第九章第25話 収穫

2021/08/02 誤字を修正しました

2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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 私がこのアイリスタウンにやってきて数か月が経過し、気温も随分と上がって夏と言っても差し支えない季節となった。


 そんな汗ばむ陽気の中、育てていた芋がついに収穫のときを迎えたのだ。


「すごいゴブ! 芋ゴブ!」

「フィーネのおかげだっち」


 口々に私を称賛する言葉をかけてくれるが、私は大したことをしていない。恩恵があったとすればそれはリーチェのおかげだろう。


「私は何もしていませんよ。それより、早く収穫してしまいましょう」

「アタイに任せるズー」


 そう言ってミミーが土をどんどん掘り返しては丸いじゃがいものような見た目のお芋が掘り出されていく。


「オレッチもやるっち」


 アルベルトもその根を地面に伸ばしてお芋を掘り出してくれる。


「私も手伝いますよ。よいしょっと」


 茎を持って引っ張るとそのままずるずると鈴なりになったお芋が出てきた。


 うん。何だか育てたお芋を収穫するのって満足感があるね。


「ゴブもやるゴブ」

「お、お、お、おでも……」


 こうしてみんなで力を会わせて芋堀をし、気付けばあっという間に収穫が終わっていたのだった。


◆◇◆


 その夜、私たちは初の収穫を祝ってお芋パーティーをすることになった。


 畑仕事の疲れを温泉でさっぱり流して気分も乗ってきた。今夜は楽しくなりそうだ。


「フィーネ。乾杯の音頭を取ってほしいゴブ」

「ええ? 私がですか?」

「そうゴブ。フィーネのおかげで芋が収穫できたんだゴブ」

「はあ、わかりました。それじゃあ」


 私はハーブティーの入ったコップを持って立ち上がる。もちろん、みんなの持っているのもハーブティーだ。この村ではお酒を作っていないからね。


「皆さん、お疲れ様でした。皆さんのがんばりのおかげで今日、こうしてお芋を収穫できました。今日はご馳走です。たくさん食べて、楽しみましょう。乾杯」


 すると皆も一斉に「乾杯」と言ってくれた。ポチは「ワンワン」と言っているが、あれはきっと「乾杯」と言ったつもりなのだろう。


 食卓にはたくさんの料理が並べられている。


 ふかしたお芋にみんなの大好物になった目玉焼き、それから今日のためにさばいたゴンザレスの育てた豚肉の豚は丸焼きにした。それから森で採ってきた食べられる野草のサラダに魚のスープと魚の塩焼きだ。


 ちなみにこの魚は私が崖下の岩場に行って獲ってきたものだ。色々な種類の魚が交ざっているが、魚の名前はどれもわからない。


 魚を獲った方法は単純で、潮の満ち引きを利用した。満潮のときに水が出ていくことしかできない結界を張って、干潮になったら取り残された魚を捕まえるという寸法だ。


 これは私がいないとできないが、海は危険も大きいのでみんなでもできるやり方はまだかんがえていない。


 だって、あんなに高い波が打ち寄せているのだ。無理をして魚を捕まえようとしたらきっといつか事故が起きてしまうだろう。もしそんなことになったら、きっと私は後悔すると思うのだ。


 だから、危ないことをしてほしくないので降りる階段も作らなければ魚を捕まえる網や漁船を作ることもしていない。


 まあ要するに、もうこの子たちに情がわいてしまったということなのだろう。


 そんな話はさておき、まずは魚のスープから頂こうかな。


 私はスプーンで掬うとスープを口に運ぶ。


 うん。我ながら美味しくできた気がする。難しい味付けはできないので塩味のスープだが、じっくり煮込んだおかげかお魚のうま味が染み出ていて美味しい。磯で獲れた魚だからかはわからないが、ほんの少しだけ磯臭い香りもする。だがそれも気になるほどではなく、それはそれで逆にワイルドな感じがして良いかもしれない。


 上品なスープも美味しいけれど、こういうスープもまた良いものだよね。


 私は続いてサラダを口に運んだ。野草だけれども、それほど苦味がないためすっきりと食べることができる。ドレッシングがないのでサラダだけを食べ続けるとは少し味気ない気もするが、この感じであればもしかすると豚の丸焼きと一緒に食べると良いかもしれない。


 そう考えた私は豚の丸焼きをひとかけらもらって口に運んだ。


 ゴンザレスが丹精込めて育てた豚のお肉は特有の臭みがほとんどない。それでいて柔らかくて、噛めばしっかりと肉汁があふれ出てくるではないか!


 それでいて適度に脂が乗っているので満足感もしっかり得られそうだ。


 ここで野草サラダを食べると……うん! やっぱり思ったとおりだ。ほんのりと苦味のある野草が脂のこってり感を中和してくれて、これは食が進みそうだ。


 本当ならもうひとかけらお肉を、と言いたいところだが残念ながら私は小食なせいであまりたくさんは食べられない。


 後ろ髪を引かれつつも、今度は塩焼きに手を付けることにする。


 私は焼きたてで熱々の魚をほぐしては口に運んだ。磯の香りと表面の焦げた香ばしい香りが広がり、その身は噛まずともほろりと崩れていく。それからすぐに魚のうま味と脂、そして表面に振った塩味が口の中で見事なダンスを踊りだす。


 うんうん。やっぱり新鮮なお魚は塩焼きにするだけで美味しいね。シンプルイズベストとはまさにこのことだろう。


 あとはいつもの目玉焼きとふかし芋を食べ、ごちそうさま。


 ふと顔を上げるとみんなが本当に嬉しそうに、そして楽しそうに食事をしている。


 うん。やっぱり色々と手伝って良かったな。


 ただ、あんまりこうしているとこの村を離れ難くなってしまうかもしれない。


 さすがにそうなってしまうとまずいのでどうにかして外部と連絡を取る手段を見つけたいのだが……。


 ところで頼みのアイリスさんはこの数か月間で一度も来ていないのだけれど、一体どうなっているんだろうね?

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