第十三章第47話 再びの祭壇

 それからも魔物たちの襲撃は続き、ついに日が傾いてきた。だが魔物たちの波が途絶える気配はない。


 いくら弱い魔物とはいえ、さすがにずっと戦い続けているのでいい加減に疲れてきた。


「きりがないですね」

「そうでござるな。やはり発生源を叩くしかないのではござらんか?」

「発生源? あ、もしかして……」

「そうでござる。今回もあのお祭壇がある気がするでござるよ」


 なるほど。どうもおかしいと思っていたが、そういうことか。


 私はすぐさま聖属性の魔力を東の方向へと伸ばし、そこから時計回りにゆっくりと回していく。


「あ! ありました! あの方向です! クリスさん!」

「お任せください!」


 クリスさんが斬撃を飛ばし、魔物の群れの中に道ができる。


「行きましょう!」

「はい!」


 私たちは魔物の群れの中に飛び込んだ。アイロールでのときと同じような状況だが、半日戦った後だというのに余力がある。


 ううん。私たちもずいぶんと成長したものだ。


「姉さま?」


 おっと。考えていたことが顔に出ていたようだ。ルーちゃんが不思議そうに私のほうを見ている。


「ちょっとアイロールでのことを思い出していました。あのときと似ているなって」

「でも、今のほうが余裕でござろう?」

「そうですね。なので私たちも強くなったなぁ、と」

「色々あったでござるからな」

「はい」


 そんな会話をしつつ魔物の群れの中を突っ切り、数キロ進んだところで木陰に設置された祭壇を発見した。祭壇は予想どおり黒いもやに覆われているのだが、靄の量が今まで見たことがないほどに多い。そしてそんな靄に包まれた祭壇はしっかりと稼働しているようで、次から次へと魔物が湧いてくる。


 私はすぐさま浄化魔法を掛け、祭壇に蓄えられた瘴気を浄化していく。


 ……確実に瘴気は浄化されているのだが、終わりが見えない。一体どれほどの瘴気を蓄えているのだろうか?


 そのまま五分ほど浄化を続けると、ぱたりと手応えがなくなった。


「……ふう。これで浄化できたみたいです」


 集中を解いて周りの状況を確認すると、周囲には大量の魔物の死体が積み上がっている。


 ええと、うん。どうやらみんなが守ってくれていたようだ。


「リーチェ」


 すぐさまリーチェを召喚して種をもらい、祭壇の近くに植える。


「これでようやく眠れるでござるな」

「はい」


 こうして魔物の発生源を潰した私たちは意気揚々と引き揚げるのだった。


◆◇◆


 ヴェダの町へと戻ってくると、なんと町の周りを魔物たちが完全に取り囲んでいた。魔物たちの中にはひと際大きなグレートオーガがおり、その周りを大量のオーガの群れが囲んでいる。


 あ、そういえばグレートオーガが災厄級の魔物だって誰かが言っていたような?


 どうやら私たちが抜けたせいでグレートオーガを倒せる人がいなくなってしまったらしい。


 だがそれでも町を取り囲む高い壁を使ってなんとか守っており、内部への侵入は許していないようだ。


「まずいでござるな」

「え?」

「そろそろ街壁が限界でござる」


 シズクさんはそう言うと、オーガの群れの中に単身で飛び込んでいき、あっという間にグレートオーガの首を刎ねた。


 すると街壁の上から歓声が上がる。


 それからシズクさんはオーガの群れを蹴散らし、さらに魔物の群れの中に突撃していった。私はちらりと街壁の状態を確認する。


 ……なるほど。シズクさんが言っていたとおり限界だったようだ。赤い壁のあちこちにひびが入っており、さらに一部は何か大きくて硬いものがぶつかったのか崩れ落ちている。


「フィーネ様! こちらも残りの魔物を掃討しましょう」

「あ、はい。そうですね」


 クリスさんに促され、私たちも残った魔物の解放を進めるのだった。


◆◇◆


 ヴェダを襲ったかつてない規模の混成魔物暴走スタンピードは、フィーネたちの活躍によって夜半前には撃退された。そして人々が疲れて寝静まったころ、東の森に設置された祭壇の前に立つローブ姿の人影があった。


「……」


 ローブ姿の人影は無言で祭壇をじっと見つめていたが、しばらくすると近くの地面に向かって手をかざした。するとフィーネの植えた種が掘り出され、ふわふわと宙に浮かんでいる。


 ローブ姿の人影はそれを小瓶に入れ、懐にしまうとそのまま忽然こつぜんと姿を消したのだった。


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 次回更新は通常どおり、2023/09/26 (火) 19:00 を予定しております。

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