第十三章第46話 圧倒的な火力

 私たちはまず、トレントの存在が確認されているという東側の魔物たちの解放にやってきた。


 今回は初のビビを連れての魔物との戦闘となるため、私は基本的に後ろで援護するだけのつもりでいる。最初は安全な場所にいてもらおうとビビを部屋に残してきたのだが、勝手に部屋の窓から脱走して私たちのところに来てしまったのだ。


 こうなると檻にでも閉じ込めないと残しておくのは無理そうだが、さすがにそれは可哀想だ。というわけでこうして一緒に前線に出てきているというわけだ。


 まあ、私が結界で守ってあげれば問題ないだろう。


「クリスさん、シズクさん、お願いします」

「はい!」

「任せるでござるよ」


 私は【聖女の口付】と【聖女の祝福】を二人に与え、東側から迫ってくる魔物の群れの中に送り出す。


 二人は魔物の群れの中に飛び込むと、次々と魔物を斬り捨てていく。【聖女の口付】によって聖剣の力を解き放ったクリスさんは斬撃を飛ばして広範囲の敵を切り刻み、シズクさんはそのスピードを活かしてトレントに一瞬で近づいては【狐火】で燃やしている。


 まあ、なんというか、予想どおりといえば予想どおりなわけだが、私の出番はない。そもそもオーガの群れが来たところで聖剣の力を解放すればクリスさん一人でも大丈夫だ。


 それにトレントだって今までは火属性の攻撃手段が限られていたから苦戦していただけで、今は何の問題もない。ちょっと気がかりなのはエビルトレントくらいだが……。


 そんなことを考えながら戦闘の推移を見守っていると、クリスさんが大量の魔物を斬撃で消し飛ばした先に大量の切り株が出現した。その切り株は瞬く間に再生してトレントとなり、枝を一斉にゆすり始めた。


 あれは! 眠り粉!?


 慌てて防壁で防ごうとしたが、シズクさんはまるで気にした素振りもなく眠り粉の中を突っ切ってトレントの群れの中に飛び込み、あっという間に切り株にして燃やしてしまった。


 ふう。ちょっとビックリしたが、これはきっと【聖女の祝福】の効果だろう。さすがに炎龍王の黒いブレスは完全に防げなかったが、トレントの眠り粉くらいなら大丈夫らしい。


 私は念のためルーちゃんとビビにも【聖女の祝福】をかけてやる。


 それからもう一度前線に視線を移すと、ひと際大きなトレントをシズクさんが切り株に変えていた。その切り株も【狐火】の青い炎に焼かれて再生しない。


 うん。これなら大丈夫そうだ。残る問題は数が多すぎることだ。なんとか私たちが行くまで他の戦線が持ちこたえてくれればいいのだが……。


「あっ!」

「どうしましたか?」

「鳥の魔物がっ!」

「え?」


 ルーちゃんに言われて上空に目を向けると、なんと巨大な鷹だか鷲だかに似た巨大な鳥が町のほうへと向かって飛んでいる。


「えいっ!」


 ルーちゃんは光の矢を放ち、そのうちの一羽を射落とした。すると攻撃されたことを認識したのか、一斉に向きを変えてこちらに向かってくる。


 ルーちゃんは次々に魔物を射落としていくが、数があまりにも多すぎる。


「むうっ!」

「ルーちゃん、大丈夫です」


 私はギリギリまで引き付け、魔物の前に防壁を設置した。すると勢い余った鳥の魔物たちは次々と防壁に激突し、ぼとぼとと落下していく。


 なんというか、ものすごくシュールな光景だ。


「キュウウウ?」


 そんな状況をじっと観察していたビビが何かを訴えかけてきている。


 うーん? これはもしかして遊んでいると思っているのだろうか?


「遊んでいるんじゃないですよ」

「キュ? キュウウゥ!」


 おや? 違ったようだ。


 ビビは地面に落ちてぴくぴくしている鳥の魔物のほうに頭を向け、ゆっくりと口を開けた。すると口の中に何やら光が溜まっていき……!


「キュウウウウ!」


 なんとビビが光のブレスを吐いたではないか!


 光のブレスは鳥の魔物に一瞬で襲い掛かり、一瞬で跡形もなく消し飛ばしてしまった。


 え? ちょっと待って? ビビ、もしかしてものすごく強いんじゃ?


「キュウウウウ!」

「あ、ええと、はい。ビビ、偉いですね」


 頭をでてやると、ビビは「キューンキューン」と嬉しそうに甘えた声を出しながら頭をりつけてくる。


 ああ、うん。やっぱりかわいいね。


 すると褒められたことで気をよくしたのか、上空の魔物たちを次々と光のブレスで消し飛ばしていくのだった。


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 次回更新は通常どおり、2023/09/24 (日) 19:00 を予定しております。

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