第十章第3話 港町ヴローラ
2021/12/13 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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何度となく魔物に襲われながらも海沿いの街道を歩くこと数日、小高い丘を越えた私たちの視線の先に小さな町が見えてきた。
「フィーネ様。あれがヴローラの港町です。あそこまで行けば、乗合馬車も出ていることでしょう」
「ごっはん♪」
「そうですね。新鮮なお魚が食べられそうです。……あれ?」
よく見ると、ゴブリンたちが町を襲撃しているようだ。
「どうなさいました?」
「ゴブリンたちが町を襲っているみたいですね」
「なんと! 急ぎましょう!」
「今度は拙者が!」
クリスさん動くよりも早くシズクさんが動き出すと、猛スピードで町のほうへと駆け出していく。
「ええと、私たちも追いかけましょう」
「はい!」
そうしてシズクさんの後を追いかけ、町の門の前に着いたときにはゴブリンたちは全て斬り伏せられていた。
「フィーネ殿。もう片づけたでござるよ」
「はい」
私はリーチェを召喚し、瘴気を全て浄化してあげた。すると門が開かれ、中から騎士らしき人が歩み出てきた。
「先ほどの光とそのお姿は! もしや、聖女フィーネ・アルジェンタータ様でらっしゃいますか!?」
「え? あ、はい。そうですね」
「おおおおお! なんと! ついに聖女様がご帰還なさった!」
すると町中からわっと歓声が上がる。
「聖女様! よくぞお戻りになられました!」
「おかえりなさいませ!」
ああ、そうだよね。私、ずっと行方不明だったもんね。
「ええと、ただいま戻りました?」
会ったこともない人におかえりと言われるのも妙な気分ではあるが、一応そう答えたのだった。
◆◇◆
それから町に招き入れられ、私たちは今町長さんのお屋敷で歓迎を受けている。
町の被害はというと、早いうちにゴブリンたちの襲撃に気付いた彼らは門を締め切り、街壁の上からチクチクと攻撃するという対応を取っていたおかげで死傷者はゼロだったそうだ。
そうしてゴブリンたちを疲れさせたところで打って出て、ゴブリンを駆逐する予定だったらしい。
ただ、そこに私たちがたまたま通りがかったおかげで早くに解決できたようだ。
ちなみにこの町に駐屯している騎士はたったの十名なのだそうだ。今のホワイトムーン王国はどこもかしこも魔物の被害に悩まされており、騎士の数が足りずにこの町へ援軍を送ることすらままならない状況らしい。
そういえばクリスさんたちと再会した場所の近くにあった村には騎士がいなかったみたいだし、アルフォンソの起こしたあの戦争の残した傷跡は想像以上に大きいようだ。
「聖女様。よくぞご無事で戻られました。このヴローラを代表いたしましてサリネスト男爵家が当主、バルナバが心よりお慶び申し上げます」
「ありがとうございます」
「大したものをご用意できずに申し訳ございませんが、我が町自慢のシーフードをぜひともお召し上がりください」
そう言って運ばれてきたのはスープとピザだ。ピザが一人一枚というのは少し多い気もするが、ルーちゃんが食べてくれるだろうから問題ないだろう。
それぞれでお祈りをすると食事が始まる。まずはスープを一口飲んでみよう。
スプーンで掬って口元に運ぶと、それだけで濃厚な香りが鼻をくすぐってくる。その香りには臭みが全くなく、しっかりとした魚介出汁の香りに乾燥パセリと胡椒の香りが混ざったなんとも食欲をそそる香りだ。
その香りに感動しつつもスープを口に含む。するとたちどころに魚のうま味が口いっぱいに広がり、さらに隠されていた玉ねぎのうま味が複雑なハーモニーを奏でだしたではないか!
うん。これは美味しい。塩味も適度に抑えられており、パセリと胡椒の香りも素材のうまみを邪魔せずにしっかりとその味を引き出してくれている。
しかも魚の臭みなどは一切ないのだ。このことだけで、どれほど新鮮なお魚でしっかりした調理をしてくれたのかがよく分かるというものだ。
ちらりとルーちゃんのほうを見てみると、満足そうな笑顔を浮かべている。うんうん。やっぱり食事をしているときはあの笑顔がないとね。
続いてピザを食べてみよう。トマトソースのシーフードピザで、具はエビとピーマンかな? ボリュームがあるように見えるが生地がとても薄いので、実はそれほどでもないのかもしれない。
フォークとナイフでそれを八分の一に切り分けるとくるくると一口サイズに丸め、フォークに刺して口に放り込む。
あ、これは美味しい!
シンプルな味わいだけあって素材のうま味が本当によく出ている。少し酸味のあるトマトソースと塩の効いたチーズが絡まり、それだけも食欲がそそるというのにそこにエビのプリプリとした食感とピーマンのシャキシャキとした食感がアクセントを加えてくれる。そんな食感のエビからは濃厚なうま味の効いた汁が溢れて口の中一杯に広がり、そこにピーマンの苦味と甘みが加わるだけで口の中は幸せで満たされていく。
うん。本当においしいね。
「ルーちゃん、美味しいですね」
「はいっ! すごく美味しいですっ!」
よしよし。ルーちゃんもお気に入りのようだ。バルナバさんもニコニコと笑顔で私たちのことを見つめてきている。
急にお邪魔する形になったけど、こんなに美味しい食事をいただけるなんて本当にありがたいと思う。
こうして私たちはヴローラのグルメを満喫したのだった。
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