【書籍版】役立たずと言われたので、わたしの家は独立します! ~伝説の竜を目覚めさせたら、なぜか最強の国になっていました~

遠野九重/カドカワBOOKS公式

プロローグ 役立たずと言われて、婚約を破棄されました!

 辺境伯というのが、このフォジーク王国でどんな役割を担っているかご存知でしょうか。

 すでに知っていたらごめんなさい。

 念のために説明しますね。

 というのも、世の中には、


「辺境伯家など、国の端にいるだけの役立たずだろう」


 なんて失言をやらかしちゃう人もいるからです。

 たとえば私の婚約者である第一王子のクロフォード殿下とか。

 貴族というものは多かれ少なかれ自分の家に誇りを持っていますから、たとえ相手が王族であろうと、ここまで露骨に見下されたら、最悪の場合戦争になるかもしれません。


 というか私の実家、辺境伯家なんですよね。

 殿下、もしかして喧嘩をご所望ですか。

 私は十五歳でクロフォード殿下の六つ年下、小柄だし腕も細いですけど、我が家に伝わる必殺の『ジュージュツ』がありますからね。首をキュッと絞めちゃいますよ。

 話を戻すと、辺境伯家とは王国を外敵から守るための防波堤のようなもので、その役割を担うために多くの特権を与えられています。

 たとえば魔物の大群がわらわらと国境線に近付いてきた場合、辺境伯家は当主の決定だけで兵士を動かすことができます。

 国王陛下に許可を取る必要はなく、事後報告だけで構いません。


「あっ、王様ー。オレだよ、オレ、オレ。辺境伯。さっき兵士ちょっと動かしたからー。うん、十万人くらい。ちょっと騒がしくなるけどヨロシクー」


 この発言は私のご先祖さまのもので、記録水晶という魔導具に当時の音声が残っています。

 国王陛下に対する発言としてはあまりにも不敬ですが、古い文献を調べてみると、その親しげな口調がむしろ喜ばれていたようです。これもある意味では辺境伯家の特権かもしれません。

 他にも、領内で独自の通貨を発行する権限を認められていたり、国境防衛のために戦費が必要なときは納税を拒否できたり、辺境伯家というのはその一員である私から見ても、びっくりするほど大きな権限を持っているわけです。


 あっ。

 そういえば自己紹介を忘れていましたね、すみません。

 私はフローラリア・ディ・ナイスナー、ナイスナー辺境伯家の末娘です。

 ここまでは辺境伯家の役割について説明させてもらったわけですが、別に、自分の家について自慢したかったわけではありません。

 なぜそんな話を始めたかといえば、今日は王宮で夜会が開かれたのですが、クロフォード殿下が私のところを訪れて、何の前触れもなく告げたのです。


「前々から思っていたが、辺境伯家など、国の端にいるだけの役立たずだろう」


 これが私自身への罵倒なら、ひとまずサラッと受け流して「あとで王宮の裏まで来てください」と耳元で囁くところですが、家のことを悪く言われると、さすがに冷静ではいられません。

 国の端にいるだけの役立たずというのは、あまりにもひどい誤解です。

 ナイスナー辺境伯家の領地はフォジーク王国の西端にあり、およそ三〇〇年の長きに渡って王国の西側一帯を魔物の脅威から守り続けてきました。

 それなのに『役立たず』の一言で切って捨てられたら、いったいどうすればいいのでしょう。


 私は知らず知らずのうち、頭の右側に付けていた髪飾りに触れていました。

 それは星と月を組み合わせた可愛らしいもので、六年前、魔物との戦いで命を落としたお母様の形見です。

 ふと胸に蘇った過去の記憶に、思わず息が詰まりそうになります。


 そうして私が動揺している隙を突くように、クロフォード殿下はこう言い放ったのです。


「役立たずの辺境貴族の女と結婚するなど、やはり我慢ならん。……俺は真実の愛に気付いた。フローラリア・ディ・ナイスナー。貴様との婚約は破棄させてもらう」

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