第十章第11話 滅びの神託

2021/09/27 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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「さて、フィーネ嬢。せっかく帰ってきてもらったにもかかわらず急で申し訳ないが、神殿へ行ってはくれぬか? つい先ほど、新たなご神託が下ったそうでな。それで教皇殿は慌てて神殿へと戻ったのだ」

「はあ」


 なるほど。本当は教皇様も一緒にお出迎えをしてくれる予定だったのか。


 一体どうして私が行かなければならないのかはよく分からないが、きっと何か理由があるのだろう。


「わかりました。では、すぐに向かいます」

「うむ。頼むぞ」

「はい」


 こうして私たちは神殿へと向かうこととなったのだった。


◆◇◆


「聖女様。ご無事で何よりでした」


 神殿に着いた私たちを教皇様は優し気な表情で迎えてくれた。だが王様と同じように言葉遣いが今までとは微妙に違っており、微妙な距離感を感じてしまう。


「教皇様。ご心配をおかけしました。それで、その、教皇様。あの、今までどおりに接して頂けませんか?」

「……左様ですか。それではフィーネ嬢、そのようにさせていただきましょう」


 教皇様はそういって再び優し気に微笑みかけてくれた。


 うん。私は偉そうにしたいわけじゃないし、このくらいでちょうどいいのだ。


「ところで、神託が下ったと聞いたのですが……」

「はい。そのとおりです。ですがまたしても我々では読むことができず……」

「読めないんですか?」

「はい。実はフィーネ嬢が行方不明の間に下ったご神託も我々では読むことができず、ルミア嬢のおかげでどうにか部分的に解読することができたのです」

「ルーちゃんが?」


 そういったことはシズクさんかクリスさんががんばるイメージだったので、ルーちゃんががんばってくれたというのは意外だった。


「むうっ。あたしだってやればできるんですっ」

「あ、すみません。ルーちゃんはあまりそういったことに興味がないと思っていましたので」

「それはそうですけど……」

「その神託は古いエルフの文字で書かれていたのでござるよ」

「エルフの文字ですか? あ、もしかしてそのご神託は精霊神様からだったりするのでは?」

「あっ! そっか! 姉さま、精霊神様の信徒になったんですもんね」

「はい」

「なんと!? それはまことですかな?」


 教皇様が驚いた様子で私にその真偽を尋ねてくる。


「はい。こうして生きて戻ってこられたのは精霊神様のおかげです。それに、私には契約精霊もいますから」

「……そう、でしたな。よく考えればフィーネ嬢は白銀の里のハイエルフの末裔なのですから、きっとそれが自然なことなのでしょう」


 そう言いつつも、教皇様はどこか落胆しているような気がする。もしかすると教皇様も私にあのハゲ神様を信仰していて欲しかったんだろうか?


 うーん。でもあの本性を知ったら教皇様も嫌だってなりそうな気はするけどなぁ。


「フィーネ嬢。よろしければご神託を授かった聖なる水鏡みかがみを見てはもらえませんかな?」

「あ、はい。それはぜひ」

「はい。ではこちらへ」


 こうして私たちは教皇様に連れられて神殿の奥へと向かい、ミイラ病の騒動のときに詰めていた区画を通り抜ける。そうしてしばらく歩いていくと、厳重に鍵の掛けられた扉の前へと案内された。


 その扉を教皇様が開けて中へと入った私たちはさらに奥へ奥へと進み、ようやく広い地下室へと到着した。


「ここが神託の間。つまり神よりご神託を授かる場所です。さ、フィーネ嬢。こちらへ」

「はい」


 そうして部屋の奥にある祭壇の中央に設えられた大きなお皿の前へと案内された。


 なるほど。どうやらこのお皿が聖なる水鏡みかがみのようだ。


 水鏡みかがみというだけあってそのお皿には水が張られている。そしてその水面にはなんとも不思議なことに、長々と文章が書かれているのだ。


 ううん。たしかに神託っぽい感じだ。しかし、その内容がどうにも……。


「フィーネ嬢。こちらが下ったご神託です」

「はい。ずいぶんと不吉なことが書いてありますね」

「おお! やはりフィーネ嬢はこの文字が読めるのですね!」


 ん? あ、そうか。そういえばさっき読めないって言っていたもんね。


「はい。じゃあ、読みますね。『封じられし古の炎、黄砂の地より解き放たれん。は滅びをもたらす災厄なり』というのが、一行目ですね。その次の行には『空よりもなお高き地、水底みなぞこよりもなお深き地、闇よりもなおくらき地に眠りし三つの災厄が動き出す。雪よりもなお白き地にて冥府の門が開かれしとき、すべての災厄は解き放たれん』と書いてあります。これってどういう意味なんでしょうね?」

「「「……」」」


 あれ? みんな唖然としているぞ?


「どうしましたか?」

「い、いえ」

「姉さま、すごいですっ! あたしも全部は読めませんでした」


 ん? ああ、そうか。多分これは【言語能力】のスキルレベルが最大だからだろう。私はこんな文字を勉強したことはない。


「これもきっと精霊神様のおかげです」

「さ、左様でしたか。フィーネ嬢は精霊神様のご寵愛を受けているのですな」


 適当に言ってみたがどうやら納得してもらえたようだ。


 よし。次からは全部精霊神様のおかげということにしておこう。


「それで、これはどういう意味なんですか?」

「……そうですな。ご神託というのはいつもこのように婉曲的に表現されるのです。分かるのは世界のどこかで災厄が蘇ろうとしていること。それから『災厄』はおそらく全部で五つあるということですな」

「最初の『災厄』とやらは、イエロープラネットにあるのではござらんか?」

「イエロープラネットですか?」

「そうでござる。黄砂の地というのは、拙者が今まで訪れた場所の中ではあの国のプラネタ砂漠以外には思い浮かばないでござるよ」

「……たしかに。レッドスカイ帝国もブラックレインボー帝国も違いましたもんね」

「フィーネ様。行ってみるべきなのではないでしょうか?」


 うーん。イエロープラネットかぁ。あの国では酷い目に遭ったしな。いや、でも『滅びをもたらす災厄』なんてものが蘇るならさすがに放っておくわけには行かなそうな気がする。


 あれ? でもちょっと待って。私たちってそもそも、イエロープラネットに入国できるんだろうか?


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次回更新は 2021/09/26 (日) 19:00 を予定しております。


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