第十章第34話 守られたイザール
リーチェの生み出した種を植え、早々にゲルゼクを出発した私たちは三日かけてイザールへ到着した。
以前イザールでは色々あったのだが、独立したということはイエロープラネットを見限ったということなのだろう。
イザールはエイブラのように栄えていたわけではない。もしかすると経済制裁のせいで住民の生活が立ちいかなくなり、やむを得ず独立したといった感じかもしれない。
ただ、あの首長さんは親エイブラ派のように見えた。それにこの町の兵士たちは、私たちに刃を向けてルマ人たちの脱出を阻止しようとした人たちだ。
となるとゲルゼクのように上手くはいかないかもしれない。
と、思っていたのだがそんなことはなかった。私が馬車から顔を出しただけで地面にビタンとなりながらお祈りを始めたのだ。
ううん。どうやら偽聖女扱いしていたくせに、今度はちゃんと聖女様扱いしてくれるらしい。
なんとも微妙な気分ではあるが、無事に町に入れた私たちは前回宿泊したホテルへとやってきた。そこで宿泊の手続きをしていると、一人の男性が大慌てで私たちのほうへと走ってきた。
あれ? あの人はたしか? ええと、【人物鑑定】。
あ! そうだ。思い出した。ナヒドさんだ。エイブラに行ったときの護衛の戦士のリーダー格の人で、イザールの首長のカミルさんを殴って止めてくれた人だ。懐かしい!
「聖女様! よくぞご無事で!」
そう言ってナヒドさんはビタンとホテルの床にうつ伏せになった。
「はい。おかげさまで。神はあなた方を
許しを得て立ち上がったナヒドさんは「少々失礼いたします」と言い残してフロントに向かい、何か一言告げるとすぐに戻ってきた。
「聖女様。以前お泊りいただいたお部屋をご用意しております。どうぞこちらへ」
「はぁ」
何がどうなっているのかさっぱりわからないが、どうやら私たちのために部屋を用意してくれるらしい。
ナヒドさんに案内され、私たちは前回のお部屋へと向かうのだった。
◆◇◆
「ナヒドさん。わざわざありがとうございます」
「いえ。聖女様が再びイザールへお越しくださると聞き、我々一同できる限りの歓迎したいと心に決めておりました。以前は我々イザールの者が大変なご無礼を働き、申し訳ございませんでした」
そうしてナヒドさんは深々と謝罪した。
「いえ、もう過ぎたことですから。それに、間違った情報を与えられていたのだから仕方ありません」
「そう仰っていただき恐縮です」
「あの、ところでどうしてナヒドさんがイザールの人たちを代表して謝っているんですか? ここの一番偉い人はカミルさんではありませんでしたか?」
「いえ。カミルめは聖女様を害そうとした罪で処刑しました。現在、このイザール首長国の首長はこのナヒドめが仰せつかっております」
「え?」
処刑? それはいくらなんでもやりすぎなのでは……。
「聖女様が慈悲の心をお持ちで、過ちを許してくださっているであろうことはこのナヒドも承知しております。ですが、我々イザール首長国は世界聖女保護協定への加盟を目指しております。そのためには、聖女様に刃を向けた首謀者は必ず処刑しなければなりません」
なんと。それほどまでに……。
「フィーネ様。お忘れかもしれませんが、ホワイトムーン王国においてもあのような行為を行ったものは処刑です。末端の兵士であっても、労働刑は避けられないでしょう。世界聖女保護協定にもそのように記されております」
「そうですか……」
重すぎるような気もするが、これは仕方がないのかもしれない。何せ聖女とは、実在する神様が人類に希望を与えるために選んだ偶像なのだ。それを人間がどうこうしようなどというのは、見方によれば神に対する反逆とも言われても不思議ではない。
まあ、あのハゲ神様に敬う価値があるのかは
「ええと、ナヒドさん。首長就任おめでとうございます」
「ありがとうございます! 聖女様に就任をお祝いいただけるとは!」
ナヒドさんは感極まった様子だ。ただ、このまま話が進まないのは困るので強引に話題を変えて質問してみる。
「ええと、エイブラが壊滅したという話を聞いたのですが、ナヒドさんは何かご存じないでしょうか?」
「エイブラが? ああ、なるほど。そういうことですか。恐らくですが、巨大な赤い竜によって滅ぼされたのではないでしょうか?」
「竜を見たのですか?」
「はい。あれは十日ほど前でしょうか。東の空に巨大な赤い竜が現れ、こちらへと向かってきたのです」
「え? その竜は何もしなかったんですか?」
「それが、何者かと突然激しい戦いを繰り広げたのです。その戦いはすさまじく、巨大な爆発によってキノコのような不思議な形をした巨大な雲が何度も発生しておりました。そんな戦いは三日三晩続き、やがて竜は南へと飛び去ったのです」
「キノコ雲まで……」
一体どんな戦いだったのだろうか? それに、三日三晩も戦い続けるなんて……。
「ナヒド殿。その竜を退けたのは一体何者なのだ?」
私が思案していると、クリスさんが私の代わりに質問してくれた。
「それが、分からないのです」
「分からない? だが町を守ってくれたのであれば、この町にも立ち寄ったのではないのか?」
「いえ。ここしばらくは外部から訪れた者はおりません。聖女様が久しぶりのお客様です」
「……どういうことだ?」
クリスさんは眉間にしわを寄せ、首を
「では、その戦いの場で相討ちになったのではござらんか? 早く救助に向かったほうが良いと思うでござるよ」
「我々もそう考え、兵を差し向けました。ですが魔物の数があまりに多すぎて、とても近づけなかったのです」
「魔物が多い? 一体どういうことでござるか?」
シズクさんも眉間にしわを寄せ、悩み始めた。
うーん? 私もよく分からないけれど、ここで考えても答えは出そうにない気がする。
「クリスさん、シズクさん。私たちでその場所を見に行ってみませんか? そうすれば何かわかるかもしれませんよ」
「! そのとおりですね! さすがはフィーネ様。そのようにいたしましょう!」
「賛成でござるよ。どうせならそのままエイブラも見てくるのがいいと思うでござるよ」
こうして私たちは戦いのあったという現場を見に行くこととなったのだった。
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