第十二章第35話 オキツ島の戦い
サキモリからおよそ三十キロメートルほど西の海上にオキツ島という島がある。この島は幅十五キロメートルほどの有人島であり、レッドスカイ帝国との航路上にある重要な島である。
ようやく春を迎えたオキツ島には美しい桜の花が咲き誇っているのだが、その下をしっかりと侍風の鎧と長弓で武装した兵士たちが緊張した面持ちで西の海を見つめている。
「本当にレッドスカイ帝国が攻めてくるのか?」
「スイキョウ様がそう仰っていたのだ。間違いない」
「そうか。そうだよな。スイキョウ様のお言葉に間違いがあるはずがないからな」
そんな会話を交わしながら彼らがじっと西の海を見つめていると、水平線の向こうからおびただしい数の船が姿を現した。
「あれは……?」
「あの形、おそらく軍船だな。……レッドスカイ帝国の旗が掲げられているぞ。とうとう攻めてきやがったのか?」
「かもな。よし! お館様に伝えろ!」
「おう!」
一人の兵士は大急ぎで海岸を離れ、オキツ島の守護代の館へと走っていったのだった。
◆◇◆
「ついに来たか。やはりスイキョウ様の予言のとおりであったな。よし! 皆の者! 出撃だ! スイキョウ様の地に土足で踏み入る連中を許すな! 死守するぞ!」
「「「ははっ」」」
見張りの兵士の報せを受けたこの島の守護代であるスケクニ・タイラはそう
そうしてスケクニたちが西の海岸にやってくると、そこではすでにレッドスカイ帝国の兵士たちが小舟を使って砂浜に上陸していた。
それを見たスケクニはすぐさま警告を行う。
「ここはゴールデンサン巫国領オキツ島である。レッドスカイ帝国の者たちよ! 今すぐ立ち去れ!」
しかしレッドスカイ帝国の兵士たちはその警告を聞かず、次々と上陸し、剣や盾を構えて戦闘姿勢を取る。
「ぐぬぬ、仕方がない」
スケクニは渋い表情を浮かべた。だがすぐに意を決したかのように馬に乗ったまま最前列まで進み出ると、高らかに名乗りを上げる。
「やぁやぁ、遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って眼にも見よ! 我こそはオキツ島の守護代スケクニ・タイラなり!」
しかしそんなスケクニの顔面にレッドスカイ帝国兵の放った矢が突き刺さった。
「がっ!?」
スケクニは力なく落馬し、地面に崩れ落ちる。
「なっ!?」
「神聖な名乗りの最中に!?」
「なんて奴らだ!」
動揺が広がるゴールデンサン巫国の兵士たちに対し、レッドスカイ帝国の兵士たちが矢を射掛けながら突撃を仕掛けてくる。
「ぐあっ!」
「な、なんと卑怯な!」
「ぐああ」
ゴールデンサン巫国の兵士たちは次々と矢を受け、倒れていく。
「な、これは……毒か。おい! お前! 早くサキモリへ報せに行くんだ!」
「は、はいっ!」
数人の兵士がその場を逃げ出した。その間にもレッドスカイ帝国の兵士たちは次々とゴールデンサン巫国の兵士たちを蹂躙していったのだった。
◆◇◆
「リィウ・ドン将軍、吸血鬼の手下どもを一掃いたしました!」
「ふはははは。吸血鬼とその手下どもめ。大したことないではないか。お前たち! 島民を全員連れてこい! 物資はすべて奪え!」
「はっ!」
リィウ・ドンは上機嫌な様子でそう命じた。兵士たちは命令に従い、島中の集落から住民たちを集めてくる。
「よし。吸血鬼に従う連中は全員処刑だ! 老人、子供、男は全員首を
「「ははっ!」」
「女は自由に使え! だが殺すなよ。使い終わったら手に穴をあけ、数珠つなぎにして船に吊るせ!」
「ははっ!」
こうしてレッドスカイ帝国軍に蹂躙されたオキツ島では見るに堪えない虐殺が行われ、ほぼすべての島民が殺されることとなった。
生き延びた島民は山の中などにあった洞穴に逃げ込んだ者だけで、島の人口は数えるほどにまで減ってしまったのだった。
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お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、本話は文永の役(一度目の元寇)で実際に対馬と壱岐島で起こったとされているエピソードを基にしております。
文永の役の後に日蓮が、「モンゴルからやってきた者たちによって対馬の百姓などの男は殺され、あるいは連れ去られ、女は集められ、手の平に穴をあけてこれを貫き通して船に括りつけられ、あるいは生け捕りにされてしまった。助かった者は一人としていなかった。壱岐島でもまた同様のことが起こった」と書き残しています。
なお、ネットでは元寇時における鎌倉武士について色々と言われておりますが、かなりの部分は某巨大掲示板発と思われる裏付けのない、または大幅に誇張されたものです。
次回更新は通常どおり、2023/01/22 (日) 19:00 を予定しております。
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