第十章第49話 決断
クリスさんとシズクさんは次々と魔物を倒しているが、シャルのほうはかなりまずい状況だった。結界と防壁を上手く組み合わせてなんとか戦ってはいるものの、かなりの苦戦を強いられている。
あれは、どう考えてもあれはまずい。
「シャル! 戻ってください!」
「わ、わたくしは!」
「シャルロット様!」
アランさんが慌ててシャルに駆け寄り、死角から襲い掛かろうとしていた猿の魔物に背中から剣を突き立てる。
「グギェッ!?」
うめき声を上げた猿の魔物の体から炎が噴出する。
「アラン様! わたくしが!」
アランは剣を引き抜いて下がり、そこにシャルの
え? 何それ?
って、そうか。あれはきっと勇者専用スキルである【雷撃】の効果だろう。【雷撃】スキルは瘴気を消滅させることができるスキルだから、瘴気から生まれた魔物はその攻撃を受けるだけで文字どおり消滅するのだろう。
私が使ったときはただの健康器具にしかならなかったが、勇者が使えばこうなるようだ。
ただ、それを加味したとしてもシャルの戦い方はあまりにも危うい。いくら【雷撃】スキルがあるとはいえ、あれではまたやられてしまう。
「シャル! 戻ってください! 今のシャルでは!」
「わたくしは、勇者ですわ! 勇者が、逃げるようなことなどあってはならないんですわ!」
「……シャル」
これは、ダメだ。きっとシャルはあんなことがあって、しかもその弱みに付け込むようにあのハゲから役割を与えられたせいでそれしか見えなくなっているんだ。
でもこんな戦い方では!
「フィーネ様! 大きいのがきます!」
どうすべきかを考えていると、クリスさんが大声で危険を知らせてくれた。
炎龍王を確認すると、大きく息を吸い込んでいる。
あ、これはまずいやつだ!
そう直感した私は全力で結界を張り直し、さらに炎龍王の口が開いた瞬間に防壁を再び口の中に設置した。
次の瞬間、真っ赤な極太のレーザー光線のようなブレスが放たれた。
強烈なその強烈なブレスは私の設置した防壁をいとも簡単に破壊し、私たちを守る結界に命中した。
すさまじい威力だ。結界がぎしぎしと悲鳴を上げており、その維持にぐんぐんと魔力が持っていかれる。
「う、く、ここで負けては……」
必死に結界を維持していると、突如ブレスが飛んでこなくなった。
不思議に思って炎龍王を確認すると、シズクさんとクリスさんが左右から攻撃を仕掛けていた。
助かった!
はっきりいってここまで結界が危うくなったのはスイキョウとの戦い以来かもしれない。
だがスイキョウのときとは違い、今の私は【魔力操作】をカンストしているのだ。にもかかわらず結界が破られそうになるとは!
スイキョウよりも強力な攻撃を放てるということは、こいつはやはり間違いなく本物の炎龍王なのだろう。
周りを確認すると、なんと結界で守った場所以外は地面が溶けて一面真っ赤になっている。どうやら砂漠で砂がガラス状になっていたのはこのブレスが原因のようだ。
当然ではあるが、私たちの周りにいた魔物たちもまとめてブレスで消し飛ばされたようだ。そしてその射線上で戦っていた騎士たちも……。
だが、こうなってしまうと空でも飛べない限りどんどん不利になっていく。今のシャルたちにこの溶けた地面の上で戦う方法はない。
これは、もやはなりふり構っていられない。一刻も早く決着を付ける必要がある。
「シャル、アレンさん。それからルーちゃんも。退避してください。ここにいられては戦いの邪魔になります」
こんなことを言いたくはない。だが、守るためにはどうしても言わなければならない。
「な、何を言っているんですの? わたくしは勇者ですのよ?」
「勇者でも! シャルを守りながら戦うのは負担になるんです!」
「あ……」
シャルはきゅっと唇を噛んだ。ルーちゃんも悔しそうに俯いている。
申し訳ないとは思うけれど、仕方がない。戦いについて来られない人が前に出ても犠牲が増えるだけだ。そして先ほどMPポーションをがぶ飲みしてしまったので、もう次の蘇生魔法を成功させる自信はない。
「シズクさん! クリスさん! 早く勝負をつけましょう!」
「そうでござるな!」
シズクさんは戦いながらそう返事をする。
私は結界をトンネルような形で張り直し、王都へと逃げられるように退路を作り出した。
「向こうまで繋げてあります。この上を走っていけば溶けた地面の上を歩かずに済みます。さあ、早く行ってください!」
「う……姉さま。絶対に帰ってきてくださいねっ!」
「はい。約束です。私は絶対に死にませんから」
そうしてルーちゃんは悔しそうに走っていった。あとは向こうにいる騎士さんたちと合流して、もっと王都のほうまで撤退してくれればいい。
「アランさん、シャルもです。早く行ってください!」
「わ、わたくしは……」
「シャルロット様。ここは聖女様の仰るとおりです。今のシャルロット様には経験が足りません。ここは聖女様とお二人の聖騎士に任せ、再起を図るのです」
「アラン様……」
シャルはまたもや悔しそうに唇を噛む。
「フィーネ。わたくしの前からいなくなるなど、許しませんわよ?」
「シャル、ちゃんと私は帰ってきます。あいつに負けるつもりはありません」
「……フィーネ。その言葉、信じましたわ」
そう言い残し、シャルはアランさんと共に王都のほうへと走っていったのだった。
================
次回更新は通常どおり、2021/12/23 (木) 19:00 を予定しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます