のモンスターを三人はつい最近、見覚えがあった。
(………)
形や大きさ、少し特徴に違いはあるがどこか似ているその容姿。
前永の話は続く。
「更に一体だけでは留まらず、複数体の群れの単位で急に現れては消える。現段階では人を襲う、魔法を使う事も確認されています。戦力的にはさほど強くなく脅威とは言い難いですが、幾分急に現れるので部隊も手を焼いている状況です。現在隊員たちにより被害は最小限に抑えていますがこの先の保証はありません」
モンスターによる結果を報告する前永。
あまりの話の長さに奏真は口を挟んだ。
「話が見えてこないな。要点だけを伝えて欲しいんだが?」
前永は奏真の態度に小さくため息をついて一度モニターから目を離す。
「順を追って、と始めに申し上げました。これは必要最低限の情報です。これからあなたに対しての要件に最も重要だと言えますが、それでも聞かないと?」
「聞きたい事はこちらから聞く。俺は先程紹介した通り請負人だ。依頼が要件じゃないならば出るぞ。情報の確認なんてそっちで勝手に済ませてくれ。今一度言うが時間が惜しいんだ」
あくまでも反抗的な態度に前永は目を細める。目線の先の奏真は相変わらずの態度で腕を組んだ。
前永は確認するように再度本田に目で指示を仰ぐ。
「………では、その件については私から」
本田は一度前永を下がらせ、その場から奏真の方へ問いかける。
「私はこれが人為的なものであると考えているが君はどう思う?」
「それが、その問いが俺をここへ呼んだ理由か?」
「これもそのひとつ、という事だ。で、どう考える?」
「……愚問だな」
答えるまでもなく同意見だと主張する。
アサギと雪音はその二人の会話の行く末を見守る。
すると話の展開は急に変わる。
「そこで君には調査を依頼したい」
「断る………と、言ったら?」
「いや、君は断れない。ハルフィビナの件で君はガーディアンの隊員に手を出している。それが敵だったとしても」
本田が話に出したそのガーディアンの隊員とは、ガーディアンを自称するあの男。奏真が雪音を守る為に鎮圧した彼の事だった。
「…………」
敵とはいえ、確かに手を出した事には変わりはない。
奏真と本田の話のやり取りを聞いていた雪音は真っ青な顔をしていた。
「話を戻そう。依頼内容は調査、達成条件はその内容の根拠となる物を見つけ、その情報をガーディアンへ渡してほしい。これ以上先の事は機密事項。受けてもらわなければ話す事が出来ない」
全ての決定権は奏真へと委ねられた。
時間にして、およそ数秒の間沈黙が続く。
奏真は両目を瞑って最善の策を考える。そして、ゆっくりと開いた。答えは出た。
「……………わかった。その依頼、引き受けよう」
奏真の賢明な判断に本田は微笑んだ。
「それは良かった。では、依頼の内容について詳しく説明しよう。先程の話の延長上の話となる。前永君、頼む」
「はい。それでは先程の話の続きから……現れた機械型モンスターは一定の場所から
モニターの画面が機械型モンスターから切り替わる。次いで映し出されたのは大きな城のような建物。
「都市アレクトル最大規模の魔術学院、アレクトル学院です」
学院にしては派手な見た目で、洋風の城の見た目をする外壁は白、三角の屋根は青色。
(………学院)
そんな一度見たら絶対に忘れもしないような建物。それを見た奏真の記憶の中で嫌なものが甦る。
それを誤魔化すように奏真はひとつ質問をした。
「それは内部からのものなのか?」
「いえ、正確には学院近隣からです」
モニターは地図へと切り替わり、学院周辺を膨大な数の赤丸がつけられていた。その赤丸が示すものはおおよその出現ポイント。
大体の赤丸は学院と密接に並んでいた。
「見て分かる通り学院と何かが関わっているものと思わざるを得ません。もし仮に本当ならばこれを放って置く事はできません」
そしてモニターの画面は更に次のページへと進む。
「そこであなたたち請負人殿に改めて依頼をお願いしたいのです。内容はアレクトル学院の内部へ潜入し、そこから情報を掴んでくること。ただそれひとつです」
モニターから目を離し、奏真の方へ振り返る前永。
「また、潜入はあなた単独で行ってもらいます。助手およびガーディアン隊員である御影アサギの同行の許可は出来ません」
それはつまり、
(この先奏と別行動………)
任務遂行にあたり一度奏真とは別れて行動しなくてはならない。
作戦的に二手に別れた事は別として、初めて出会ってから奏真と別れて行動したことのない雪音は不安を隠せなかった。
雪音の不安を読み取って奏真は斜め後ろで立つアサギに代わりを託す。
「アサギ、頼んだぞ霧谷のこと」
「………了解、任せてくれ」
任務以上に真剣な奏真の表情に少し呆れたように息をつくがそれに応じるアサギ。
反論はないものと見て、前永は話を終わりへ持ちかける。
「以上ですが、何かご質問は?」
「依頼には関係ない事だが………」
片手を挙げるのは奏真。
「何でしょう?お答え出来るものならばお答えします」
「なぜガーディアンの隊員から任務として行かせない?」
その問いに関して前永は答えを持っていない。代わりに本田が受け答えに応じる。
「行かせていない訳ではない。既に潜入させているが当てにしないでもらいたい。学院と本部は密接に関わっている。そのため腕の立つ隊員は何度か顔を合わせている。あくまで囮になってもらい、君が本命として潜入するのが妥当だ。と、考えた。何より君の魔力量ではマークされまい」
その言葉に微かに奏真は動揺する。
(百歩譲って魔力量は見れば分かる。だが霧谷のエルフ族といい、ガーディアンはどこまで情報を得ている?)
あまりいい予感のしない奏真は目を細めて本田へ向ける。
本田は気付いていないのか振りをしているのか。奏真の視線を無視して話を終わりにする。
「他に質問は?なければこれで終わりだ。各自速やかに任務を遂行したまえ」
解散を命じる本田。
奏真は依頼をこなすために席を立つ。本来ならば聞きたい事があったところだが、何も言わずに部屋を後にした。
同じく雪音とアサギも部屋を去っていく。
役者が全員部屋を出たところで、今までずっと黙って話を聞いていた男が口を開く。
「いいんスか?エルフ族の彼女味方に付けておかなくて………」
三人が去っていった扉の方を見ながら言う。
本田はふっ、と小さく笑みを溢す。
「………今はまだいい。いずれ時はくる。むしろ今は居所が分かって好都合だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます