第九章第39話 残されし者たち(7)

2021/12/13 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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 森の中からあふれてくるオーガを迎え撃つため、クリスティーナたちはオリク村の北に広がる平地の中ほどに陣取った。


「そろそろ来るでござるよ」


 その声と同時に森の中からオーガの巨体が姿を現した。


「ルミア!」

「はいっ!」


 クリスティーナの指示に合わせてルミアは矢を放った。誤射フレンドリーファイアすることなく真っすぐに飛んでいった矢は、森から出てきたオーガの顔面をを正確に射貫いた。


「次っ!」


 もう一射、さらにもう一射と矢を放ち、百発百中の精度でオーガを射貫いていく。


「腕を上げたでござるな」

「もう【弓術】のレベルは 3 ですからねっ! 強くなったあたしを姉さまに見てもらうんですっ!」

「そうでござるな。そろそろ、拙者も突っ込むでござるよ!」


 オーガの群れが近づいてきたところでシズクが飛び出していく。すさまじい速さで群れの中へと突っ込んだ彼女は背丈が四メートルはあろうかというオーガの太ももを次々と斬り飛ばし、その動きを奪うことで群れを切り裂いていく。


 シズクが駆け抜けた後には片足を失ったオーガたちが地面に倒れ込んで大量の血を流している。


 そうしてシズクの突入によって混乱したところにルミアが矢を射掛け、その数を少しずつ減らしていく。


 だが、いくらシズクが倒しているとはいえ多勢に無勢だ。一部のオーガは矢を射掛けてくるルミアを狙って突進してきた。


「ルミア! 来たぞ!」

「はいっ! マシロ!」


 召喚されたマシロが風の刃を放って突っ込んできたオーガに深手を負わせ、それによって動きの止まったオーガの太ももをクリスティーナが斬り飛ばした。


 支えを失ったオーガは鮮血を噴き出しながら地面に倒れ込み、クリスティーナは追い打ちをかけて確実に息の根を止める。


「ルミア! 少しずつ後退しろ! 距離を詰められるな!」

「はいっ!」


 ルミアはクリスティーナを盾にするように動きながら少しずつ村へと後退していき、クリスティーナもルミアのところにオーガが到達しないように立ち回っていく。


 そうしている間にも、群れの中に単身飛び込んだシズクは次々とオーガを倒していく。戦い始めてからまだ十分と経っていないにもかかわらず、オリク村北の平地はオーガたちの血で赤く染まっていたのだった。


◆◇◆


 そのまま戦い続けて数時間が経過した。すでに数百匹単位のオーガの群れを幾度も撃退したクリスティーナたちではあったが、その顔には疲労の色が濃く浮き出ていた。


「いやはや。キリがないでござるな」

「ああ。これではまるで魔物暴走スタンピードだな」

「だが、森から出てくるオーガーはいなくなったでござるな」

「そのようだな。まだ油断はできないが、とりあえずは村に戻って休憩するとしよう」

「はい~」


 ルミアは疲れを隠そうともせずに少し気の抜けた返事をし、オリク村へと向かって歩きだす。


 そして村の入口付近に戻ってきたところで事件が起きた。


 なんと村の門は固く閉ざされており、さらに村の中から石が飛んできたのだ。


 投げられた石を弾いたクリスティーナは怒りをあらわにする。


「どういうつもりだ!」

「来るな! お前らが来たらこの村にも魔物が来るだろうが!」

「そうだそうだ! お前らのせいで魔物が襲ってきてるんだ! 出ていけ! この疫病神!」


 村の中から次々と浴びせられる罵声にクリスティーナはショックを隠しきれない様子だ。


「ば、バカな! 私たちが戦わなければお前たちはオーガの群れに踏みつぶされていたんだぞ!」


 そう反論するも村人たちに聞き入れる様子はなく、返事は石を投げつけることで行われた。


「お前たち!」

「クリス殿。もう、よいでござるよ。ここまでされて、守ってやる理由はないでござるよ」


 シズクは首を軽く横に振ると、クリスティーナを諭すような口調でそう言った。クリスティーナはそれに対して返す言葉がないようで、無言のままじっと俯いている。


「クリスさんっ! シズクさんっ! また来ますっ!」

「はあ。休ませてくれないでござるな」


 シズクはうんざりした様子でそう呟くと真剣な表情になった。


「クリス殿!」

「あ、ああ」


 シズクに喝を入れられたクリスティーナはようやっと返事をすると、北の森のほうへと向き直る。


 すると森の中から五匹のオーガが現れ、そしてオリク村へと向かって歩いてくる。


「うわぁぁぁぁぁ。魔物だ!」

「おい! 何とかしろ!」

「そうだ! お前らが呼び寄せた魔物じゃないか!」

「そうだそうだ!」


 口々に浴びせられる罵声にルミアは不快感をあらわにする。


「なんなんですか? この人間たちは! 諦めて自殺しようとしていたくせにっ!」

「うるせぇ! お前らさえ来なければ!」


 再び投げられた石はルミアの顔面を目掛けて飛んでくるが、クリスティーナがそれを弾いてルミアを守る。


「いい加減にしろ! 貴様ら! オーガの前に私が斬ってやろうか!」


 クリスティーナの怒りを受けて村人たちはそそくさと逃げ出し始める。


「あんな奴ら、助けなくて良かったんですよっ!」


 吐き捨てるように言ったルミアの言葉を否定するものは誰もいない。


「もう、いいでござるな? あれを倒したら、拙者たちは離脱するべきでござるよ」

「……ああ。そうだな」


 クリスティーナは悔し気な表情でそう答えると森から出てきたオーガを睨み付けた。


「ああ、もうっ! あいつらなんて、ここから狙撃してやりますっ!」


 ルミアはそう言って遥か先のオーガに狙いを絞る。


「ま、待つでござる! ルミア殿! こんな距離からでは!」


 狙いすました矢が弓から放たれる!


 その矢はオーガを寸分たがわずに射貫く……などと言うことはなく東の大空に向かって飛んでいったのだった。


「今日……一番でござるな……」

「むうっ!」


 シズクは額に手を当てて呆れ、それに抗議するかのようにルミアはむくれてみせる。


「拙者が出るでござるよ!」


 シズクはすぐに切り替えてオーガたちへと向かって突撃していく。


 一方のクリスティーナは、矢の消えた先を複雑な表情でじっと眺めていたのだった。

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