滅びの神託
第十章第1話 葛藤
お待たせいたしました。本日より第十章の更新を開始いたします。
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私たちは今、海の見える街道沿いの空き地で野営をしている。久しぶりのテント泊だ。私一人ではテントを張れなかったので実はちょっとわくわくしている。
「ところでフィーネ様。遅くなりましたが、聖女就任おめでとうございます」
「え? ああ、そういえば……ありがとうございます?」
夕食を終えてたき火を囲んでいると、唐突にお祝いされた。
「って、あれ? どうして知っているんですか?」
「まず神殿にご神託が下っておりましたから。私はフィーネ様が聖女になられたのだと確信しておりましたが、オーガどもとの戦いの際にそれが確認できました」
「ええと?」
「フィーネ様から賜った口付により、聖剣の真の力が解放されました。古来より、聖騎士の持つ聖剣は聖女より口付を賜ることで解放され、真の力が発揮できるようになるのです」
「ああ。そういうことですか。【聖女の口付】というのスキルは聖剣の力を解放するためのスキルだったんですね」
なるほど。わがままばかりで幽霊すら切れない欠陥品だと思っていたが、どうやら聖女様が解放してやらないと全力を出せないらしい。
って、もしかしてあれを毎回やらなきゃいけないの!?
さすがにちょっと面倒だし、恥ずかしいかな。
「しかし、さすがフィーネ様ですね。聖剣の威力は私が聞いていたものよりも遥かに強力でした。きっと、フィーネ様のお力に違いありません」
「え? そうなんですか?」
「はい。あのような攻撃ができるという話は聞いたことがありません」
「……なるほど。もしかすると、存在進化したからかもしれませんね」
「え?」
「姉さま、存在進化したんですか? なんていう種族になったんですか?」
「妖精吸血鬼という種族です。吸血鬼が覚醒せずに、精霊神様から加護をいただくとなれるそうです」
「精霊神様ですかっ!? じゃあ、姉さまも精霊神様にお祈りするんですかっ?」
「はい。そうですね。こうして生きてまたみんなと会えたのは全て精霊神様のおかげですから、ちゃんと毎日精霊神様に感謝していますよ」
嬉しそうにしているルーちゃんとは対照的に、クリスさんは何やら複雑な表情をしている。
「どうしたんですか? クリスさん」
「……いえ。ですが、フィーネ様はなぜ人の神の信徒を辞めてしまったのでしょうか?」
「え? 私は最初から人の神様なんて信じてませんよ? そもそもあいつは人の神様じゃなくてその代理で、本当は『世界の行く末を見守る神』だそうです」
「ええっ? そんなはずは!」
「だって、本人が言っていましたから」
「ええっ!? フィーネ様は神にお会いになられたのですか?」
「はい。実はそうなんですよ」
精霊神様とあのハゲ神様に会ったときのことをかいつまんで話した。
「そんなわけで、私は精霊神様のおかげでハ……代理さんに殺されずに済んだんです。いくらなんでも殺されそうになった相手を敬ったり祈ったりという気持ちにはなれません」
「そのようなことが……」
「さすが精霊神様ですっ!」
ショックを受けた様子のクリスさんに対してルーちゃんは得意げな様子だ。
「でも、代理さんも他の神様に怒られたっぽいですしね。恨んではいませんよ。それに、ちゃんとこうしてみんなとまた会えましたからね」
「はいっ!」
テンションの高いルーちゃんが私に抱きついてきた。
「ところでフィーネ殿は、今までどうしていたでござるか?」
「ああ、そうですね。海に落ちた後、運良く船の残骸にローブが引っかかってくれてですね。それから無人島に流れ着きました。それで……」
そうして私はアイリスタウンでのことを事細かに説明した。特にヴェラたちのことはかなりの長期間一緒にいたので熱が入ってしまった。
「その卵! あたしも食べてみたいです!」
「はい。そのうち一緒に遊びに行きましょう。今度はしっかり色々な卵料理を習って、美味しく調理できるようになっておきたいですね」
「はいっ!」
楽しそうなルーちゃんとは対照的に、クリスさんとシズクさんは少し怖い顔をしている。
「フィーネ様! 魔王とお会いになられたのですか!?」
「それよりも進化の秘術でござるよ。それはまことでござるか!?」
「え? え? ええと?」
「フィーネ様! 魔王のいうことを信じるのですか!? 魔王は人間を滅ぼそうとする存在です! そのような存在の言葉など!」
「進化の秘術が魔物を穏やかにできるということは、魔物を凶暴にさせることもできるのではござらんか!?」
「ええと、その……」
「「フィーネ様(殿)」」
「ああ、もう! 二人で同時に喋らないでください」
「あ……」
「申し訳ないでござる」
「じゃあ、クリスさんからどうぞ」
「はい。過去に出現した魔王は人間を滅ぼそうとしてきました。魔王は倒すべき敵のはずです。その証拠に、魔王は神に導かれし勇者によって例外なく倒されてきました。今代の魔王だってそうなるはずです。そもそも、進化の秘術はブラックレインボー帝国を狂気に導きました。これこそが魔王が人間に仇なす者である証ではありませんか?」
「うーん、どうなんでしょうね? 私は少なくともベルードの言っていたことは正しいと思いました。魔物と瘴気の話、魔王の役割や瘴気で狂ってしまうという話は今まで私たちが見てきたことと一致していると思います」
「え?」
「だって、瘴気に触れると人間だって粗暴になるじゃないですか」
「それは……」
「それに、教皇様が言っていたじゃないですか。罪を犯した人間の成れの果てが魔物で、倒して浄化してあげなきゃいけないんだって」
「……」
「あと、魔王警報の話も辻褄が合っていると思うんです。だから私たちが魔物たちを駆り立てている瘴気を浄化してあげればいいって思うんです」
「それは、そうですが……」
「さらにベルードが進化の秘術で魔物たちを大人しくしてあげれば、きっと平和な世界を作れるんじゃないかって思うんです」
「フィーネ殿。だがブラックレインボー帝国の悲劇はどうするでござるか? ベルード殿は違ったとしても、進化の秘術を悪用しようとする者がいれば話は別でござる」
「それは……」
この問題には答えが出せていない。
ベルードは知らないと言っていたし、あの目は本当に知らなかったのだと思う。
だが、ベルードの部下まで同じことを考えているとは限らない。それに国民を使って人体実験をして、さらに侵略までしたのはアルフォンソという人間だ。
そう考えると、結局のところ人間が悪いだけの気もする。
「人間をあのような兵に変えてしまえるのであれば、より強大な魔物を作り出すこともできるのではござらんか?」
「そう、かもしれませんが……」
「拙者は、あまり信用しすぎるのもどうかと思うでござるよ?」
「……」
その可能性は考えていなかった。言われてみれば確かにそうだ。
「そんなことよりっ! 早くご飯にしましょうよ!」
「え?」
「……それもそうでござるな」
暗い雰囲気になりかけたが、ルーちゃんがそれを一変させてくれた。
「そうですね。今日の夕食は何にしましょう?」
こうして答えの出ない話は終わりにし、久しぶりに四人で囲む楽しい食卓の準備を始めるのだった。
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第十章は普段よりも少し長めとなりますが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
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