第十章第50話 勇者とルミア(前編)
シャルロットとアランはフィーネの作った結界の道を王都方面へと走っていく。
「悔しいですわ。わたくしが勇者のはずなのに、足手まといだなんて……」
「シャルロット様。先ほども申し上げましたが、シャルロット様は勇者としてはまだまだ未熟でらっしゃいます」
「分かっていますわ。フィーネのように強力な【聖属性魔法】もなければ無詠唱で発動することもできないわたくしが、いくらフィーネの真似をして戦ったところで所詮は真似事に過ぎないということくらい……」
シャルロットはそう言って唇を噛む。
「ですが、シャルロット様は間違いなく勇者でらっしゃいます。あの竜によって皆が恐怖に襲われたとき、シャルロット様だけが自ら恐怖に打ち勝ってくださいました。その後だって、恐れず果敢にあの竜に立ち向かったではありませんか」
「すべては、この神剣のおかげですわ。わたくし一人の力ではとても……」
シャルロットは悔しそうに、そして寂しそうにそう答えた。
「それでも、です。いくら神剣があろうとも、あのような強大な敵に立ち向かうことができる者は限られます。勇者とは勇気ある者、でしたな。シャルロット様はきっと立派な勇者になられることでしょう」
「……」
「そのためにも、まずは生き残ることです。残った騎士、それからルミア殿と合流し王都に魔物が押し寄せるのを防ぎましょう。王都の民を守ることもまた、勇者の立派な役目です」
「……そうですわね」
二人はそうして結界の中を駆け抜けるのだった。
◆◇◆
「ああ、もう! 邪魔ですっ!」
シャルロットたちから先行していたルミアとマシロは協力してニ十匹ほどの猿の魔物の集団と戦っていた。フィーネの作り出した結界の道を抜けて王都に逃げ込もうとしたものの、その行く手を彼らによって阻まれてしまったのだ。
「あたしにも聖剣があれば、もっと戦う力があれば姉さまを助けられるのに」
ルミアは悔しそうにそう呟いたが、すぐに首を横に振った。そして矢を番えると狙いを絞る。
「ゲギャギャギャギャギャ」
猿の魔物たちは奇声を上げ、ルミアを包囲するようにじりじりと動き出す。そうはさせじとマシロが風の刃を飛ばし、それを見た猿の魔物は包囲するのをやめて一斉に飛びかかってきた。
ルミアはそのうちの一匹に狙いを定め、正確に矢でその頭部を撃ち抜いた。
「ギャッ!?」
矢を受けた猿の魔物はその場に崩れ落ちるが、残る魔物たちはルミアに襲い掛かる!
「マシロ!」
ルミアの指示でマシロは襲い掛かってきた魔物たちに猛烈な突風をぶつけた。ある魔物は吹き飛ばされ、ある魔物は身を低くしてその突風をやり過ごす。
その突風をやり過ごしている魔物たちに対してルミアの矢が一矢、また一矢と撃ち込まれてく。それらの矢はどれも見事に頭部を射貫いており、矢を受けた魔物たちは力なく倒れて突風で吹き飛ばされていった。
「ゲギャギャギャ」
残る猿の魔物は八匹ほどだろうか。奇声を上げた彼らは、距離を取りつつも再びルミアを取り囲むように動きだした。
そうはさせじとマシロが風の刃を放つものの、猿の魔物はそれを避けるだけで今度は安易に飛び込んでくるようなことはしない。
どうやら包囲を完成させることを優先したようだ。
対するルミアは矢を番え、攻撃する機会を窺っている。
そうこうしているうちに、猿の魔物はぐるりとルミアのことを取り囲んだ。そしてじわりじわりと距離を詰めて、包囲を少しずつ狭めてくる。
「ううっ。魔物のくせに賢いなんて」
ルミアは不安そうにそう漏らすが、マシロがその体をルミアの
「あっ。うん。そうだよね。姉さまの力になりたいなら、こんなところで負けるわけにはいかないもん」
マシロのおかげで調子を取り戻したルミアは、正面から向かってくる魔物に向かって先制で矢を放つ。それに反応した魔物が避けようとしたため、今回は頭ではなくその肩口に命中した。
一矢で倒すことはできなかったものの、肩口に矢を受けた魔物の動きは鈍くなった。そこにルミアは追撃を撃ち込む。今度は見事に頭部を射貫き、魔物は地面に倒れて動かなくなった。
だが、残る魔物はその隙を見逃しはしなかった。周囲を取り囲んでいた魔物が一斉にルミアを目掛けて走り出す。
みるみるうちに包囲の半径が狭まっていくが、それに対してルミアは前に走り出した。前方の魔物を倒したことで空いた穴から包囲を抜け出すつもりなのだ。
「マシロ。一番近いやつを吹き飛ばして!」
その指示を受けたマシロはルミアに飛びかかってきた魔物だけを突風で吹き飛ばす。
やがて包囲を抜けたルミアは振り返ると、吹き飛ばされて体勢を崩した魔物を矢で射貫いた。
「あと、六匹! え?」
猿の魔物をキッとにらんだルミアは、マシロに促されて振り返った。するとなんと、そこには炎を身に
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次回更新は通常どおり、2021/12/26 (日) 19:00 を予定しております。
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