行動派愚王の理想論

河栗 凱浬

第1章 愚王の国

いつだって語り屋は持論に重きを置く

 話をしよう!

 そこの少年よ。こんな平凡で平和な村で泣いている少年よ。

 そんな傷だらけになってどうしたんだい?

 転んだ訳じゃあないだろう。

 大方、イジメられていたのだろう?

 隠さなくてもいいさ。とはいえ、強がりたい気持ちも分からなくはないよ。

 だからそれはどうでも良いんだ。気分転換さ!

 僕と話をしよう。

 ん? お兄さんは誰かって? 旅人さん?

 そうだねぇ……。

 吟遊詩人を旅人と言えるのなら、僕は旅人なのかもしれないね。

 でも生憎、僕は歌が下手でね。かと言って素敵な物語を沢山知っている訳でもない。吟遊詩人とは似ても似つかないよ。

 言うなれば、そう。〝語り屋〟とでも言っておこうかな?

 僕はお話をするのが好きなのさ。お金を取るってこともないから安心してよ。

 じゃあ早速、すぐそこの岩に座って話そうか。

 そんな訝しげに見つめないでおくれよ。僕は今日、機嫌が良いんだ。理由はないんだけどね?

 さて、少年。

 君はなんでイジメられているのか説明できるかい?

 ……そんな暗い顔をしないでおくれよ。僕はお話がしたいだけなのさ。案外話せば心も軽くなるものだよ? まあ、常套句ではあるけど、だからこそ効果もまた保証されていると言ってもいいと思うんだ!

 さあ、言ってごらん?

 ……ふむふむ。多分、自分が弱っちいから、と。

 それは腕力的な意味だろうか? それとも心的なものだろうか?

 イジメが起こるには様々な理由があるはずだ。

 それはくだらない理由だったりする事もあるだろうが時には明確な原因の場合もある。

 例えば君のように表情が暗い、ハッキリしない声、オドオドした態度。

 それだけで格好の的になる事もあるだろうね?

 じゃあ少年。

 イジメは悪い事だと思うかい? イジメてくる奴らが悪いと思うかい? 自分は悪くないと思うかい?

 当然という顔だね。

 だけど、僕はそうは思わない。

 イジメは言わばコミュニケーションなんだよ。

 行き過ぎたイジメは当人同士の不和だ。

 君が変わろうとしない限り改善の余地は無いだろうさ。だから君が悪いという主張は通る。

 君はイジメを受ける自分を彼らに態度で肯定しているに等しいからね。

 彼らは悪い事はしていないが正しい事もしていない。それが普通だと思ってしまっただけなのさ!

 そこに善悪はないのだよ。

 勿論、これは僕個人の考えだからね?

 まあ、難しい話だ。

 立場が変われば善悪など簡単に覆る。正義もまた人によって違う。

 少年が悪だと思えば君にとっては紛れも無い悪だ。

 物事は柔軟に考えるべきだな。かくいう僕も柔軟に思考できているのか悩まされる日々だよ。

 なればこそ、神々は言うのさ。

 『己の善悪を明確にし、正義を疑え』ってね。

 正しさを疑え。

 正義が善だと誰が決めたんだって話だね。正義なんて誰かの為に用意された大義名分以外のなにものでもないのさ。

 なんでもかんでも言葉通り、見た目通りに捉われず思考停止しないようにしなきゃね。

 イジメの話からだいぶ離れてしまったね。

 僕の悪い癖だ。話がコロコロ変わってしまうんだ。

 まあ、あれだよ少年。心を強く持ちたまえ。

 英雄が昔イジメられてた〜、とか良く聞く話じゃないか。少年もいつかそうなるかも知れないね。

 その為には強い心は必要不可欠だ。

 強い意志を持ってる奴は例外なく〝力〟を持っているものさ。

 その力は腕力や心の強さだけとは限らないけど、やっぱりバカにできない〝力〟ってものがあるんだ。

 さて、そろそろ時間かな。僕のなんて事のない話に付き合ってくれてありがとう!

 気張れよ、少年!

 あ、そうそう。

 知ってるかい、少年。

 神に偉業を認められた者は1つだけ、なんでも願いを叶えてくれるそうなんだ。

 ま、神の言葉なんてあまり本気にするものでもないさ。彼らの物語は、たった1人の男を否定する為のものなのだから。

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